第23話 鎖3
ファイアは口を開けたものの、言葉が出てこない。すると、ミラは壊れそうな横顔を見せながら小さく微笑んだ。
「なんてね。」
ファイアの頭はミラの言動に混乱する。ミラは小さくかすれた声で続ける。
「ファイアさんが無事でいてくれて良かったです。ファイアさんだけでも生きていて…本当に良かったです。」
「え…。」
ミラはゆっくりとファイアの側に近寄って、もう一度、壊れそうな微笑みを見せる。
「ファイアさん、少しゆっくり話しませんか。」
「ああ。」
ミラはファイアの返事に頷くと、駐屯所の門をくぐった。これに焦ったのはファイアである。
「おい、中には兵士がいるんじゃ。」
ミラは微笑みながらこっちへ来いと手を振る。
「大丈夫ですよ。さあ、早く。」
(いつも怖い顔をしていたミラが丸くなった。あんなに笑みを浮かべる女の子じゃなかったのに。)
ファイアはぼんやりとこんなことを考えながら、ミラの後を追って門をくぐった。
*****
2人は駐屯所の裏手にある広場の隅に腰をかけた。駐屯所時代にファイア、ミラ、シェン、パジェの4人でいつも訓練に励んでいた場所である。ファイアは複雑な思いでこの広場を見渡す。
「ファイアさん、いつのまに“英雄”になるような活躍をしたんですか?」
少し重たい空気の中、最初に口を開いたのはミラだった。
「大真面目で少し抜けているところもあって、でも王国が大好きで。そんなファイアさんが今の位置にいることが少し可笑しいです。どんな手を使ったんですか?」
ファイアは上手い答えが出てこない。返答に困るファイアの表情を見て、ミラはまた笑う。
「…秘密ならいいです。無理には聞きません。」
そんなミラを見て、ファイアは前よりもミラの性格が丸くなっていると感じたのは間違いじゃないと思った。
「話を変えます。私、“英雄”の1人、フーガンさんに御礼を述べたいんです。」
「フーガンさんに?」
「はい。彼は私の命の恩人なので。」
ファイアは突然出てきたフーガンの名に驚いた。
「実は私も先の遠征軍に選ばれていまして、ハークシーで戦いがあった時にあの街にいたんです。…獣人族が街に入ってきて、ハークシーの人達を連れて逃げている時に獣人に追い詰められました。その時に助けてくれたのがフーガンさんでした。」
(フーガンさんが…。そんな事をしていたのか。)
ファイアは優しい笑みを浮かべ頷く。
「分かった。フーガンさんに伝えておく。」
「ありがとうございます。」
ミラもファイアにつられるように柔らかい笑みを浮かべ、感謝の気持ちを伝える。
「でもびっくりしました。王国軍の服は着ていないのに凄く強くて…。あの人は誰だろうと思っていたら、まさかこんな形であの人の名を知って。フーガンさんなら英雄と呼ばれていても納得です。」
そう言ってミラはまた笑った。可愛らしく笑うミラはファイアが知っていた女の子とは別人であると思えるほどであった。でも、その表情を見るたびにファイアの心の中では引っかかるものがあった。
「なんでそんなに私の顔をじっと見てくるんですか、ファイアさん。」
「…ミラ。何でそんなに壊れそうな顔をしているんだ?」




