第23話 鎖1
ハーク王国の都ハークグランは今日も騒がしかった。街を歩く人々の顔は異様にイキイキとしている。この狂喜ともいうべき雰囲気はここ1カ月続いている。
そんな人々の顔を窓越しに見ながら小さく舌打ちをする男がいた。
「まだ戦いの最中で前線の連中はピリピリとしているだろうに暢気な奴等だ。」
新聞を覗きこむように見ていたファイアが顔をあげる。
「フーガンさん。また遊撃隊の記事が大きく載っていますよ。」
ファイアは少しげんなりとした顔をした。
「クイでの戦いからどれだけ日が経ったと思っているんだ。もう30日は超えている。中央はいつまで小さい勝利を語って民の気を惹きつけるつもりだ。それに簡単に乗っかる王国民も大概だが。」
フーガンの口調からは不機嫌な感情が強く伝わってくる。
「30日…。」
ミニカが小さく呟く。フーガンとファイアの視線が固まる。
「くそ。何故、俺たちはいつまでもこんな建物の中に閉じ込められなくちゃいけない。」
フーガンはそう言うと荒々しく酒を飲む。部屋には重たい空気が流れる。
その時、部屋のドアが開いた。
「これまで闇の中を自由に飛びまわってきた遊撃隊の翼をもいでしまう形になってしまい申し訳ないね。」
遊撃隊の長として隊を束ねるカイブが白い髭を撫でながら部屋に入ってきた。
フーガンはカイブの顔を見るなり、竹筒をテーブルに置き、彼の側に歩いていく。
「カイブ隊長。我々はこれまで自由に動かせていただき、王国が望む結果を出し続けてきた。それはこれからも同じではないですか?」
「確かにフーガン君の言う通りだよ。それはこれからも変わらない。そして、今、王国が君たちに望んでいるのは、ハークグランに留まり“英雄”として居てくれることだ。」
フーガンの眉間にしわが寄る。カイブはフーガンの表情を見た上で、さらに言葉を付け加えた。
「やはり君たちは結果を出し続けてくれる。国王様も感謝しているよ。」
フーガンはやるせない笑みを浮かべた。カイブはそんなフーガンの肩を叩き、窓から外を眺めはじめた。
「…そういえば獣人と王国軍が交戦したそうだよ。一時全く姿を消していた獣人がまた現れ始めたみたいだね。」
「獣人と交戦?」
ミニカが慎重に聞き返すと、カイブはゆっくり頷いた。
「ああ。それも場所が西街道から大きく外れていたみたいでね。フセ山脈でも南の外れも外れ。カヤの郊外に出たらしい。」
(カヤ。)
その地名を聞いた瞬間、ファイアの心臓がドクリと動いた。それまで床を見つめていた視線がカイブの横顔に移る。
「200人の騎馬隊を送ったらしいけど、無事に帰陣できたのはその半分にも満たなかったみたいだ。」




