第21話 凱歌4
出発の準備といっても荷物はそう多くない。すぐに支度を終えるとファイアは兵士に声をかけ、部屋を出る。既にフーガンとミニカが準備を終えており、廊下でファイアを待っていた。
フーガンがファイアの顔をじっと見つめる。ファイアはフーガンの視線に気づいて、小さく頷いた。
「皆様、揃いましたのでノアー隊長の部屋まで案内します。」
兵士の声が耳に入るやいなやフーガンは視線をはずす。
ノアーは白髪頭を掻きながら3人を出迎えた。
「おはようさん。昨日はよく休めれたかい。私たち第9隊がいつも以上に警備をしっかりと頑張ったのだが。」
「ええ、それはもう第9隊の皆様がしっかりと見張って頂いて、よく休むことが出来ました。心遣いありがとうございました。」
フーガンが全く心がこもっていない口調で感謝の言葉を述べる。ノアーは鼻を鳴らしながら言葉を返す。
「それはそれは、良かったよ。まあ、早速だが君たちは今日の夕刻前にはハークグランに着く予定だ。久々の都だ。楽しみだろう。」
「はい、もうハークグランには帰れないと思っていましたので。」
「そうだろうね。おや、君たち槍はどうしたんだね。王国軍の兵士には必須の武器なのに。」
ノアーが少しわざとらしい声を出す。
「槍は…、槍はハークシーで獣人族と交戦する中で紛失してしまいました。」
「それはいけない。私が用意してあげるから持っていきなさい。…ではハークグランまで気をつけて。」
3人はノアーから手渡された新しい槍を持ち、門の外で待機していた馬車に乗り込んだ。
「昨日の馬車と比べてやけに豪華な馬車だな。やっぱり待遇がいいのか悪いのか分からん。」
フーガンが思わず言葉をこぼしてしまう程、綺麗で煌びやかな馬車がハークグランに向けて走り始めた。
*****
ロセとハークグランは1日もかからずに移動できる距離にある。ましてや、王国軍の優れた馬が引く馬車である。空が茜色に染まる前にはハークグランの城壁が見えてきた。
「ハークグランの城壁だ。…帰ってきたんだ。」
ファイアが馬車から身を乗り出して外を見る。フーガンとミニカは黙っているが、都の城壁を見つめるその目には深い感情がこもる。
ハークシー長官であるトルーマンの案件を指示されてから、既に長い月日が経っていた。その間に150年の沈黙を破るかのように獣人族が出現し、瞬く間に王国を進撃。何度も命が途絶えそうになり、もう2度と見ることはないと思っていた王都の城壁である。言葉では表すことの出来ない感情が湧き起こるのは当然かもしれない。
馬車がついに西門の前まで到着した。しかし、すぐにその門をくぐることはせず、閉じられた西門の前で馬車が止まる。
「どうしたのかしら。」
ミニカが不安気な声を出す。
すると、急に城壁の中から大きな声のうねりが聞こえてきた。
「門の中の様子がおかしいな。」
その時、3人が乗っている馬車の上に被せられていた布が取られた。太陽の光が降り注ぐ。そして、馬を操っていた兵士が3人に声をかけてきた。
「これから西門をくぐります。槍を持ってください。」
「は?槍?」
「はい。いいから持ってください。持ちましたね。それでは門をくぐります。」
3人は言われるがままに今朝ノアーから渡された槍を手に持つ。それを確認すると兵士がどこかに合図を送った。西門がゆっくりと開く。
「なんだ。」
ファイアは思わず目を丸くした。
西門の先には人の列が何重にも出来ており、皆、王国のシンボルである竜があしらわれた旗を振りながら歓声をあげていた。
「獣人族を打ち破った英雄が凱旋してきたぞ。」
「たった3人で獣人どもを蹴散らした英雄だ。」
フーガンは歓声をあげる市民の声を聞き舌打ちをした。
「英雄だと?中央め。…やられた。」
(俺たちは獣人族に勝利した英雄に仕立て上げられた。敗戦に次ぐ敗戦で孤高の山どころかハークシーまで失ったことに対する国民の不満を晴らす駒にされた。)
ファイアは異様な雰囲気に完全に飲まれていた。ミニカは中央の狙いに気がついたのか険しい表情を浮かべている。
(この大きな流れにのみ込まれてしまった以上、これまで通りに自由に動くことができなくなる。)
フーガンは自分たちが置かれた“英雄”という位置に苛立ちを隠せず、再び舌打ちをする。しかし、馬車はフーガンの気持ちなど無視するかのように大観衆の中をハーク・マルク像が立つ槍の広場を目指して走っていた。




