第21話 凱歌3
(クイでの戦いから気がつけばロセに連れてこられて、何故か王国軍に監視をされている。)
(ケイの姿は見えず、状況が全く掴めない。)
(そして、フーガンさんは“一人で見ろ”とハンカチを渡してきた。)
ファイアは1人部屋に座り込み考える。
(この部屋には俺1人だが、今この時も監視されている可能性は捨てきれない。ここで安易にハンカチを開くのは得策じゃない。)
ろうそくの明かりだけが揺れている部屋は薄暗い。ファイアはこっそりとハンカチをズボンのポケットの奥深くに押し込み布団にもぐった。そして、ポケットの中に手を入れる。
(紙…か。俺が気を失っている間にケイと離れ、王国軍と合流した。そこは分かる。これから、遊撃隊としてどう動くのか、そんな事が書いてあるのか?)
ファイアはろうそくに息を吹きかけ火を消す。一瞬にして部屋が暗くなった。
(ハンカチの中は今は見ないほうが良い。)
(そして状況が把握出来ていない今、俺は簡単に口を開かないほうが良いはずだ。余計なことは言わないよう黙っておこう。)
ファイアは自分が置かれた立ち位置から、自らは動かないようにしようと心に決めた。
気がつけばファイアは眠りについていた。昼間にずっと寝ていたが、それでも疲労は極限まで溜まっている。
ファイアが深い眠りから目覚めた頃、ロセの街は朝日に包まれていた。
ファイアはゆっくりと体を起こすと、少し考えるように黙った。そして、扉の前に行き、ドアを開けようとする。しかし、扉は開かなかった。
(…やはり内側からは外に出られないようにしてある。)
「便所に行きたいのだが。」
ファイアの声が室内に響く。すると、扉がゆっくりと開き、兵士がこちらを覗いてきた。
「おはようございます。便所まで案内しましょう。」
(……案内か。)
「ああ、頼む。」
相変わらず兵士は便所の中までは入ってこないものの、こちらの様子を監視するように見ている。
(何故、俺たち遊撃隊が王国軍から監視を受けなければならないのだ。)
ファイアは湧き起こってくる怒りをぐっと堪える。心を落ち着かせるように大きく息を吐く。
兵士に用が終わったことを伝えると、再び部屋に戻された。
ファイアは部屋の中をぐるっと歩き回る。
(覗き穴などは特に見当たらないが。)
何か考えるように目を閉じる。そして、所持していた自身の地図を広げ、その上にハンカチの中に入れられていた紙を重ねるようにして置いた。
フーガンが殴り書きした文字に目を通す。その文を読み終えるとファイアはあらかじめ火をつけていたろうそくに紙をかざす。紙はすぐに灰となって消えた。
ここまで終えるとファイアは再び大きく息を吐く。そして、広げたままの地図を食い入るように見始めた。
(王国軍にはクイにて獣人族と交戦したのは遊撃隊であると説明、ケイの存在は隠す。そして、ケイとは再び合流するべくザジロ盆地より遥か南のカヤをその場所とする、か。)
(…ということは、ケイは今1人で西ハークに残っているということか。あいつ大丈夫だろうか。西ハークは獣人族が闊歩している地域だ。ケイは獣人とはいえ、クイで獣人族と戦った身だ。決して安全であるとは言えない。)
焦点が見ていた地図から合わなくなっていることにも気付かず、ファイアは考える。その時、扉の外から兵士の声が聞こえた。
「失礼します。ノアー隊長がお呼びです。出発の準備を整えたら教えてください。」




