第2話 遊撃隊2
「あなたに会うのは久しぶりね。半年ぶりかしら。」
栗色の髪をした女が柔らかい笑みを浮かべながら男に話しかける。
「相変わらず嘘くさい笑顔だな、お前は。」
竹筒に入った酒を飲みながら男はけだるそうに返答する。その様子に「相変わらず捻くれているのね、あなたは。」と女はため息をついたが、男はそれを無視して酒を飲み続けた。
しばらくすると廊下から足音が聞こえ、その音は2人のいる部屋の前で止まった。男はにっと笑いながら「お、新入りが来たみたいだぞ。」とつぶやき酒を飲みほした。部屋の扉が勢いよく開く。
「2人ともいるな。今日はまず新しく我が隊に入る者を紹介しよう。ファイア・ベル君だ。」
髭面の男に名を呼ばれファイアは一礼をする。
「こちらの男はフーガン君。そしてこちらの女性がミニカ・シエラ君。2人とも優秀な我が隊の兵士だ。」
ざっとお互いの紹介をした髭面の男はファイアに席に着くように促した後、自身も席に着く。
「改めて私がこの隊の長をしているカイブ・イーデンだ。よろしく頼むね。」
カイブは髭に手をやりながら話を続けた。
「さて、ファイア君にとってはいきなりの話になるがね、王の指示に反抗する者が最近いてね。このままじゃ王国が分裂する可能性も出てきた。今回はその危機を取り除いてきてほしい。」
あまりに突然の話にファイアは鼓動が早くなるのを感じた。フーガンとミニカは平然とした顔でカイブの話を聞いている。ファイアはたまらずカイブに問いかけた。
「あの…王国の分裂の危機とは…。その者とは誰なのでしょうか。」
カイブはファイアの問いかけに「うむ。」と頷き髭をなでた。
「ハークシーの長官であるキクス・トルーマンだ。今回の相手は国の大物だけに3人でとりかかってくれ。」
そう言うとカイブは立ち上がり部屋を出る仕草をみせた。
「ファイア君の初陣だね。成果を楽しみにしているよ。」
***
ファイアはフーガン、ミニカと共に竜神参りに行く格好になり済ましハークシーを目指すためハークグランの西門を出た。
(カイブ隊長のあの簡素すぎる指示はなんなんだ。相手の罪も目的も言わず一方的に危機を取り除いてほしい、だと。)
(それにトルーマン長官が王国に反逆することなんて考えられない…。)
ハークシーは王国第二の都市であるが首都ハークグランから距離があるため長官が派遣されていた。その長官がまさにカイブが“標的”として名をあげたキクス・トルーマンである。トルーマン家は150年あまり前の獣人族との争いで武功をあげたとされる名家であり、キクス自身も優れた人物であるというのが世間の評だった。
それ故にファイアにはトルーマン長官が王国に反逆を目論んでいることなど信じられなかった。険しい顔のファイアにミニカが柔らかい声で話しかける。
「どうしたの、ファイア。初めての仕事で緊張してる?」
「なんだ、さっきから静かだと思ったら緊張してたのか。」
腰にぶら下げた竹筒を揺らしながら前を歩いていたフーガンも振り向きファイアを見る。
「…お二人はトルーマン長官が王に背く意志があるという話が本当だと思いますか。」
ファイアの突然の問いに2人は黙った。フーガンは竹筒に手をやり酒を一口飲むと前を再び向いた。
「本当かどうかなんて知りやしない。俺たちは上の指示で動くだけさ。」