第20話 姉妹2
ケイの心は怖いくらい落ち着いていた。これから自分の生が絶たれることを素直に受け入れ、死への抵抗心や生きることへの執着心は微塵も起こらなかった。
(……………。)
しかし、いくら時が経ってもケイは体に痛みを感じなかった。痛みのかわりに温もりがケイの体を包む。
ケイはハッとして目を開ける。
「ケイ姉…、ケイ姉…。」
ライは涙を流しながらケイに抱きついていた。このライの行動はケイにとって予想外だった。ケイの両手はどうしていいのか分からず、宙に浮く。
(ライにこの呼ばれ方をするのは久しぶりじゃな。)
泣きじゃくるライの顔を見ながらケイはふとそんなことを思う。5年前の孤高の山警備隊を襲撃したあの日、今日と同じように泣きじゃくるライに呼ばれて以来だった。どうしていいのか分からず泣き続ける妹を振り切るようにして、族を出て行ったあの日。その時の記憶が鮮明にケイの頭の中に甦ってきた。
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‐5年前、孤高の山にて‐
「ケイ姉、今日は悪い人間を倒してくるんじゃろう。」
7歳になったばかりのライが無邪気な顔でケイに話かける。ケイは幼いながら険しい表情を浮かべ、白いマントを羽織った。
「そうじゃ。約束破りの人間を倒してくる。」
ケイの言葉にライは目を輝かせる。
「ケイ姉格好いい。私ももう少ししたらケイ姉と同じマントを着て戦うんじゃ。」
ケイは少し微笑むとライの頭をなでた。
「このマントは間者の証。ライにはまだ分からんかもしれんが間者はすごく辛いことも多いんじゃ。無理になることもないで。」
ライは首を大きく横に振る。
「辛くてもええ。私もケイ姉みたいになりたいんじゃ。」
ケイは微笑みながら小さく溜息をつくとライの目を見てこう言う。
「そうか。じゃったら、ライがもう少し大きくなったら一緒に戦おう。」
ケイの言葉にライはニーッと笑って大きな声で返事をする。ケイはもう一度ライの頭をなでると、「行ってくる」とだけ言い残し、出て行った。
ライはケイの帰りを心待ちにしていた。しかし、いくら待とうとケイは帰ってこない。陽は傾き、次第に辺りは暗くなっていった。ケイがライの元に帰ってきたのは星空が輝く夜になってからだった。
ふらりふらりと歩くケイに幼心ながら少し違和感を覚えながらも、ライはケイの体に飛びつく。
「う…、凄い血の臭いがする。」
思わず口からこの言葉がこぼれるほど、ケイの体は血のにおいを纏っていた。よく見ると、出て行く時には白かったマントは赤黒く染まっていて、ケイの顔や腕にも血がついていた。
「ケイ姉…、大丈夫?」
ライは全く口を開かないケイの様子が心配になって尋ねる。
「…ああ、大丈夫じゃ。」
ケイはこう一言だけ言い残すと、体からライを引き離した。




