第20話 姉妹1
夜になった。森の中に月光が指し込み、黒い木々がそびえたつ。
そんな森の中でケイは1人、木にもたれながら座り込み月を見上げていた。覇気の無いその表情からは、喪失感と疲労感が漂っている。
(ファイアは大丈夫じゃったろうか。)
マントの中に入れているフーガンから渡された地図をゆっくりと触る。そして、ケイは足に顔をうずめた。
(また、ファイアに、あの3人に会える日は本当に来るんじゃろうか。)
そんな思いばかりが頭を駆け巡る。
(もう寝よう。何も考えれんし、何も考えたくない。)
ケイは目を閉じた。疲れているはずなのに、頭が落ち着かない。様々な感情がケイの眠りを邪魔する。
すると、突如、静かな森の中で枝が折れる音がした。
(誰かがこちらに近づいてくる。)
現実と夢の狭間にいたケイは顔をあげた。
(王国軍の山狩りか…?いや、フーガンはこの山脈の北西に隠れておけばいいと言ってたし、それは違うじゃろう。)
ケイは音がする方に目を凝らす。月明かりが1つの影を映しだした。
(獣人、か…?)
「誰じゃ。」
ケイは低いトーンでその人影に向かって問いかけた。返事は返ってこない。
「もう一度問う。誰じゃ。」
ケイの言葉にその人影は立ち止まる。そして、少しの間があいた後、ケイの前にゆっくりと歩きながらその姿を現した。
「…ライか?」
そこには白いマントを着た女が立っていた。フードを深くかぶっており表情はよく見えない。ただ、そこから伸びる髪と、雰囲気は数日前の夕刻に見たライの姿だった。
「また懲りずに私を殺しにきたんか。」
ケイは力無く笑いながら言う。
ライは無言のまま、一歩一歩ケイに近づく。
(居場所のない私じゃ。この命が消えようとこの世界に何も支障はない。そんな存在。)
(どこか分からない場所で、ひっそりと殺されるのも悪くない。)
(それも私が裏切った妹の手によって殺されるんじゃ。これほど出来た物語もなかなかないじゃろう。)
ケイは何故、自分が笑みを浮かべているのか分からなかった。ただ、ただその笑いは虚しい空虚な笑みだった。
ライはケイの前に立った。そしてゆっくりと屈む。ライの獣の右腕が伸びてくる。
(良い人生じゃった。…最後に“愛”を知れて良かった。)
ケイは目を閉じた。




