第18話 クイの戦い4
(お前を殺す。殺して、死んで責任を取ってもらう。)
苦しそうにしていたファイアに、火事場の馬鹿力というべきか最後の力を振り絞ったというべきか、異様な力が降り注ぐ。
そのスピードと力強さにさすがのタントタンも少し面食らった。
(甘ちゃんのだったはずのこいつがこれだけの迫力を出せるんか。)
「面白いなあ。面白いわ。」
タントタンはニヤリと笑うと、もの凄い勢いで襲いかかってくる剣を避けた。そして、逆に獣の爪をファイアに振りかざす。
「これでどうじゃああ。」
ファイアはこの攻撃をのけ反るようにして避ける。それでもタントタンは間髪入れずに何度も、何度も攻撃をしかけてきた。
「避けるので精一杯のようじゃなああ。」
じりじりと後退していたファイアだったが、その右足で地面を蹴りあげると前に出た。
「死ねええええ。」
不意を突かれた形となったタントタンはとっさに出した左腕に刃を受けた。ポタポタと血が落ちる。
「お前、実は強い男じゃねえか。そういう強いやつは確実に殺しておかんとな。」
タントタンは血が流れる左腕を舐めると、口から血をペッと吐きだした。
ファイアは激しく眉間にシワを寄せ、タントタンを睨みつけながら剣を構える。2人の戦いが始まる前は騒いでいた外野も今は黙り戦いの行方を見つめていた。
異様な緊張感に包まれる中、ファイアが右足を前に出した。それと同時に剣がゆらりと揺れ、ファイアの視界も揺れた。
ドサッと重たい音が静まり返った空間に響く。
「ファイアッ。」
ケイが倒れたファイアにすぐ反応し近くに寄り添った。
タントタンは最初こそ驚いた表情を見せたが、すぐに大きな声で笑い始めた。
「なんじゃこいつ。何もしとらんのに勝手にくたばりやがったぞ。」
そして、笑いが止まらない顔でケイを見る。
「そこをどけろ、ケイ。こいつにとどめをさしてやる。」
ケイはタントタンの言葉を聞くやいなや、唸り声をあげファイアを守るように前に立った。
「そう怖い顔をするな。せっかくの顔が台無しじゃぞ。そう心配するな。ケイも後でこいつと同じ世界に旅立たせてやるけんな。それとも先がええか。」
タントタンがニヤリと笑いながら、一歩、ファイアに近づいた。
その時、タントタンの後ろに立っていたキャパの耳が動いた。そして、大声で叫ぶ。
「上じゃああ。タントタン上じゃああ。」
タントタンがその声にハッとして上を見ると、高見櫓の2階の窓からフーガンが飛びかかってくる姿が視界を支配した。その距離僅か。
ジプが慌てて動き出したが間に合わない。
フーガンが飛び降りた勢いで振りぬいた剣はとっさに避けようとしたタントタンの右肩を捉えた。タントタンの叫び声がクイに響き、そして倒れた。タントタンの体が微かに震えている。
すぐに周りにいた獣人がタントタンの側により、その体を持ち上げて後方へ連れていく。
その光景を目の前にジプの顔が一瞬にして赤くなった。太い獣の腕をぐるりと回す。
「お前。許さんぞ。」
ジプの脅しがフーガンに浴びせられた瞬間、高見櫓の最上階から黒い煙が上がった。煙はみるみる内に太くなり、風に乗ってザジロ盆地の方角へ流れていく。
「なんじゃなんじゃあ。」
「ザジロ盆地にいる王国軍の大軍への合図よ。“獣人族現る、こちらへ向かえ。”っていうね。」
ミニカがそう言いながら、高見櫓の入口から出てきた。
「合図じゃと…。」
「そう。貴方達も見ているでしょ。このクイより東のふもと、ザジロ盆地に王国軍の大軍がいるのを。」
ジプは黙り込んだ。ミニカはさらに続ける。
「王国軍の騎馬隊がもうじきに着くわ。数千の兵に取り囲まれたら、いくら力に優れた貴方達でも苦しいと思うわよ。」
ジプはギリッと奥歯を噛んだ。そして、後ろで介抱されているタントタンを見る。
「野郎ども一旦引くぞ。撤退じゃああ。」
そう周りの獣人に叫んだあと、遊撃隊とケイのほうを睨んだ。
「お前らがワシら獣人族の敵じゃというのは心によぉく刻み込まれた。次に戦う時を楽しみにしとれよ。」




