第2話 遊撃隊1
「あの…大事なお話とは何でしょうか、アイス隊長。」
ファイアはろうそくの火だけが揺れる部屋にアイスと2人きりでいた。駐屯所の裏にある兵士の宿舎の食堂でミラたちと夕食を食べている時に「大事な話がある。」とアイスから呼び出されたためだ。普段はなかなか見ることのないアイスの険しい表情にファイアは戸惑っていた。
「単刀直入に言おう。ファイア、君の遊撃隊への配属が決まった。」
「遊撃隊…。それは初めて聞く部隊ですが…どのようなところなのですか。」
「まずはそこからだな。遊撃隊は王国軍の組織とは切り離された別の部隊だと思ってくれていい。主な仕事は王国を裏から支えることだ。」
「あの…、王国を裏から支えるとは…。」
「ファイア、ハーク王国ではこれまで大きな乱が起きたことが無いことは知っているな。その要因は何だと思う。」
「それは…歴代のハーク王や現在の王ハーク・ジー3世様の政治が良いからだと考えます。」
「うん、そうだな。それもあるが一番の大きな要因は乱の芽を小さいうちに摘んできたことだ。」
「…まさか、遊撃隊とは…。」
ファイアはアイスが言いたいことに気付いた。また同時に1つの疑問がわいてきた。
「…何故私がその遊撃隊に配置されるのでしょうか。」
「私が推薦した。君の優れた剣術と向上心は遊撃隊でも通用する。それに君は遊撃隊の中で活躍するために最も必要な“強い愛国心”を持っている。」
「王国のために頑張ってくれ。」
アイスは大きく開いた目で真っ直ぐファイアを見ている。ファイアはその目の威圧感と話の大きさに少しの恐怖感を抱き、立ち尽くすことしか出来なかった。
***
(遊撃隊…秘密裏に反乱の種になりそうな組織を壊滅させたり、…暗殺…を行う部隊。)
ファイアは兵士の宿舎にある自室に戻ると自身のベッドの上に座り込んだ。
(人を殺したことなんて一度もない、兵士になってからも。そんな自分に務まるものだろうか。)
こんな事を考えながらもファイアには拒否権が無いということは分かっていた。あくまで配置転換の命令だ。それでもファイアの葛藤は続いた。
(「王国のために頑張ってくれ。」か。)
そして夕方にパジェやミラ、シェンと話したことを思い出す。
(俺はこれからも王国のために誇りをもって兵士としての職務を全うしている、なんて胸を張れるのだろうか…)
ファイアは目を見開き天井を見つめながら無理やり笑顔を作る。
(いや、こうなったらやってやるしかない。この王国の景色や国民の笑顔が守れるなら、…その為なら自分の身が汚れようとも構わない。)
ファイアは自身の兵士としての道が深く暗い闇の世界に通じていく感覚に負けそうになりながらも、「王国のために…」と自分に発破をかけながら前に進む事に覚悟を決めた。