第18話 クイの戦い2
ファイアの叫びは戦っていたケイや獣人たちの動きを止めた。皆が高見櫓の入口を凝視する。
「なんじゃ。怖がって見ていた男が出てくるんか。」
獣人の1人が馬鹿にした口調で言う。他の獣人たちもヘラヘラと笑った。
「そう…、関係ないんだ。」
ファイアは独り言を呟きながら、ゆらりゆらりと高見櫓の入口から出てきた。
「なんじゃコイツ。狂っとるぞ。」
獣人たちは完全に見下した視線でファイアを見る。そして、その中の1人の獣人が歩きながらファイアに近づくと爪で顎を持ちあげた。
「臆病者の坊っちゃんはここじゃすぐに死んでしまうで。」
獣人がニヤリと醜い笑みを見せた。
「今から俺の獲物になるんじゃか…、っっ。」
まさに一刀両断だった。ファイアが、それまでほとんど力の入っていなかった右腕を振りぬくと、刃は唸りをあげて獣人の腹を斬り裂いた。獣人の表情がみるみる青くなり、言葉を発することが出来ないまま倒れる。
「おい…、このガキがあああ。」
残りの4人の獣人の内、1人がもの凄い形相を浮かべながらファイアに飛びかかってくる。ファイアは飛び込んでくる獣人に対し、踏み込みながら再び剣を鋭く走らせた。再度、獣人の血しぶきが飛ぶ。
(ファイア…、この短時間の間に彼の心にどういう変化があったっていうの。)
ミニカは苦しそうに立ちあがりながら、無表情で戦うファイアを見つめる。先程からのファイアの変貌ぶりに戸惑いの感情を隠せない。確かに、気弱になり壊れそうになっていたファイアに発破をかけたのは自分だ。だけど、今のファイアは…。
(壊れている。)
全身に狂気を纏いながら、無表情で獣人と対峙するその姿にミニカはごくりと生唾を飲み込んだ。
ファイアの姿に戸惑っているのはミニカだけでは無かった。ケイもまた、ファイアの様子に動揺して動けない。獣人たちの矛先が完全にファイアに向かい、二人は乱戦の外に置いて行かれた格好となった。
二人の獣人からの攻撃を受けながらも、無表情のまま戦い続けるファイアを見ていたケイはハッとした表情を浮かべると、ファイアを襲う獣人の背中に飛びかかっていった。
その様子を見たミニカは、1つ息を吐き、強い風が吹き抜ける空を見上げた。そして、軽く頷くとフラフラと高見櫓の中へ姿を消した。
*****
「タントタン、やはり人間がおったようじゃな。」
キャパの耳がこだます獣人の唸り声とファイアの叫び声を捉えていた。タントタンはニヤリと笑う。
「いくら進んでも人間に会わずに寂しかったが、ようやく楽しめそうじゃ。」
タントタンの横に立っていた獣人が太い首を鳴らす。
「ライからの報告じゃとケイもおる可能性がありそうじゃな。」
「今度は前みたく見逃してはやらんぞ。ケイは俺の獲物じゃから邪魔するなよジプ。」
ジプと呼ばれた大男の獣人は分かっているといわんばかりに、首をすくめニヤッと笑った。
「さあ、久々に人間殺しじゃ。」
タントタンはゆっくりとファイアとケイが奮戦する高見櫓のほうへ歩みを向け始めた。




