第17話 想定の内と外2
「この展開が想定内だという話は他でもしておるんか。」
先程まで鋭い口調だったアクオが声のトーンを1つ落とした。
「まさか。」
エムダは1つ間を取り、言葉を続けた。
「こんな話が国王様に伝われば、ハーク王国の勝利を見届ける前に私の首が飛んでいく。」
ハークシーの陥落および西ハークの喪失の一報は気の短く好戦的な国王ハーク・ジー3世を激怒させた。今のエムダの言葉もあながち冗談ではないほど、中央はピリピリとした雰囲気に包まれている。
「ふっ。それもそうだ。ただ国王様がそんな状態であるからこそ、ワシが直接出向いて戦えという指示が出た。…先に散っていった遠征軍の兵士たちに恥じない戦いをして獣人族を1匹残らず消してやる。」
アクオは力を込めて言う。
「アクオが直接指揮を執る王国軍本隊だ。敗戦は私の想定の外にあるぞ。」
エムダの言葉にアクオは深く頷く。
「…勿論だ。分かっている。」
「それならいい。」
しばし二人の間に無言の時間が流れた。そして、アクオが再び口を開く。
「しかし、獣人族がフセ山脈から出てこないな。」
確かに、破竹の勢いで西ハークを蹂躙していた獣人族が、ここ数日姿を完全に消していた。偵察隊からも何の情報も入ってきていない。獣人族の動向どころか、その存在さえも確認できない日が続いていた。
少し焦りも見えるアクオの表情と対称的にエムダが余裕のある笑みを浮かべる。
「まあ、構わん。この長柵が全て完成するのも間近だ。もう少し姿を隠していてもいいくらいだ。」
そう言うとエムダは再びその立派な髭をさすった。
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「おいおい、非常に良くない状況になりそうじゃねえか。」
フーガンが小さく舌打ちをして剣を抜く。
クイの高見櫓の中層に降りた遊撃隊の3人とケイの表情が固くこわばっていた。小窓から見える景色の中に多くの獣人がゆっくりとクイの街を歩き回る様子があった。
高見櫓からザジロの長柵を見ていた4人はクイに侵入してきた獣人族に囲まれる形となってしまった。
「おい、タントタンはいるか。」
小窓から外の様子を見ていたケイにフーガンが尋ねる。
「ああ。タントタンの姿も見える。」
「そうか。どこに姿を隠していたのかは知らねえが、まさかこのタイミングで出くわすとはな。」
「ただこれを好機と捉えるぞ。タントタンを消す好機だと。」
フーガンが剣を光らせながら他の3人に言う。
「おい、ファイア分かっているのか。」
虚ろな目で頷くファイアにフーガンの声が飛ぶ。
(駄目だ。こいつ、さっきの王国の話を引きずってやがる。)
フーガンはとっさにケイの方を向く。そしてその鋭い目でケイに語る。ケイはフーガンの思いを汲み取ったのか黙って大きく頷いた。




