第16話 黒い盾3
(大嘘つきで約束破り…。)
ファイアの心の中でケイとタントタンが放った言葉がぐるんと回る。
「それじゃっ、それじゃあ…。」
ファイアは高見櫓の柵に頭を押し付けながら顔を歪ませる。
「ハーク王国に義は無いな。」
フーガンが冷たく言い放った。
命を失いかけてもなお、ハーク王国の為に戦おうとしているファイアの心に大きな傷を負わせるには十分すぎる事実だった。
これまでファイアの中にあった強固な愛国心が崩壊していく。確かにケイと出会ってからこれまで中央を疑う事はあった。それでも愛する王国の為にと奮い立ってきたが、ファイアを突き抜けていく事実はあまりにも大きすぎた。
フーガンはファイアの様子を見て、自分の部下の心が折れかかっている事を感じた。だからこそ、静かだが強い口調でファイアに伝える。
「でも俺たちはタントタンを消さなくちゃならねえ。」
「戦いに勝てばいくらでも義は作れる。負けたら全て失う。」
まだ戦わなくてはいけないことを。
「その分岐点に今俺たちは立ってるんだ。」
「下を向いてる時間はねえぞ、お前さん。」
ファイアはゆっくりと二度頷いた。フーガンはそれを確認するとファイアの肩を軽く叩き、東を見るミニカの横に立った。
「その真っ黒な中央がザジロ盆地で大掛かりなことをしているわよ。」
「柵…か。あれは。」
ミニカとフーガンの視線の先にはザジロ盆地に数キロに渡って築かれた柵があった。その柵のそばでは多くの人が柵に沿って地面を掘っていることが確認できた。
「これまで人どころか遺体も見ないと思っていたがそういうことか。」
そう、二人はハークシーからクイに辿りつくまで多くの焼き払われた村を見てきたが、なぜか襲われた人は全く見なかった。その理由が今分かった。
「西ハークの民はザジロ盆地に集められているようね。」
「逃げてきた者をハークグランに入らせず、かつ、王国の守りを固める。良い策だよ。」
フーガンは皮肉を込めたような口調で言う。
「それに、あの建物たちは。」
ミニカが柵から少し離れた場所に立つ建物群を指差した。
「避難民の小屋だろうな。」
「柵をもし突破されても、西ハークからの避難民を盾にして少しでも時間を稼ごうと考えているんじゃないのか、中央は。」
「本当に、王国の黒い盾ね、あれは。」
ミニカの顔が曇る。
「黒い王国の勝利のために動かなくちゃいけない俺たちも真っ黒だな。」
フーガンの言葉はザジロ盆地に吹き下りる風の中に消えていった。




