第16話 黒い盾2
「とりあえず街の中を探してみようか。人か獣人か。何かいるかもしれないしな。」
フーガンの掛け声で4人は別れて街を見回った。しかし、人はおろか獣人さえも街には居ない。交通の要所として活気のあった街は完全に空虚な街となっていた。
(王国はクイを放棄したのか。)
ファイアは誰もいない王国軍のクイ駐屯所を見つめる。クイには多くの兵士が配置されていたはずである。その兵士の姿も見当たらない。
(しかし、クイには獣人と戦った痕跡はない。やはり王国軍が住民もろとも逃げたとしか思えない。)
王国軍は敵前逃亡したのではないかという疑念はファイアに憤りの感情を募らせる。
クイの市街地は大きくない。すぐに4人は落ち合ったが、皆力なく首を横に振る。
「最後はアレだな。」
フーガンが上を見上げながら指すアレとは、クイのシンボルにもなっている高見櫓だった。この高見櫓からはハーク王国の東西が見下ろせる。幸い、普段管理している王国軍の姿が無く、誰でも登ることが出来る状態となっている。
「さて、お邪魔するぞ。」
4人は何個もの梯子を登る。
その最上部に立った時、ファイアは思わず言葉を失った。
(初めて見る世界だ。)
島を取り囲む大海原。その圧倒的な青の世界の広さをファイアは生まれて初めて見た。
「孤高の山…。」
遥か西にそびえたつ孤高の山が見えた。竜神が住む聖なる山は獣人の住処である。その事実を知ってしばらく経つが未だに素直に受け入れられない。
「ほお、これは中央も大きな秘密を抱えてたな。」
ファイアの横でフーガンがニヤリと笑った。
孤高の山のさらに西に微かに土地が見えた。
「私たちの故郷じゃ。」
ケイが静かな口調で西の方角を見つめながら言う。
「中央め。孤高の山が西の端とか言いながら、そうじゃなかったのか。」
「フセ山脈が島の中央だと俺たちは思い込んでいたがそうじゃなかった。本当は孤高の山を中心に人間と獣人が島を二分してたんだな。」
そこまで言うとフーガンはカカッと笑った。
「やっと今回の戦いの構図が見えてきた。獣人どもは大嘘つきで約束やぶりの中央に腹を立てているってことか。」
「約束やぶりって…。」
ファイアの頭の中では孤高の山のふもとでタントタンと対峙した時の台詞が甦ってきた。
(そういえばあの時、タントタンも“約束破り”って言っていた。)
そして、さらに思い出す。
(ザジロ盆地で言っていたよな。ケイは確か“大嘘つきの国王様”って。)
ファイアはケイのほうを慌てて見る。ケイは西の彼方を見つめながら悲しげに微笑んでいた。




