第16話 黒い盾1
4人はタントタンの暗殺を目標に定めた。
「おい、ケイ。その、…大丈夫か。」
ファイアがケイにこっそりと話かける。
フセ山脈の山頂にある高山都市クイを目指して歩く道中。フーガンとミニカが先を歩き、二人が聞いていないタイミングだった。
「何がじゃ。」
ケイが怪訝な顔をする。
「何がって、それはその…。」
ファイアの様子にケイは溜息をつきながら答える。
「前に言ったじゃろう。私はお前の味方であると。ファイアが目指すことは私の目標になる。それが、族を大きく裏切ることでもな。」
ファイアは黙ったまま、二度三度頷いた。
「おい。」
急に話に割って入ってきたフーガンの声にファイアは驚く。遅れていた二人の様子を見に来たようだった。前方ではミニカがこちらを振り返って見ている。
「お前さん達はずいぶんと仲がいいが、今後は気をつけた方がいいと思うぞ。」
「それはどういう事ですか。」
「どういうって言葉の通りだよ。ハーク王国と獣人は戦争真っ只中の敵対関係なんだ。ずっと一緒にいられるわけじゃねえぞってことだ。」
ファイアもケイも黙り込んだ。分かっていた。フーガンに指摘されるずっと前からそのことは分かっていた。特にケイは獣人族を裏切ったという立場上、どちらの世界で生きていくにも苦労しかしないだろう。
「何をやっているの、もう。」
ミニカが痺れを切らしたか3人のもとに駆け寄ってきた。フーガンはファイアとケイに背を向ける。
「まあいい。今は奴を殺すことだけ考えろ。その後、ゆっくり考えても遅くは無い。」
そう言って、再び歩き出したフーガンの背中をミニカが目で追いかける。
「何言われたのか分からないけど、あの人、口下手だから。気にしない方がいいわよ。」
「いえ。」
「フーガンも言っていたけど今は仕事だけに集中しましょう。」
*****
「獣人に遭遇せずにクイに着いたな。」
高山都市クイの門が遠く見えてきた。
ハーク王国中央にそびえるフセ山脈の頂上に位置し、王国東西の境界点であるこの街をどちらの勢力が掌握しているのか。4人はその重要都市に入った。
「焼かれては…いない。」
ファイアはぐるりと街並みを見渡す。確かに建物は以前、訪れた時と変わっておらず獣人族の襲撃を受けた痕はみられない。
「しかし、妙だな。」
フーガンの目が細くなる。
「人が、人が全くいないわね。まるで幽霊の街みたい。」




