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地の竜、空の虎  作者: 遠縄勝
序編
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第1話 竜の国4

 巡回を終えた兵士は夕食の時間までは鍛錬の時間とされている。しかし、実際に鍛錬に励む者は少なく、それについて上も何も言わないため遊びに興じる者が多かった。


 そんな中で4人は駐屯所内で珍しく空いた時間は鍛錬に励む真面目な兵士である。4人は建物の裏手にある広場に向かう。


 シェンは「よーしっ、今日も筋肉をつけるぞ」と笑いながら上半身裸になると、隆々とした筋肉がついた自分の腕を見つめた。


 ファイアは「なら俺たちは槍の練習をしようか」と提案しミラとパジェが頷く。3人が武術に励む中、シェンがホッホッと息を吐きながら腹筋をするというのがいつもの光景であった。


 槍はハーク・マルクが獣人族を破った際に大活躍した武器だとされ、王国軍では最も一般的かつ象徴的な武器であった。そのため兵士は槍が使いこなせて一人前だとも言われていた。3人は槍にみたてた棒を使って汗を流す。


 日が傾いてきた。

 

 ファイアは棒を置き地面にどっと座り込む。ミラとパジェも大きな息を吐きながら座り込む。シェンは木の太い枝につかまって懸垂をしている。


「やっぱり槍はパジェが一番強いな。敵わないよ。誰かに教わったことがあるのか。」


 ファイアはパジェに問いかける。パジェは長い腕を器用に駆使して槍使いがうまい。ファイアは槍の模擬戦でパジェになかなか勝てないでいた。パジェは「剣術じゃファイアに敵わないけどね」と謙遜をして沈みゆく夕日を見つめる。


「王国軍の兵士だった父に教えてもらったんだ。槍を使えないと兵士になれないぞって言われてね。」


(パジェ自身の話が聞けるのは珍しいし、もう少し掘り下げてみよう。)


「パジェの父親が兵士だって初めて聞いたな。父親はどんな人なんだ。」


「厳しい人だった、自分にも他人にも。そして兵士として国に仕えていることをすごい誇りにしていた。…もう死んでしまったんだけどね。」


 パジェは夕日を見つめ続けたまま寂しそうな口調でつぶやくように話した。ファイアとミラは思わず固まってしまった。


「父はハークシー長官管轄下の孤高の山を警備する隊に所属していたんだけどね、僕が16歳の時に警備中に事故死したんだ。」


 パジェは話を続ける。


「僕は父が兵士としてみていた景色を知りたくて入隊した。でも、王国軍は僕が考えていたものとは違っていた。兵士という身分を手に入れさえすれば良いとする人が多い。兵士としての責任や仕事は二の次で楽をすること、遊ぶことばかり考えている人が多い。…誇りを抱いて国を仕えるなんて意識はない。この現実を知った時は率直に悲しかった。むなしかった。」


 ファイアとミラは黙って聞くことしか出来ない。いつの間にかシェンも輪に加わっていたが、彼も真面目な顔してパジェの話を聞いている。パジェはふっと3人の顔を見渡した。


「…でも、こうして君たちに出会えたことは良かった。仕事に真摯に向き合い、自分を高めようと日々努力する君たちに。」


 一瞬の沈黙の後、ファイアが急に立ち上がり口を開く。


「俺はこの国が好きで、この国の風景が好きで、この国の人が好きで、この国のために役立ちたいと思って兵士になったんだ。俺は兵士であることに誇りを持っている。」


「私も入隊した後は軍の実態を知ってショックを受けました。でも怠けているやつらには負けたくないと思っています。」


 ミラもファイアが喋りおえると食い気味に話した。最後にシェンがナハハと笑いながら立ちあがった。


「理想だけじゃ壁にあたることもあるかもしれないけど、せっかくなら高い目標掲げて行こうぜ。そしたら気がついた時にはパジェも父ちゃんが見ていた景色に辿りつけるさ。」


「ああ…。」


 日が沈み、辺りはだいぶうす暗くなっている。

 

 真面目な話をしたせいか場は妙な雰囲気になっていた。しかし、悪くない、むしろ心は暖かく活力がわいてくるように感じる。動機や目標は各々違うだろうが同じ王国軍の兵士として誇りと責任をもって働く。その意志の共有は4人に明日への活力となっていた。


「さあ、晩御飯の時間だ。道具片づけて食堂に行こうぜ。パジェも久々にたくさん喋って疲れただろうしな。」


 シェンがパジェの肩を叩きながら冗談交じりに大きな声を出す。それにつられて周りも笑みがこぼれた。


「ずっと自分の心にあったモヤモヤを話すことができて良かったよ。ありがとう。」


 パジェは少し照れくさそうに笑みを浮かべる。


「それに、このまま無口のままじゃ僕は影になってそのまま消えちゃうんじゃないかと思ってたからさ。」


「おっ、パジェが冗談まで言ってやがる。明日は槍が降ってくるな、こりゃ。」


 4人は軽快な足取りで食堂へと向かっていった。


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