第15話 回帰2
ライが再び襲ってくるのか。それとも別の獣人か。ファイアの鼓動は一気に早くなる。しかし、石壁の陰から姿を現したのはファイアにとって予想外の人物だった。
「さすがに勘だけは鋭いようだな、獣のお嬢ちゃん。」
鋭く細い目。揺れる竹筒。そして力み無く剣を握り立つフーガンがそこにはいた。
「フーガンさん。」
ファイアは思わずその名を叫んだ。何せハークシーで別れてから数日。その生死が全く分からなかった男が生きて姿を現したのだ。
名前を呼ばれたフーガンの視点がファイアを捉えた。その瞳が微かに揺れる。
「…お前さん。そうか、お前…。」
ファイアにはフーガンが少し笑ったように見えた。しかし、その表情もすぐに消えた。
「生きて再会出来たことを喜ぶのはもう少し後だ、ファイア。」
そして鋭い目がケイのほうを向く。
「この獣を倒した後でな。」
「は…?」
フーガンの言葉にファイアはついていけなかった。
「ちょっと待ってください」というファイアの言葉が届く前にフーガンの足が動いた。ケイとの間合いを一瞬で詰めたかと思うと、剣を素早く振りぬいた。
これにはさすがのケイも避けるのが精一杯だった。ケイは体勢を崩し転がる。フーガンはこれを見逃さず、剣を振り下ろした。攻め続けるフーガンに、避けるケイ。この構図がしばらくファイアの目の前で展開された。
(おい、おい。ちょっと待てよ。なんだこれは。)
「フーガンさん、落ち着いてください。どうしてケイに攻撃するんですか。」
ファイアの声もフーガンの耳には届いていないようだった。フーガンの殺気は凄まじくケイに反撃の糸口さえ掴ませない。
「フーガンさん。」
その時、ついにフーガンの剣がケイの体をかすめた。ケイが小さく悲鳴をあげる。
「フーガンさん、俺の話を聞けええええ。」
ファイアが自身でも驚くほどの声に、フーガンの動きが止まった。殺気が渦巻いた瞳だけがファイアのほうを向く。
「なんだお前さん。」
「どうしてケイを殺そうとするんですか。」
「俺とミニカは昨日こいつに殺されかけた。だから斬る。それ以外の理由はないが。」
(昨日どころか、ハークシーからケイは俺と行動を共にしてきたんだ。そんなはずは…。)
そこでファイアの頭の中にライがパッと浮かんだ。
ケイと瓜二つの顔。そして似たマント。ライしか考えられない。
「フーガンさん、それはケイじゃない。フーガンさんを襲ったのはケイに似た獣人です。」
ファイアの必死の言葉にもフーガンの表情は変わらない。
「なぜお前さんがそう断言できる。お前さんはいつのまにこいつらの側になったんだ。」
フーガンはうずくまっているケイの顎を剣先で持ち上げた。




