第14話 茜の訪問者3
ケイが“ライ”と呼ぶ女の獣人が言い放った言葉にケイは一瞬表情が消えた。そして、口角をあげながら低い声でこう言う。
「まあええ。ところでライ、そのマントはどうした。なんでそんな事やっとんじゃ。」
女の獣人“ライ”がマントをさする。
「そんな問いに答える義理なんかないわ。」
そう言うと“ライ”は自身の横に立つ木の幹を蹴りあげ、再び宙に飛んだ。森の中にまで強く差し込んでくる西日を背景にした“ライ”のシルエットがケイに向かう。
「ケイイ。」
ファイアは思わず叫んだ。
ケイは横跳びで“ライ”の攻撃を避けた。木が揺れる。
「ぐっ。」
“ライ”は勢い余って転がった後、立ちあがった。そして、ケイが間合いを詰めてきたことに気付く。だが、気付くのが少しばかり遅かった。ケイの振りかざした左腕が“ライ”の体をかすめる。
その衝撃に“ライ”は思わず転がる。そして、木に体を打ちつけた。
(強い…。)
ファイアはうずくまった“ライ”の姿を見降ろすケイの横顔を見つめた。その呼吸は全く乱れておらず、ケイに余裕があるのは明らかだった。
「そのマントはライには似合っとらん。すぐ脱いだ方が賢明じゃと思うで。」
「うる…さい。族を見限って、それも人間の男なんかに入れ込んだ奴の意見なんか聞きたくないわ。」
“ライ”は苦しそうに立ち上がりながら声を絞り出す。
「そうか。」
ケイはそう言うと左腕に力を入れる。そして“ライ”との距離を一瞬で詰めた。そして、鋭い爪を“ライ”の首筋に当てながらケイは彼女に小声で囁いた。しかし、ファイアにはケイがなんと言ったのか聞こえなかった。
そして、ケイは獣の爪を“ライ”の首筋から離し、そしてゆっくりと彼女から離れた。
(とどめをささない…のか。)
“ライ”は荒い息をしながらケイの背中を見つめた。そして、その視線はファイアに移る。そして、何か言葉をファイアに向けて放った。その声はファイアの耳には届かなかったが、口の動きで彼女の言葉はファイアの目から伝わってきた。
「お・ま・え・の・せ・い・だ。」
と。




