第14話 茜の訪問者2
茜色一色に染まった山中でファイアとケイは今晩の寝床を探す。
ここ最近は岩陰や大木の下で眠る日々が続いていた。最初こそ布団の中で眠りたい気持ちが強かったファイアも、今では野外で寝ることに何も感じなくなっていた。慣れもあるだろうが、体を包む大きな疲れが何も気にすることなくファイアを眠りに誘っているのかもしれない。
木々が生い茂る山中を歩く二人。ファイアがふと視線を右に向けると、その先に大木が見えた。
「おい、ケイ。あそこに良い木があるぞ。」
ファイアは前を歩いていたケイに声をかけた。
「おい…、ケイ聞こえているのか。」
ケイは立ち止まって一点をじっと見つめはじめた。どうやらその視線はファイアが見つけた大木のようである。
それでも、動かないケイを不審に思い、ファイアはもう一度ケイに声をかけようとした。そのファイアの声を遮るようにケイが小さく叫んだ。
「ファイア、伏せろ。」
その声に驚き、ファイアはとっさに身を屈めた。
「なんだ。」
ファイアがあげた視線の先に、何者かがこちらに飛びかかってくるのが見えた。ケイがファイアの前に立つ。その時、その者が右腕を振り上げた。その勢いの中で、鋭利な爪が一瞬光った。
(獣人。)
その獣人の爪がケイをめがけて振り下ろされる。ケイが鋭い反応でその攻撃を避けた。勢いのある攻撃を避けられたその獣人は木を蹴り、2人から少し距離をとった。
急襲してきたその獣人を見ると、ケイと同じように身にマントを纏っている。そして、フードを深くかぶり顔はよく見えないが、その体型は大きくない。むしろ小さい部類だった。
「さすがじゃ。」
獣人が口を開いた。
(女の声だ。女の獣人。)
「なんじゃ、私を消しにきたんか。」
ケイの言葉を聞き、女の獣人はじっとケイを見つめる。そして、かぶっていたフードをとった。その獣人の顔があらわになった瞬間ケイの目が開いた。
ファイアもその獣人の顔に驚いた。そこに立っていたのはケイの顔そっくりの獣人だった。
(ケイと顔が瓜二つだ…。ケイのほうが髪は遥かに短いが…、それでも似ている。長髪のケイだ。)
「ライ…なんか?」
その時、絞り出したような声がケイから聞こえた。女の獣人は冷たい表情を浮かべる。
「お前ライじゃろ。」
ケイがもう一度、女の獣人に問いかけるが、女の獣人の表情は崩れない。
「じゃから、お前は私の妹、ライじゃろうと言っとんじゃ。」
一瞬の間があった。そして、女の獣人がその冷たい表情のまま凍った声でこう言った。
「誰が妹じゃって?私には人間に毒されたような頭の悪い姉なんかおらんで。」




