第14話 茜の訪問者1
燃えゆくハークシーを見ながら獣人族への反撃を誓った日から数日たった。
ファイアとケイはこのまま姿を隠しながら行動することを決めた。今の王国内でケイが獣人だと明らかになれば殺されかねない。さらにいえば、ファイアがここまで生き延びた経過を説明する際にもケイの存在を隠すことは厳しい。二人はそう判断した。
ただ、この大きな戦いの中で二人が出来ることは何なのか。それをファイアは見つけることが出来ないでいた。ハーク王国の勝利のために自分の出来る事は何か。それを考えながらハークグランを目指し、山中を歩く日々が続く。
街道を歩いてもハークグランとハークシーは半月ほどかかる道程である。道なき山中を進むファイアには、いくら歩いてもハークグランに近づいている感覚が無かった。
それでもハークグランに行かなければ、情勢は掴めない。
この日も山中を進んでいると、パッとその視界が開けた。その眼下には小さな村が見えた。
「…ここもだ。」
ファイアがその村を見ながら呟く。前を歩いていたケイも立ち止まり、その村の様子を無言で見つめる。無残にも焼き払われた村。住民の姿は無く、その家屋の残骸だけが残されていた。
「これで5つめだぞ。こんな村を見るのは。」
ファイアが唇を噛みしめながら言う。
「タントタンが族を率いて東に向かっとるのは間違いなさそうじゃな。」
ケイが厳しい目をしながら答える。そのケイの視線の先には山が並々と連なるフセ山脈があった。
「あの男、西から1つずつ町や村を潰しながら、最後にはハークグランを落とすつもりじゃで。」
「…それはさせない。ハークグランを落とされた日がハーク王国の最後の日だ。それだけはさせない。」
「そうは言っても、今の私たちがタントタンに追い付いても勝つことは出来んぞ。」
ケイの現実的な発言に二人は沈黙した。
仮に今の二人がタントタン率いる獣人族に追い付いても数の力からいって勝てる見込みはなかった。それはファイアもよく分かっている。
「…それでも何とかしたいんだ。」
それでも何かしたい。このまま獣人族にハーク王国が蹂躙されていく様を黙ってみていることは出来ない。それがファイアの気持ちであり、大きな傷をおってなお、その体を動かす唯一の原動力だった。
「今日、あの山脈を越えるのは無理そうじゃ。今晩、一眠り出来る場所を探そう。」
ケイはしだいに茜色に染まっていく空を見ながら言った。
ファイアの傷はまだ癒えていない。ここまで歩いてくるのも相当の負荷がかかっているはずだ。ケイはそこをずっと心配していた。気持ちが荒ぶり、自分の体に鞭をうちながら進もうとするファイアを落ち着かせることが今の自分の役割だとケイは考えていた。
「今日はよく進んだ。また明日に向けて休もうでファイア。」
ケイがもう一度ファイアに言う。ファイアは何か言いたそうにしながらも、ケイの言葉に頷いた。




