第13話 炎と無力と優しさと3
ファイアは背中にぬくもりを感じた。ケイが小柄な体をいっぱいに使いファイアの背中を包みこんでいた。
「ファイア…お前が優しい男なのはよく知っとる。」
「責任感が強いのも知っとる。」
「じゃけ、今回の責任を背負いこもうとするんじゃろ。」
「そんな事せんでええ。」
「……。」
ファイアは黙って聞いている。ケイがもう一度、はっきりとした口調で言う。
「そんなに責任を背負い込まんでええ。」
「ううっ。」
ファイアの目から再び涙がこぼれる。ケイは泣き続けるファイアの背中を包みこんでいた。
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ファイアとケイは巨岩にもたれかかり座っていた。ファイアも気持ちが少し落ち着いたのか涙は止まり、遠くの空を見ていた。
「私はファイアに謝らんとおえん。」
ケイは頭を下げた。
「ファイアを守ると言っていたのに、私はあの時少しも動けんかった。すまぬ。」
ファイアは視線を遠くに置いたまま、「ああ」とだけ返事をした。そんなファイアの表情を見て、ケイは俯きながら問いかける。
「ファイア、今何を考えとるんじゃ。」
「何も。」
ファイアからはまた気のない返事が返ってくる。無言の時が二人を包んだ。
「ハーク王国はこれからどうなるのだろうか。」
ふとファイアが小さく呟いた。
「ハーク王国は優しく強い国じゃ。大丈夫。滅びたりなんかせんわ。」
ケイがファイアの独り言を拾い、はっきりとした口調で返す。ファイアはケイの言葉に疑問を抱いた。
「なあケイ。お前は獣人族の女だろ。なんでハーク王国の事をそう言う。お前はハーク王国が、人間が憎くはないのか。」
ファイアの頭の中にタントタンの形相が浮かぶ。タントタンはあの時、ハーク王国の人間への嫌悪感を体全体に纏っていた。
ファイアの問いかけにケイは視線を落とした。
「すごい憎んどったよ、昔はな。人間についての話は良くない事ばかり聞いとったしな。」
「実際に5年前の襲撃の時にはその憎しみが全面に出て、多くの兵をあやめてしまった。」
「5年前のハークシーの件か。」
「ああ。そうじゃ。」
ファイアはタントタンが言っていた事を思い出す。ケイが赤く血に染まった女だったという事を。
「あの日の事じゃ。私はこの左腕で多くの兵を斬りつけていった。ある兵士を殺そうとした時、その兵士がとある名前を呟きながら死んでいったんじゃ。」
「その名前は覚えてないが、短い名前じゃった気がする。その口ぶりから息子の名前じゃと私は察した。」
「その時、思ったんじゃ。今まで敵としか認識してなかった兵士にも家族がいるってことを。当たり前の話じゃけどな。でも、あの時の私の心は大きく揺らいだ。」
「家族がおって、待っている人がおる。そんな兵たちと戦っておるってな。」
「それで私は無性に知りたくなった。今まで憎い存在、敵としか考えていなかった人間がどういった種族なのかを。」
「私は1人で族を飛び出してハーク王国を見て回った。」
ケイがファイアの顔を見た。
「そこで見つけたのがお前じゃ。ファイア。」




