第13話 炎と無力と優しさと2
ファイアが目を覚ましてから一日が経った。二人は巨岩の下で一夜を過ごした。その夜もずっとハークシーの街は燃え続け、夜空は赤く染まっていた。
二人は二日目の夜を迎えようとしていた。日が落ち、辺りは薄暗くなっている。
「ファイア、お前はまだ傷口が閉じてないんじゃ。無理をするな。」
そういうケイの制止も聞かず、ファイアは巨岩の上に登ろうとする。ケイは諦め顔になって、器用に巨岩に登ると、ファイアの手を握り持ち上げた。
「俺はあの後どうなったのかが知りたいんだ。ケイが何も教えてくれないなら自分の目で見たい。」
目を覚ましたファイアは自分が倒れた後、どうなったのかを知りたがった。しかし、ケイはそのことに関しては口を閉ざしていた。いや、喋れないでいた。
巨岩の上からハークシーの街を見たファイアは、目を大きく開き息を深く飲み込んだ。言葉を発するとこは出来ない。
「…ハークシーの街を焼き払ったのはタントタンじゃろう。」
ケイがポツリと喋りだした。
「ファイアに襲いかかった後、タントタンはすぐに私たちの前から消え去った。あの日の夜じゃ。あの街が火に包まれたのは。」
ファイアは膝から崩れ落ち、うなだれた。ケイはそんな姿のファイアにかける言葉を必死に探すが見つからない。
「…遠征軍はどうなったのか知らないか。」
ファイアがうなだれたまま、小さい声でケイに問いかけた。
「私にはわからん。獣人族と戦ったのか、撤退したのか。それさえ分からん。」
「…そうか。」
二人は無言になった。空には星が輝きはじめている。月が大きく明るい夜だった。月明かりと空を包む赤い炎により、二人の顔は夜でもはっきりと映っていた。
「俺が…、俺が無力だったせいでハークシーの街があんな事になっている。」
ファイアは体を震わせながら、力なく悔いの言葉を吐いた。落ちたハークシーを見れば見るほど、ファイアの心に自責の念が押し寄せる。
「戦いを止めると言いながら、何も出来ず倒れて。ハークシーの街を、ハーク王国を戦禍に巻き込んで。」
「遠征軍には大切な軍友がたくさん居たんだ。…そいつらもどうなったのか分からない。」
「ハークシーの街にいたフーガンさんとミニカさんも…。」
「全ては俺が無力だから…。」
ファイアはそこまで言うとうずくまった。岩には涙の染みが広がっていく。
ハークシーの陥落。その事実が目の前にある。この現実からは逃げられない。悲惨たる目の前の現実に、今のファイアはうずくまり泣くことしか出来ないでいた。




