第13話 炎と無力と優しさと1
森の中を顔に大粒の汗を浮かべながら進む女がいた。ケイである。その背中にはファイアが背負われていた。
「ファイア、死ぬんじゃないで。」
ファイアの目は深く閉じられており、返答はない。ファイアの腹には包帯が巻かれている。
「うっ…。」
ケイが思わず膝を崩した。いくら身体能力の優れた獣人といえどもケイは小柄な女の子である。180センチと大柄なファイアを背負って森を進むのには無理がある。それでもケイは体勢を直し、再び歩み始めた。
(もう少し進んだら小さな滝があったはずじゃ。そこまで…、そこまで行こう。)
ケイは歯を食いしばり斜面を登る。
しばらく行くと少し視界が開けた。巨岩がいくつもむき出しになっており、その岩には鮮やかな緑色をした苔が覆っている。そして、その巨岩の間から水が流れ出ていた。
ケイは静かにファイアを横たわらせると、手で水をすくう。
(左手じゃ水を上手くすくえんな。)
いつも左腕に巻いていた包帯はファイアの傷口にあててあり、獣の腕があらわになっていた。それでも、なんとか水をすくう。ひんやりとした感覚がケイの手を包んだ。その水をファイアに飲ませる。その後、自分も水を飲むとケイは座り込んだ。疲労が足にきている。
(ここは涼しい場所じゃな。)
ケイは頭上の木々を見渡した。生い茂る木々が空をさえぎっており、一帯がひんやりとしている。ケイはその木々を何となく見ていると、その一角が空いていることに気がついた。
「なんじゃ、あの空の色は。」
思わず声が出た。
木々が空いた場所から見える空は赤く染まっていた。ケイはその空の色を見るなり、近くの巨岩の上に登った。
「燃えとる。…街が燃えとる。」
眼下には炎上するハークシーの街が見えた。その炎は黒い煙をあげながら街全体を包みこんでいた。
「……。」
ケイの体から力がすっと抜けていく。そして、何も喋れない。見る者を無力にする光景がそこにはあった。
(タントタン…。やりよったか。)
ケイは心を静めるように小さく息を吐いた。
その時、ケイの耳に自分の名前を呼ぶ微かな声が届いた。
「ファイア。目が覚めたか。」
ケイは巨岩から飛び降り、ファイアのもとに駆け寄った。
「ケイ…。」
ファイアは薄っすらと目を開けながら再びケイの名前を口に出した。
「ああ、ケイじゃ。ファイア。ケイじゃで。」
「ファイアの目が開いて良かった。」
ケイは恐る恐るファイアの手を握る。その顔には安堵の表情を浮かんでいた。




