第12話 滴2
フーガンとタントタンが戦い始めてどのくらいの時間が経っただろうか。
タントタンは強かった。獣人特有の優れた身体能力を活かし、あらゆる角度から鋭い爪をフーガンに振りかざしてくる。しかし、フーガンの鋭い目がその攻撃を捉え、ギリギリのところでかわしながら反撃を繰り返す。
二人はお互いに攻め続け、両者とも多くの傷を負うこととなった。しかし、二人とも致命傷となる一撃を繰り出せない。
「やっぱりお前強いんじゃな。まさか、人間が俺とここまで対等に戦えるとは思わんかったで。」
タントタンが荒い息をしながら言う。
「それは俺の台詞だ。ここまで俺の剣を前にして生きているやつがいるとは思わなかった。」
フーガンは左腕を押さえながら返す。フーガンの左腕の衣類は破れ、黒く赤いシミができていた。
「そろそろ決着をつけようか、タントタン。」
「そうじゃなあ、悪くない。」
フーガンは歯を食いしばって剣を強く握る。そして、タントタンに向かっていった。
「あらああああああ。」
普段は冷静なフーガンも気力を全面に押し出し、この一撃に賭けていた。それと、同じタイミングでタントタンも傷だらけの体でフーガンに向かっていく。
両者が交わるその直前、タントタンが体勢を低くした。そして、地を強く蹴った。タントタンの速度があがる。
一瞬、時が止まったかのような感覚が二人を包んだ。鋭い剣と爪がお互いを捉えた。
「っう…。」
フーガンが倒れた。右の脇腹から血が染み出している。
(やられた。)
その思いがフーガンの頭を支配する。
(もう…立ち上がれない。とどめを刺されて終わり…か…。)
フーガンが痛みで顔をしかめているその時、タントタンも倒れていた。
「なんじゃ…、最後の最後まで意地を出してくれよった。」
タントタンも苦しそうな顔をしながら血の溢れでる右腕を見ていた。それでも、タントタンは立ち上がった。そして、地面に倒れるフーガンを確認してからゆらりと彼に近づいていく。
その最中、ハークシーのいたる所から黒い煙があがった。次第に街が赤く染まっていく。
「ふっ。やっとあいつら火をつけたか。」
タントタンが立ち止まり、火があがる方向を眺める。
「お前は寝そべっていて見えんじゃろう。教えてやる。俺の仲間たちがハークシーを火の海にしとる最中じゃ。」
フーガンは言葉を発することが出来なかった。それでもその目には悔しさが映し出されている。
「お前たちが山の木々を切り倒して造りだしたモノを全て燃やし尽くしてやる。」
「そしてここを再び緑の地にしてやるわ。これから先、どれだけかかったとしてもな。」
タントタンは勝ち誇ったように笑う。そして、“遊びすぎたわ”と言うと、フーガンに背を向けた。
「俺と対等に戦った者への情けじゃ。とどめはささんでおこう。」
そしてニヤリと笑いながらタントタンはフーガンに言い放った。
「残りの微かな命の中で、お前たち人間が造りだしたものが消えていくのを眺めながら朽ちていけ。」




