第11話 選択3
男は“ケイ”という名前に鋭く反応した。声のしたほうを見る。建物の屋根の上に1人の獣人が立っていた。住民たちは遅れてその獣人の姿を確認すると再び悲鳴をあげる。
「なあ、お前。さっきケイとか言ったよな。偶然にもその名前の女を知っているんだが。」
男が獣人に向かって話かけた。
「なんじゃ。お前もケイと知り合いなのか。」
「ちょっとな。…男を連れていたとか言っていたが、その男はどうした。」
「あの男も知っとるんか。…そうじゃなあ。」
獣人がニヤリと笑う。
「あの男は地に這いつくばってたなあ。俺によってな。」
獣人が自分の爪を男に見せる。
「…ほう。それは、それは。俺の部下がお世話になったみたいで。…タントタン。」
タントタンはふいに自分の名前を言われ真顔になった。そして再びニヤリと笑う。
「名前を知ってもらっとるなんか光栄じゃわ。」
「しかし、お前があの青臭い主張をぶつけてきた男の仲間とは。これは傑作じゃわ。」
男は小さく舌打ちをする。
「俺にとっては全然傑作でもなんでもねえな。」
そう言うと男は持っていた剣をゆらりと揺らした。先ほど斬った獣人の赤い血が光る。
「なんじゃ。やるんか。」
「俺は口先が不器用なもんでな。こいつじゃなきゃ語れないんだよ。」
そう言い剣を鳴らした。
「面白い。俺は強いやつが好きなんじゃ。」
タントタンも不敵な笑みを浮かべながら答える。
男はチラッと住民たちのほうを見た。
「…その前にこいつらを逃がしてやってくれないか。お前との勝負を存分に楽しみたいんでね。」
「別に構わん。」
タントタンは男から視線を外すことなく言った。
男はミラのほうを見た。
「と言うことだ。早く住民たちを連れてハークシーを出ろ。」
ミラはどうしたらいいのか分からず困惑していた。
「え、でも。」
「いいから早くしろ。住民の避難がお前の、白竜部隊の役目だろうが。」
最後は怒鳴るような男の口調にミラは大きく頷いた。
ミラが住民たちを引き連れて去っていったのを確認して、男は竹筒に入った酒をグッと飲んだ。そして、剣先をタントタンに向ける。
(…ミニカすまない。お前の言った通り、俺は冷静じゃ無かったみたいだ。もし、俺が消えたら遊撃隊が崩壊することも知っていたのにな。俺は遊撃隊を実質引っ張る者としての選択を誤った。)
(でも…この選択に後悔はしてない。王国軍の一兵士として、人間としては当然の選択だろ。)
(これまでもしぶとく勝ってきた俺だ。タントタンを片づけてすぐ合流してやるさ。)
「待たせたな。ここからは遊撃隊、フーガンがお相手だ。タントタン。」




