第11話 選択2
数十人の住民の前に二人の兵士が槍を握って立つ。じわじわと近づいてくる1人の獣人に対して、二人の兵士の腕は震えている。
「ミラ。や、やるしかないのか。」
男の兵士が震える声で女の兵士に話しかける。
「どうやらそのようね、ハスラン。」
ミラはハスランの震える手に視線を送りながら、自身の槍を強く握った。
(今のハスランは当てにならない。私がこの獣人を倒して、住民たちを脱出させなくちゃ…。)
ミラは大きく息を吐いた。自分の背中には数十人の命がかかっている。ミラの眉間が険しくなる。
獣人がニヤリと笑った。そして、体勢を屈めたと思うと、次の瞬間には二人の方向へ向かって駆け出してきた。
「きたあああ。ぎゃあああ。」
ハスランが慌てふためく。
(っつ。来た。)
ミラの目が大きく開いた。
(3、2、1…、うおお。)
ミラが槍を横に大きく振った。獣人が上に避ける。そして、着地後、切り返し腕を振る。
(うっ。)
ミラは辛うじて避けた。金色の髪が大きく揺れる。
(あっ…。)
槍がミラの手から離れてカランと地面に落ちる。
(万事休す…。)
ミラが目を閉じる。
「……。」
(…?私、斬られていない?)
ミラはうっすらと目を開けた。すると、微かな視界の中に獣人に斬りかかった黒髪の男が見えた。獣人は不意を突かれたのか体勢を崩す。
「槍で突けええ。」
黒髪の男がミラに向かって叫ぶ。
ミラはハッとして、落ちていた槍を拾い獣人の胸を突いた。
「ぐっ…。」
獣人がうめき声をあげる。突きが甘かったのか獣人をすぐに絶命させるには至らない。
黒髪の男はすぐに剣を振った。獣人がついに倒れた。後ろで怯えていた住民たちから歓声の声があがる。
「“殺し”をしたのは初めてなのか。」
黒髪の男がミラに話かけた。
(…私の手、すごく震えてる。)
ミラは自分の手を見た後、すぐに男の顔を見る。その男は鋭い目をしているが、表情は軟らかいように見えた。
「まあいい。今は住民の避難が先だ。」
「え、あ、はい。」
「あの男はこっちに来てから怯えっぱなしだからな。もう少しの間、君が頑張ってくれ。」
ハスランのほうを指しながら、男がいう。
「え、なんでそんな事を…。」
ミラの驚いた表情を見て、男は口が過ぎたと独り言を呟くとしゃがみこんだミラを立たせた。
「さあ、早く住民の避難を続けろ。いつ獣人が現れるか分からんぞ。」
男がそう言った直後に、どこからか大きな笑い声が聞こえてきた。
「いやー、お前人間にしちゃ強いな。面白いものを見せてもらったわ。」
「ケイが連れてきた人間の男とは違うな、お前。」




