第11話 選択1
ハークシーの入り組んだ市街地を走る二人がいた。フーガンとミニカである。
「これは間違いないわね。」
ミニカが走りながらフーガンに話しかける。
「ああ。遠征軍が攻めにいく前に獣人族のほうから出てきやがった。」
二人の耳にも獣の低く重い遠吠えが時々飛び込んでくる。
フーガンが眉間にしわを寄せる。
「…ということはだ、あいつがタントタンとの交渉に失敗したという可能性が高いということだ。」
ミニカは下唇を噛みながら、ファイアの名前を呟く。
「こうなれば、この街が戦場になる可能性が高い。そうなる前にハークシーを抜け出すぞ。」
フーガンがミニカに視線を送る。
「ファイアを置いて脱出するのは気が引けるけど、仕方ないわね。」
ミニカの暗い表情にフーガンは小さく舌打ちした。
「こういった事態になった時についての話も昨日した筈だ。」
「それに俺たちが戦場に居てもたいして役に立たない。一度引いて俺たち遊撃隊にしかできない仕事を考え直すことが最良の選択だ。」
「今はな。」
二人はそこから無言になり、目立たないように大通りを避けて進む。路地の隙間から大通りの様子が伺えた。
多くの人が混乱しながら大通りに立ち止まっている姿が二人の目に飛び込んできた。
(住民の避難には白竜部隊が飛び出していったはず。何をこんなに混乱した状況になっているの。)
ミニカはフーガンの方を見ると、フーガンも混乱する住民たちの姿を見ていた。
その時、住民たちの悲鳴があたりにこだました。
「化け物だ。化け物がきた。」
フーガンとミニカの表情が変わった。
(獣人族がハークシーに進入してきたのか。遠征軍は何をしているんだ。)
フーガンの脳裏に数日前に見た宿泊所での遠征軍の姿が浮かんだ。
(アイス…、駄目だったのか。しかし、この状況はどうする。)
フーガンはミニカに合図を送り立ち止まると、建物のかげから悲鳴の起きている方の様子を伺った。見ると、1人の獣人がゆっくりと歩いて住民たちのほうへ近づいているのが見えた。その住民たちの前に立つのは2人の兵士のみである。
「しかも1人は女の兵じゃねえか。」
フーガンは剣に手をかけた。
「フーガン、出て行くの?」
ミニカに言われ、フーガンは止まる。
「この場面に巻き込まれたら、私たちがハークシーを脱出できる可能性はぐっと減ると思うわ。」
「さっき貴方自身が言っていたじゃない。自分たち遊撃隊は戦場では役に立たない。ハークシーを脱出して立て直す、と。」
フーガンは小さく舌打ちをして剣から手を離した。




