第10話 唸る者ども2
いつもは竜神参りの人でにぎわう竜誕の池に向かう道を隊列は進む。道の周囲は木々に覆われており、日中でも少し暗い。
兵士たちの恐怖感が増していく中、隊の先頭を行く大柄の男から熱い声が飛ぶ。遠征軍副大将のデビオだ。兵士たちの士気を少しでもあげようとデビオは槍を掲げながら大声を出す。
しかし、そんなデビオの声のかき消すかのように時々聞こえる低い獣の声。その低く重い声は道を進む程大きくなってきた。
狼煙の上がった場所に隊列が近づいてきた。その場所は竜誕の池のすぐ近くだった。隊の先頭を馬に乗り走っていたデビオは自分の目を疑った。
狼煙の跡と思われる場所のまわりに男が10人ほど居る。皆、立っていたり、座っていたり気ままな姿勢をとっているが、その鋭い目は遠征軍を見ていた。
そして彼らのまわりにはハークシー兵が血を流して倒れている。
デビオはこの状況を察した。そして、唸るように声を絞り出す。
「じゅ、獣人族…。」
その声を聞き、それまで座っていた1人の男が組んでいた太い腕をほどきながら立ち上がりニヤリと笑った。
「よく来てくれたなあ。あんまりに遅いけ、来んものかと思っとたで。」
*****
シェンとパジェは槍を持ちハークシーの街外れにいた。
弓隊が前に並び、その後ろに槍隊が立つ。
獣人族は竜誕の池に向かったデビオ隊を破り、ハークシーまでなだれ込んでくる。これがアイスの読みだった。勿論、温い王国軍のなかでも指折りの熱血漢と名高いデビオが率いる隊が獣人族を撃破できれば言うことは無い。しかし、そう簡単に話は進まないだろうとアイスは考え、二重の構えをとった。
アイスは隊形の指示を出しながら、自ら竜誕の池を向かうことを申し出てきたデビオに感謝していた。チラリと森のほうをみる。
(時々、獣の鳴き声が聞こえてくる。この森の中に獣人族が居ることは間違いない。)
(デビオ…。この状況どう転ぶ。)
しばらくすると森が一気に騒がしくなった。…兵士たちの叫び声だ。
待ち構えるアイス隊に緊張が走る。そして森の中にいくつもの人影が浮かんだ。
「何かくるぞ。」
兵士の誰かがそう叫ぶ。
その影が姿を現した。遠征軍の兵士だ。
この時、アイスは自分の読みが当たったと直感した。
(デビオ隊…敗走か。)
「弓隊、すぐに構えろ。やつらが来るぞ。」
アイスがそう叫んだとき、逃げてくる兵士の背後に黒い影が浮かんだ。その影に気がついた時には遅かった。血が飛ぶ。逃げる兵士は言葉にならない声を叫びながら倒れた。
逃げる多くの兵士が同じように倒れていく。地獄のような光景だった。
そして暗い森の中で鋭い目がいくつも光る。その光はゆらゆらとアイス隊のほうへ近づいてきた。そして、アイス隊の前に姿を現したのはその体を赤く染めた幾人もの男たちだった。




