第9話 染まる3
ファイアはタントタンが言い放った“人間の血に飢えた女”という言葉に衝撃を覚えた。そしてケイを見る。ケイは俯いていた。
「なんじゃ。そこの男の様子を見る限り、過去の事はあまり話してないみたいじゃなあ。」
「教えてやろうか。こいつがどんな女じゃったか。」
タントタンの言葉を聞き、ケイが小さい声で「やめろ」と言う。タントタンはそんなケイの様子を見て、意地悪そうな表情を浮かべた。
「こいつはなあ。ケイはなあ、5年前に調子に乗っとる人間どもを襲った時、一番その腕を赤く染めとったんじゃで。」
ファイアはゴクリと唾を飲み込んだ。
「そうじゃ。こいつが一番人間を殺したんじゃ。あの時、まだ10歳にも満たん女がじゃで。」
「あん時のこいつは―」
「やめろおおおお。」
ケイが叫んだ。ファイアは驚いてもう一度ケイを見る。ケイの腕は震えていた。
タントタンはケイの姿を見て一息つくとファイアのほうを向いた。
「まあこの辺にしといてやるか。女をいじめるのは趣味じゃないけんな。」
「で、お前は何しにこんな所へ来たんじゃ。」
タントタンの鋭い眼光にファイアは一瞬たじろいだ。足が震えている。
「お、俺はハーク王国の使者としてここに来た。」
「ほう。それで?」
「獣人族の頭、タントタン。ここは何とか手を引いてもらいたい。」
ファイアの言葉を聞くとタントタンはすぐに笑いだした。
「面白いことを言ってくれるなあ。手を引けと。ずいぶん上から言ってくれる。」
「先に俺たちを挑発したのはお前らじゃぞ。」
タントタンはニヤリと口を開いたが、目は全く笑っていない。
「俺らの土地に入ろうとしたのはお前ら人間じゃ。それを制裁して何が悪い。ああ?」
ファイアはグッと唇をかんだ。
「その件に関しては申し訳なかった…。」
「申し訳なかったじゃと?そんな一言で済まそうとするんか。ええ?」
「この豊かな山は俺らの縄張りじゃ。それを汚い欲にまみれた人間が踏みにじろうとする。約束破りの堕ちたお前らの王が力で狙っとる。」
タントタンの激しい圧の前にファイアは何も喋れない。
「そんな邪な力を力でねじ伏せることのどこが悪い?」
「…お前の持ってきた交渉は決裂じゃ。」
タントタンは吐き捨てるように言った。
そして次の瞬間、タントタンがファイアに向かって飛びかかってきた。
「ファイアッ。」
ケイが叫ぶ。
ファイアには周りの世界がゆっくり動いているように見えた。そして、自身の体から血が噴き出しているのが目に入った。
「あ…あ…。」
ファイアは崩れ落ちる。霞みゆく意識の中でケイがこちらに向かってくるのが分かった。そして、タントタンの言葉が胸に刺さると、ファイアの意識は完全に消えた。
「地に堕ちたお前らにはその姿がお似合いじゃわ。」




