第7話 矛先4
‘自分を殺せ‘と言いながらケイはゆっくりとファイアのほうへ顔を向けた。普段は大きな目は閉じかかり、呼吸は荒い。
「私を殺せ…。」
ケイがもう一度、ファイアに言う。ファイアは目を開きケイの姿を黙って見ている。そして、一度目を閉じて天を仰ぐとファイアも口を開いた。
「分かっている。」
ファイアは剣先をケイの喉元にあてた。
「…じゃあな。」
ケイは目を閉じ、フッと笑顔を見せた。ファイアは口一文字の表情で剣を振り上げた。そして、剣を振り下ろす。
「……。」
「……。」
「……。」
「…何故じゃ。」
「何故じゃと聞いとるんじゃ。」
ファイアの剣は地面に刺さっていた。ファイアは俯いていてケイからは表情が見えない。そして、何も喋らなかった。
「情けか?情けなんか。」
ケイは苦しそうな声で問いかける。
「何故、何も喋らん。」
「敗者である私への情けなんか。」
ファイアの表情は相変わらず分からない。前髪が風で揺れている。
「…ケイ。お前、なんで泣いている。」
「その涙は死への恐怖か?争いを止められなかった悔いか?」
ケイはファイアの問いに対して目を大きく開いた。そして、目を閉じて小さい声でこう言った。
「…知らん。」
***
アイス・ミルトン率いる遠征軍がハークシーへ入ったのは、ハークグランを発って約1ヶ月後のことであった。アイスはトルーマンと会うため、ハークシー官府へ向かった。
「トルーマン長官、お久しぶりです。」
アイスが頭を下げる。トルーマンは険しい表情でアイスを見ていた。
「…アイス、本当に孤高の山に入り、獣人族と戦うのか。」
「はい。孤高の山への入山許可も国王様から頂いてきています。」
アイスはそう言うと一枚の紙をポケットから出し、トルーマンに見せた。
「今や王国民は150年の時を経て再び現れた獣人族に対し、恐怖の気持ちを抱いています。実際に襲撃のあったハークシーの住民はなおさらでしょう。」
「私たち王国軍はこのハーク王国を守るために存在しています。」
「この時に王国の為に戦わないのなら王国軍など必要ない。」
「王国のためにも、王国民のためにも我々は必ず獣人族を滅ぼす。」
「我々、王国軍は獣人族と戦います。」
アイスは語気を強めながらトルーマンにはっきりとした口調でこう言った。
「…アイス、よろしく頼むぞ。」
「はい。」
アイスは窓の外に見える孤高の山を鋭い目つきで見ながら、力強く答えた。




