第7話 矛先3
ファイアは剣を固く握りしめて構えた。しかし、先ほどのようにすぐに動くことはしない。目を見開きケイの動きを凝視していた。
そのケイも左腕をぶらりとしたまま動かない。白いマントの袖から伸びる獣の腕。その腕の先には鋭い爪が光る。
ファイアは興奮しきっていたが、頭の中は妙に冷静に回っていた。
(さあ、どう来る獣の女。)
ケイの身体能力は人間とは全く比べ物にならないほど高い。そのことはファイアもよく分かっていた。先ほどの槍も人間が相手だったならば避けることが出来ず一突きだっただろう。しかしケイは直前で槍を避けたばかりか、避けた勢いを利用して槍を叩き落としたのだ。
(あいつのスピードや瞬発力には追いつけない。不用意に突っ込んでいけば確実にあの左腕にやられる。)
(だが、この剣の間合いではあいつに近づかなければ斬れない。狙うとするとあのタイミングだ…。)
ファイアはジリジリと剣を構えたまま後ろに下がる。二人の間は少しの距離が生まれた。
ケイはファイアの形相をチラリと見ると俯いた。
そして、一瞬の間があり、ケイは体を沈めた。次の瞬間、ケイはファイアに向かって突っ込んできた。速い。二人の距離は瞬く間に縮んでいく。
(来たっ。)
ファイアは剣を構え直した。
(まだだ。まだ待て…。)
ケイは足に力を入れ、鋭利な爪が光る左腕を振り上げファイアに飛びかかった。
ファイアはこのタイミングを狙っていた。ケイが自分に向かって飛びかかってくるこのタイミングを。
ファイアは剣でケイの左腕を弾くと、そのまま体を斬ろうとした。
その時だった。ケイと一瞬視線がぶつかったのである。
(…泣いている?)
その動揺が剣に伝わる。しかし、ファイアはケイの胸から腹部にかけて剣を振りぬいた。
ケイは小さな悲鳴をあげて地面に倒れ落ちた。うつ伏せで倒れたケイは動かない。僅かではあるが彼女の周りに血が広がる。
(まだ息はある。とどめをさす…。)
ファイアは震える剣先をケイに向けた。刃には血がついている。
その時だった。ケイの微かな声が聞こえたのである。
「私を殺すんじゃ…、ファイア。」




