第7話 矛先1
遠征軍がハークグランを発った頃、ファイアは既にハークシーを目指して西街道を走っていた。
馬で駆けるファイアの心の中では1つの感情が渦巻いていた。怒りの感情だった。
(孤高の山で我が軍の兵士が襲われ多数の死傷者を出しただと。)
孤高の山警備隊襲撃事件、ハーク・ジー3世の布告、遠征軍の派兵。これらの事は当然ファイアも知っていた。何より街道沿いの村々には獣人族に対するビラが多く貼られ、普段はゆっくりとした時間が流れている王国内はどこかピンと張りつめた雰囲気になっていた。
ファイアは左腕を見る。ザジロ盆地でケイにつけられた傷の跡がまだ生々しく残っていた。
(ケイは国王様への伝言は人間と獣人の争いを止めるためだと言っていた。それなのに、獣人から攻撃してくるとは話が違うぞ。)
ファイアは獣人族に対する激しい怒りに燃えていた。
ケイから獣人族についての話を聞き王国に少し不信感を抱いていたファイアだったが、孤高の山警備隊が獣人族に襲われたと知るとそのような感情は吹き飛んでいた。愛する王国の、しかも竜神の住む神聖なる孤高の山を荒らした獣人族に対する怒り。特にその怒りの矛先は白いマントを着た獣人族の女・ケイに向いていた。
(あの獣の女。この前、夜に部屋に来た時にまた会えればいいって言ってたな。次会った時はどうしてやろう。)
***
ファイアはフセ山脈に向かうためザジロ盆地の草原の道へ入った。ファイアにとってこの短期間でこの道を通るのは3回目だ。もう見慣れた光景だった。
ただし、いつもと違う事は通行人がファイア以外誰もいないという事である。ハークシーへの遠征軍が通るということで、村人たちは村に籠り遠征軍が休息できるよう準備しているのだろう、西街道には人1人見かけない。
ファイアが古い石碑の横を通り過ぎた時、1つの人影が揺れた。ファイアはハッと気づき馬を急いで止める。その人影はゆらりと道に出てきた。
「おい。獣の女。」
ファイアが低い声で叫んだ。
ゆらりゆらりと揺れる人影はファイアの言葉を聞き、被っていたマントのフードを取った。
そこには、以前夜にファイアの部屋を訪れた時の表情からは想像出来ないほど悲しい表情をしたケイが立っていた。




