第6話 布告1
首都ハークグランは二重に円状の堀が走っている。堀の一番内側は“中央”と呼ばれており、普段、一般の民が入ることは禁じられている場所である。この中央と呼ばれる場所に国王ハーク・ジー3世が住む館はあった。この館は“国王の館”呼ばれており、ハーク王国の政治もここで行われている。
国王の館が今日は騒がしい。ハーク・ジー3世が国政を行っている奥の部屋に1人の男が入ってきた。鋭い目つきに髭面の男である。
「エムダか。どうかしたのか、そんなに血相を変えて。」
ハーク・ジー3世は王国の№2であるエムダ大公の普段と違う顔つきに驚いた。名門イーデン家の長男であるエムダ・イーデンは冷静で知略に優れていると評される人物である。その男がひどく慌てた顔をしている。
「国王様、…まずはハークシーにて獣人族は警備隊を襲撃したという知らせが入ってきました。」
「トルーマンがやっと動いたのか。エムダの弟の部隊を差し向けて正解だったな。」
「いえ、トルーマンは動いていないと。」
先ほどまでニヤニヤと笑っていたハーク・ジー3世の顔が一瞬にして変わる。
「は…。どういうことだ。」
「…もう1つの知らせが遊撃隊の兵士がフセ山脈で獣人を目撃。その兵士が獣人から国王様への伝言を残されたと。」
「獣人から伝言だと…。なんだ。」
「“いらん事をするな”と言われたそうです。」
それを聞いたハーク・ジー3世は勢いよく机を叩く。
「随分と舐めたこと言ってくれるじゃないか。半獣半人のやつらめ。」
「150年以上前の掟なんて糞食らえだ。俺の代で勢力図を塗り替えてやる。」
激高する国王を見てエムダは心の中で静かに溜息をつく。まだ若いハーク・ジー3世は好戦的な男でたびたびエムダを困らせてきた。
「それではまた。」と言いエムダは奥の部屋を出る。国王の館の中にある長い回廊をエムダが歩いていると1人の男が近づいてきた。王国軍のトップであるアクオ将軍だった。エムダとはお互い長年王国に努める盟友である。
「エムダ、こりゃまた疲れた顔しとるな。」
「アクオか。今回はお前の力を借りるかもしれん。」
「ほう、王国軍の力を借りるとは物騒なことだな。」
「ああ。戦争だ。」
「…獣人族の件か。今、館中が大騒ぎになっとるぞ。」
「しかし、なぜ国王様の考えを止めんかった。エムダなら上手く止めると思ったんだが。」
アクオはエムダに問いかけた。
「…国難の時は外敵を作ると国内がまとまる。そういうことだ。」
エムダの返答にアクアは前を見つめながらつぶやく。
「国難か。…今年は小麦の収穫量が壊滅的だ。それに加えて、国王様の荒い政治に対して民の不満もたまっている。ついには王国の打倒を唱える者も出てきて遊撃隊を拡充したとも聞く。民の怒りが国王様に、そして中央に向くことを恐れているのかエムダ。」
「…そういうことだ。」
そう言うとエムダはアクオの方に見た。
「私はこの後、国王様の布告のことで用事がある。明日は頼んだよ。」
そう言うとエムダは早足で館の中に消えて行った。




