表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地の竜、空の虎  作者: 遠縄勝
序編
16/96

第5話 部屋にて2

「それに護国の竜神が住むと言われてる孤高の山に獣人族が出たんだ。ワシがもし中央の人間であったとしてもそんな話は握りつぶしただろうよ。」


「中央はあの事は事故として遺族には報告しろと言ってきた。生き残った兵士にも事件のことは他言してはならないと厳しく指導しろ、とな。そんな中央が今回、ワシに孤高の山の調査をするよう指示してきた。兵を孤高の山に入れろと。」


 フーガンとミニカは目を見開いた。トルーマンの懺悔にも告発にも似た語りは続く。


「ハークシーの兵は5年前の惨劇を見ている。勿論ワシもだ。再びあの惨事を起こしてはいけないとワシは中央の指示を強く拒否した。何度も何度も。」


「私たちがハークシーに派遣されたのは、王国の指示を長官が強硬に拒否し続けているから…ですか。」


 ミニカが恐る恐る口を開く。その言葉にトルーマンは深く頷いた。


「恐らくそうだろうな。」


「今回の獣人族の襲撃も軍を孤高の山に入れようとしたことが原因でしょか。」


「いや、今回は駐屯所の警備兵も通常通りの人数で孤高の山周辺で変に軍を動かしたりしとらん。どこでこの情報を嗅ぎつけたのか。獣人の諜報員がハーク王国に潜んでいる可能性が高いのかもしれん。」


 トルーマンの“獣人の諜報員”という言葉を聞き、フーガンの脳裏に再びフセ山脈で目撃した女の獣人が出てきた。


(あの獣の女が諜報員の可能性もあるってことか。ファイアからの報告を受けて王国の中央がどう動くのか。)


(そもそも中央は獣人の存在を5年前から把握してたってことか。知っててなお、あんな教育を続けて国民を騙すとは罪な王国だ。まあ、それも王国維持のためには仕方ねえのかもしれんが。)


 フーガンは気分が悪くなって、小さく舌打ちをし、竹筒の酒に手を伸ばす。


「また多くの兵士の命を失ってしまった。」


 トルーマンは沈痛の表情を浮かべながら悔しそうに呟く。長官室は再び重く深い雰囲気と沈黙に包まれた。


***


 その頃、ファイアはハークグランの遊撃隊の本部が入る建物から出てきたところだった。つい先ほどまでファイアはカイブにフセ山脈で獣人を目撃したこと、ザジロ盆地でその獣人に再び会い言われたことなどを詳細に報告していた。


(しかし、カイブ隊長はやけに冷静に聞いていたな。獣人っていう昔話の中の存在のようなものが現れたというのに。)


 日が落ち暗くなったハークグランの街。ファイアは今晩、カイブが用意してくれた宿泊所に泊まるとこになった。その宿泊所まで満天の星空のもとを歩く。


(しかし、これからハーク王国はどうなるのだろう。)


 そんな事を考えながら宿泊所に着いた。買っておいたパンを食べファイアは寝ることにした。


(明日にはまたハークシーに向う。早くフーガンさんやミニカさんと合流しなければ。今日は早く寝よう。)


 ベッドに入り、目を閉じた。すると、額を何かでつつかれるのをファイアは感じた。なんだと思い目を開ける。


「よう、お前。久しぶりじゃな。」


「なあっ。」


 ファイアは声にならない悲鳴を上げた。


「お前は。な、何故ここにいる。」


(状況がつかめない。ハークグランにある宿泊所の中で、最後にザジロ盆地で会った獣人族の女の子ケイがいる。落ち着け。)


「だから私の名前はケイって言っとるじゃろが。忘れぽい男はモテんぞ、ファイア・ベル。」


(剣や槍はベッドから届かない場所においてある。あいにくコイツは俺を殺すつもりではないようだが、刺激しないよう気をつけなければ。)


「ああ、なあケイ。お前はなんでハークグランのこの宿泊所に、俺の泊まっている部屋に居るんだ。」


「もう一度ファイアに会いたかったんじゃ。そして話をしたかった。じゃから、ここに居る。」


 ファイアにそう言い悪戯っぽく笑うケイは、窓から差し込む月明かりに照らされ可愛く見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ