第4話 孤高の山3
「分かった。1隊20名をすぐに派遣できるよう準備しろ。ワシも現場に向かう。」
トルーマンは部下の知らせを聞くやいなや、すぐに指示を出し部下を下げさせた。この様子をフーガンとミニカは険しい表情で見ていた。トルーマンは出支度をしながらフーガンとミニカのほうを向くと申し訳なさそうな表情をつくった。
「というわけで話の続きは持ち越しで構わんか。緊急事態だ。」
「私たちも現場に同行します。」
「いや、お二人は別室で休んでおいてくれ。ハークシーまで長旅だったろうしな。」
「警備隊を襲撃する集団というのが気にかかります。王国への反乱分子だとすると我々遊撃隊の仕事の可能性もあります。ですので、長官がどう言おうと私たちも現場に向かいます。」
「そう言うのならワシは止めんよ。」
***
トルーマンを先頭に王国軍の兵士20数名が孤高の山に向かう。フーガンとミニカもトルーマンの隣に並び馬を走らせる。部下の報告によると交戦場所は孤高の山のふもとにある駐屯所とのことだった。官府から駐屯所までは馬を走らせ15分の時間がかかる。
「長官、ハークシーでは最近こういった事態が頻繁に起こったりしているのですか。」
ミニカが長官に尋ねる。情報収集だ。
「いや、ハークシーはご存知の通り治安が悪いが、最近はこういうことは起こってなかった。だが、孤高の山の駐屯所が襲われるというのは5年前にもあった。」
「5年前ですか。我々の隊にそのような報告は来ていませんが。」
「…だろうな。」
「今回も同一犯の可能性が?」
「それはついてみないと分からん。」
一同は市街地を抜け駐屯所に向かう道を走る。この道は竜誕の池に行く道でもあり、道の向こうから竜神参りを行っていた人々が逃げてくるのが見えた。
「キューロット、お前は竜誕の池に向かえ。竜神参りをしていた人びとの安全確保だ。」
道が二手に分岐しており、トルーマンの指示で名前を呼ばれた部下であるキューロットは3人の兵士をつれて隊列とは違う道へ消えていった。
「この林を超えれば駐屯所だ。速度をあげよ。」
怖いくらい静かな林を進み駐屯所に近づいていくと次第に男たちの低い声が聞こえてきた。林が開け駐屯所が見えた。しかし、一同は声を失った。
「な…、なんだこの惨状は。」
フーガンが小さな声で呟く。辺りには槍が散乱し兵士が幾人も倒れている。地面はいたる所が血の色に染まっていた。先ほど林の中で聞こえた声は傷ついた兵士たちのうめく声だった。
「襲撃してきた集団が付近にいないか捜索しろ。同時に生存者の確認と怪我人に処置を。急げ。」
トルーマンの指示で兵士たちが一斉に動きだす。
「しかし、ひどいな。ほぼ壊滅状態…だ。」
フーガンは馬を降り、槍を片手に再び辺りを見回す。ミニカが何かに気付いた。
「フーガンあれを見て。」
ミニカは怪我を追い運ばれる兵士を指した。
「あの兵士の衣類裂かれ、腕にも同じような傷を負っているわ。」
「おいおい、あれは。」
「それにあの兵士の腕…喰いちぎられてる。」
この状況を見て二人の脳裏にはフセ山脈で目撃した獣人の女がよぎった。
「これをやった犯人は…獣人だっていうのか。」
フーガンは唾をゴクリと飲み込み、ミニカの顔を見た。ミニカもフーガンの顔を見る。二人は青ざめた表情で顔を見合わせていた。




