尋問
嗚呼、カミサマ!なんて。
いよいよ死を覚悟していたというにも関わらず、目覚めたそこは天国には程遠い、薄汚い部屋だった。
裸の豆電球が、時々思い出したかのように消えては光るのを繰り返している。
視界が段々とクリアになっていくにつれ、自分が数人の男に囲まれて座っているのがわかる。
汗でバサバサになっている頭を掻こうと、手をあげようとしたところ、右手と共に一定の範囲を保ちながらついてくる左手の存在に気づいて視線を下げれば、刑事ドラマで見慣れた銀色___よりもずっと頑丈そうな黒の枷がついている。
足にも同様に枷がついており、とても外れそうにない。
「漸く目が覚めたか」
野太い声がして前を向けば、皺が深く刻み込まれた黒い顔がこちらを向いている。
白いものが混じった髪を撫で付けながら、その初老の男は、ゴミでも見ているかのような視線をむけてきた。
「自分の置かれた立場がいまいち呑み込めてねぇみてぇだな。」
一言も発しないのを見兼ねて、状況が理解出来ていないと思われたようだった。
実際のところ、状況はいまいち理解出来ていなかったが、周りにいる男達の出す殺気だった空気の中にいれば、誰でもこの状況が普通じゃないことはわかる。
その中にいながら「自分の身に何が起ったんですか」
等と訊いたら最後、酷い目に遭うのは想像にかたくなかった。
「思い出せねぇなら、思い出させてやる。」
男の発した言葉と同時に、後ろに控えていた男一人がこちらに近寄って来ると、突然の鋭い痛みが頬を襲った。
殴られたのだ。思った時には相手は既に、拳を鳩尾にいれてきていた。
殴られた衝撃で血だらけの口内から、血がぽたぽたと落ちて、服についた。
何も入っていない腹から込み上げてくる胃酸が、乾いた口にはひどく酸っぱく感じられた。
真っ白になった頭で、ことの原因を必死で考える。
「お前は人を殺したんだ。ヒトゴロシめ。」
目の前がチカチカした。頭がぐらついてきて、思わず目の前の床に崩れ落ちた。
言い争う男と女。拳銃、子ども、それから…。
鮮明に残っている、男を倒した時の感触。
ヒトゴロシ。ヒトゴロシ。
そうだ、自分は人を殺してしまったんだ。
「牢に連れていけ」
虚ろな表情を浮かべたまま、最後にみた景色は薄汚いコンクリートの床だった。