鍋と王女
時間が出来たので作って行きます。
国王様達の6人の子供達の中で一番分からないのは、双子の長女のヒスイ・リョクリュウ王女である。何に興味を示しているのかが分からない上にこちらを見透かされたような態度を取っているので、僕の中でも特別要注意人物として扱っている。
「……こんな所に何の用でしょうか、使用人のマイク・カミキさん?」
と、厨房に居た彼女、ヒスイさんは僕の眼を真っ直ぐに見てそう聞いて来る。手に大きなお鍋を持った状態で。
不味いな……。適当に誤魔化して部屋に戻るつもりでいたんだが、どうやらこの厨房の大きな鍋は彼女が今持っているのしか無さそうである。しかも早く帰って調理に入らないと部屋に居るキツネがどんな事をするか分かった物じゃない。
「そ、それよりもどうしてヒスイさんがここに? 使用人の僕風情が一回り大きい器具を借りに来るのは別に可笑しな事ではございませんが、王女様ともあろうお方がこのような場所にいらっしゃるのには疑問を感じます」
「……そうね。確かにその通りだけれども、決して悪いと言う事では無いでしょ?」
「えぇ。一介の使用人風情がとやかく言うつもりはございません」
僕は平静を装いつつ話しているが内心はドキドキだった。こんなにも穏やかに冷静に話しかける雰囲気を12歳の少女が放っているとなると、驚きである。
「ですが、そのお鍋をお借りできませんか? 今日は知人が大量の食材を用意しているので、誠に勝手ですが自室にてパーティーを開こうかと」
実際には知人では無くて知狐、そしてパーティーでは無くて貢物なのだが。その言葉を受けて、じっと見つめるヒスイ王女。そして僕の顔を見て、
「……不思議。あなたはそう言った喧噪を嫌いそうなイメージがあるのに」
誠にその通りです。僕は喧騒は大嫌いですが、命の危機には代えられないので。
「……分かった。この鍋はあなたにひとまず渡しておく。ちゃんと使用後は洗って返すように」
「それは勿論心得ております」
「それと……」
彼女は一瞬考え込むようにして、僕の顔色、姿形などを見て頷いたかと思うと、
「……やっぱり良いです。忘れてください。では、失礼します」
そう言って彼女は僕にお鍋を渡して返って行った。
何だと言うのだろうか? 僕に聞きたい事でもあったのだろうか? まぁ、一介の使用人風情に何を聞くのかは気になって事情説明を求めたい所だったが、キツネが腹を空かせて僕を殺しかねないのですぐさま戻り、調理に取り掛かったのであった。
☆
人間、無くなって初めて気付くありがたみがある事をここ数日、僕はひしひしと感じていた。
あぁ、恋しいかな、平穏な日々。思えば王城に入ってから今の今までキツネの料理をするだけで、何もしていない気がする。そこで僕はキツネの事を忘れるためにその日は大いに掃除に磨きをかける。
廊下を一枚一枚光り輝かせるような気持ちで床を磨いていると、外では未来の国王、フート王子が剣片手に振っていた。様になっていて、練習にせいが出ているので、将来は立派な王様になる事だろう。僕には関係のない事だが。
クルト王子とミコト王女は2人揃って花摘みに勤しんでいる。こうしてみると歳の差のない双子のような物だなと思いつつ、ヒスイ王女の事を思い浮かべる。
(彼女は僕に何を頼もうとしたんだろう?)
まぁ、非才な僕には、既にキツネで手一杯な僕には分かるはずもない事なのだが。と、そんな事を思っていると
「先輩、すいません」
とつい先日、話しかけないでと自分から言いに来た僕の後輩、ティミアがクルト王子とミコト王女の手を取って僕に話しかけてくる。話しかけないでと言ったのはそっちだと言うのに……。それに王子と王女を連れて一体何の用だと言うのだ。
「何?」
「すいません。先日、話しかけないでと自分の方から言っておいて何ですが、力をお借りできないでしょうか? 私は女ですが、こう言った事に不得手なので」
「……お願い」「しまーす!」
と、ペコリと頭を下げるティミアと共にお願いを申し出るクルト王子とミコト王女。ちなみにティミアの影で恐る恐るこっちを見ているのがクルト王子、元気いっぱいでこっちを見ているのがミコト王女である。
「まぁ……内容にもよるけど」
「それで良いです。先輩。実は彼女達はお花のかんむりを作りたいようで……」
「かんむり? なんでまた?」
確かに男の僕よりも女子力が低いティミアはあんまりそう言った行為から縁遠いから知らなさそうだなと思いつつ、彼女に理由を聞くと返事が返ってくる。その返事を聞いて、ヒスイ王女が何を頼もうとしたのか分かって来た。
――――――その返事はこうだった。
「実は3日後、カグヤ様のお誕生日なのだそうです」




