キツネと国王一家
ゆっくりと気が向いた時に更新していきますので、気長にお付き合い願いたく思います。
『キツネ、彼らは人をからかう事を常に考える生物だ。尻尾が2本以上ある場合は騙される事を考えよ。尻尾が5本以上ある事は恨みを買わないように注意しろ。そして尻尾が9本ある時は諦めよ』。
このことわざの意味を説明しておこう。
この世界には3種類の生物に分けられる。
スタンダードで一般的な普通の『ニンゲン』。そしてそれ以外の『マモノ』。その2つの性質を半分ずつ受け継いだ『ハンジン』。キツネはその分け方で言えば『マモノ』に分類される。
キツネは人をからかう生物。どのキツネも人をからかう事が好きだが、そのからかいの度合いは尻尾の数に関係する。
尻尾が2本以上あるキツネは人語を話し、幻惑の術で人を惑わす。尻尾が5本以上になると、人化の術を覚えて、人に化けてさらに化かす。そして尻尾が9本のキツネは最高位のキツネであり、そのキツネは国を滅ぼすほどの事を仕掛けて来るらしい。
そう言う『マモノ』を倒すために作られた組織、『ギルド』では2本から4本のキツネは下級魔物、5本から8本のキツネは中級魔物、そして9本のキツネは上級魔物として扱われる。下級魔物は初心者でも倒せるが、上級魔物は国をあげて一騎当千の人間を数十人集めても倒せない場合があるくらい強いらしい。
これは国全体に伝わっており、僕も当然の事だが知っている。だから、目の前に出て来たこの5本の尻尾を持つキツネに警戒しているのである。
「ニンゲン、ニンゲン~。早く何かご飯~、ご飯~」
目の前で5本の尻尾を揺らしているキツネに、僕は動揺を隠せない。
確かに可愛らしい見た目をしているが、相手は5本の尻尾を持つマモノ。警戒して置くに越した事はない。相手は人を騙す事を本能的に考えている生物であり、僕達ニンゲンとは相反した存在なのだから。
「……おい、ニンゲン。調子こいてんじゃねえぞ」
―――――――いきなり、空気が変わった。
彼女を取り巻く雰囲気が明らかに変わった。具体的に言えば、今までの彼女は甘い雰囲気を漂わせていたが、今の彼女からは殺伐としたいつ殺されるかと言う殺気が漂ってくる。
(や、ヤバい……! これは本能的にヤバい!)
そう感じていると、後ろにあれを見つけた。そう、大臣から説明のあった個人用食用冷蔵室。
(そ、そう言えばこのキツネはご飯を欲しがっていた! ならば、一か罰か!)
僕はそう思いつつ、冷蔵室を開ける。中には幾つかの食材が入っているが、僕の求めている食材では無かった。そして……あった!
「ほ、ほーら。これで機嫌を直してください」
と、僕はそう言いつつ、彼女にそれを見せる。すると彼女は一瞬にしてその険悪なオーラから、一転して可愛らしいオーラを出す。
「あぶらあげ!」
そう言って、彼女は跳びついて僕の手からそれを奪い取ってパクパクと食べ始める。
(あ、危なかった……。キツネの好物がお味噌汁に入っているあのあぶらあげだと知ってなかったら、もしかしたら僕は殺されたかもしれない。そんな状況だった。
と、とりあえず、こいつは食事だけ与えていれば満足なようだ)
と、僕はあぶらあげを美味しそうに食べるキツネを見て、そう思う。
「じゃ、じゃあ、もう1品くらい作ろうかなー」
「本当!?
えへへ////// なんだよ、今度のニンゲンは偉く話の分かる奴だね! そう、食事を与えさえしてくれれば悪い事はしないって//////」
それは暗に、『食事を与えなければどうなるか分かった者じゃない』と同義ではないだろうか。とりあえず今後のために、『食事は与えるけれども豪勢なものは出来ないよ』と念押しして置く。
あぶらあげを食べて、ご機嫌なキツネは『はいは~い! 良いよ~、ニンゲン!』と言って嬉しそうに言うのだった。
……あぁ、平和な日常から遠ざかった気がする。
==☆==
その翌日。僕はキツネに朝食を渡して、また一日生き残る事が出来た。どうやらキツネは美味しさだけでなく、量も求めるようである。予め豪勢な物は用意できないと伝えておいて本当に良かった。あのまま際限なく量を増やして来たら、一介の使用人では用意出来なくなって、人生終わりですからね。
(まぁ、これから僕の食生活は質素ながら量を増やしていた方が良いかも知れない。と言うか、実質僕の生活は終わったんじゃないだろうか?)
なにせ、これ以上僕の食糧を増やせば絶対に怪しまれるだろうし、それで部屋に立ち入られてしまったらキツネを見つけられて、人に害悪をもたらすキツネを庇ったとして僕は良くて牢獄行き、悪くて死罪だろう。
けれども、キツネに与えるべき食糧を減らしたとしても、それでキツネに怒られてしまって殺害されてしまって死亡。
どちらにしても僕の人生、終了したんじゃないだろうか? 植物のような人生を目指していたはずなんだが、どこで人生を間違ったかと言えばやはりあのギルド長の話を受けないでいれば、平和な日々を送れたはずだ。
「まぁ、これから気を付けるべき課題が出来たと言う所だろうか」
今日は国王様達との初の顔合わせ。粗相をしないようにしなくては。
この『ライトウイング』を治める国王一家、リョクリュウ一族。現国王である第43代国王、イザール・リョクリュウ殿下には愛する妻と6人の息子娘が居る。今日は使用人達と国王様達が顔を合わせる日。僕は大多数居る使用人達に混ざって、彼らを確認する。
豪華な装飾品に身を包んだ金色の髪が特徴の王様、偉大なる王者の気質を兼ね備えた彼が、イザール・リョクリュウ殿下。御年29歳。イケメンで国民(特に女性)に大人気の彼を間近で見ている女性達の何人かは顔に笑みがこぼれている。その横にはそのイケメンの寵愛を物にしたカグヤ・リョクリュウ王妃。御年27歳。流れるような艶やかな黒髪と、可愛らしいお顔立ちがとても上品で素晴らしい。
王妃の横で必死になって威厳を保とうと努力しようとしている黒髪の美少年、彼こそが次期国王と呼び声の高い長男であるフート・リョクリュウ王子。御年12歳(つまりイザール殿下が17の時にお生まれになった子供)。なんでも一生懸命で、その様子がとても良いのだとか。そして国王の横で冷ややかな眼で見ている黒髪の美少女、長男であるフート王子の双子の妹であるヒスイ・リョクリュウ王女。同じく12歳。国内きっての天才で、何もかもお見通しと言えるような冷ややかな目つきが一部に好評らしい。
そのヒスイ王女の後ろできょろきょろとこちらを窺っている赤髪の少年が次男のクルト・リョクリュウ王子。御年、11歳。その反対側でもの珍しそうにこちらを見ているのが赤髪と、同じ色の瞳を持つ次女のミコト・リョクリュウ王女。御年、10歳。まぁ、2人は普通の子供らしい反応でまぁ安心出来る。
そして王様の腕の中で抱かれているのが末っ子の三男、エミヤ・リョクリュウ王子。御年、1歳2か月。反対に王女の腕の中で抱かれているのがその姉、ルリ・リョクリュウ王女。御年、2歳。まぁ、この2人に関しては赤子も同然なので興味本位でこちらに近付かない限りは放って置こう。
兎にも角にも、国王様達一家の中で注意すべきは遊びたがりの盛りである長男と長女の双子、そして次男、次女の4人。使用人の部屋など国王様と王妃様が覗きに来るはずが無いと思うが、あの4人は眼をつけられてしまったら猪突猛進の勢いでこちらに向かって来る可能性が大だからだ。とにかく、気を付けないと……。
後、大臣達、特に使用人と接する機会が多い人達をピックアップしつつ、使用人の中で僕の事を知ってそうな人を探そうとして、
(えぇ~! な、なんで……彼女がここに……)
そこに1人の可憐な華が、いや可憐な美しさを持つ美女が居た。
男の使用人も女の使用人も、どちらも王様達や大臣達の顔を立てるために地味めな使用人用の服と地味めの格好を整えているにも関わらず、彼女はそれをしてもなお彼らと同じくらい強き輝きを放っている。
スラッと整った顔立ち、同じくらいスラッとした触ったら折れそうなボディライン。身長も高く、はっきり言って10人中9人は彼女に告白するなり、彼女に恋い焦がれても可笑しくない美貌の持ち主。さらさらの青い髪を髪留めでまとめた彼女。大臣達や使用人達の厭らしい視線を浴びつつも、堂々と咲き誇っている一輪の華のような美女。
――――――彼女の事は良く知っている。
今年20歳を迎えたばかりの、ティミア・アルリッア。使用人ギルドの中でもエリート中のエリートで、僕が直接指導に当たっていた後輩だった。




