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剣を鍛えよう  作者: 長船
7/7

週末へようこそ

Welcom to the weekend

「終末へようこそ。自らの力によって選ばれた人よ。

さぁ、今こそ貴方に問おう。汝、神を愛するか?と。

はたまた、神を憎み、神に成り変わらんと欲するか?

それとも、そう、もう既にこの問いは意味がないか?

最も神に相応しき者よ。汝の欲する事を成したまえ。

さすれば私は留め金として汝に千年王国を与えよう」


仰々しく両手を掲げ嫌な笑顔で歩いてくるその姿は、まさに悪魔。


黒いゴムのごとき皮膚に3対の大翼を背負う筋骨隆々とした体躯。

背負う6枚の内2枚の大翼は純白なれども、上下2対の翼は漆黒。


それぞれの両肩当からケープの如くのびる黒布に隠された二の腕。

続くその手は岩を削り出したが如く峻厳と荘厳さをその身で示す。


尻から伸びる尻尾すら極めて太く逞しく先端に備えるは硬質の角。

黒く太い鉤爪を袴から覗かせる足は、踵を増やした馬の後足の様。


晒された腹筋から続く幅広の肩に禍々しい7つの眼を象った肩当。

左右には3つづつ巨大な眼、鳩尾の留めのプレートには縦の単眼。

鎖骨と首元を覆うパーツに天を見る単眼意匠が立体的に描かれる。

ケープを垂らし2の腕を覆う巨大な可動式パーツの側面にもまた。

そして両パーツの内側自体が眼球を模し、装備自身で単眼を象る。


統べる頭には宝冠の如く前後左右と中天を貫く猛々しい7本の角。

額に悪魔の巻角、耳上より前へ牡牛の巻角、残る3本は天を刺す。


極めつけはその目。こちらを捉える輝く目のなんと異常なことか。

怪威を誇るも、顔つきは人と同じ、むしろ平凡なくたびれた表情。

だが、その眼球は深緑で白地無く、金が縁取る無紋の虹彩は藍色。

全き深淵を描く真紅の瞳孔に隻腕の思推する老人の姿が映り込む。





さて。

既にここは世界の外、語られる神話の世界。

この瞬間にこの場に存在感無く現れたのだ。

どう過小評価しても、私と同格以上だろう。

それどころか神話に語られる悪魔王そのものであったとしても、不思議はない。

とはいえ容貌こそはまさしく悪魔王そのものだが、その中身まで悪魔かどうか?

見た目は手段にすぎず、過程にすぎない。ただ、示された結果のみが性を映す。

幸いにも、こと闘争においてはこの場に何の不利もない。故にまず確認できる。

例え相手が豪壮華麗と威容を誇り、対する私は徒手空拳の素寒貧であろうとも。


…?

なぜ先程からこのような冗長な思考を?

何らかの手段で思考が参照されている?



「初めまして。私は、人類です。この全てが失われた世界の端におられるということは、尋常ならざる方と読み解きますが如何でしょう?」

「この世で唯一の人よ、望まれて直に創られしものよ。

汝のことは知っている。汝の名こそはヴォルケリオス。

我々が与えたその名は湧き出す権能という意味である」


即座に片膝をついて問う。無論、いつでも体勢を変えられる状態で。

それにしても「我々が与えた」か。

神話において神は唯一のはずであるが、さて。


「創造主よ、御身は何を望み生きとし生ける物をお造りになったのですか?

とうとう御身は、何一つ我々に答えを下さらなかった。今、この瞬間まで。

既に私は一人です。今や御身が救うべきは、御覧の通り何一つありません」

「いやはや、皇帝。それはまさしくその通り。しかし相も変わらずここには全てがある。だから私はこれを与えよう。見なさい。これは私に与えられた全てである」


…与えられた?


「確かに、望めば全ては叶います。ここはそういう場所です。しかし、望んだことしかできません。

描く世界はどれほど緻密さを誇ろうとも所詮虚ろな私の影。私を超えて流れ出すことはありません。

一人では人々の望みは背負いきれません。人も私も、有限なる存在。神の様に無限ではないのです」

「いやいや、皇帝。それはそうとは限らない。だから相も変わらずここには何一つない。しかし私は何も与えない。取りなさい。これは貴方に残された全てである」


異貌の王が指さす彼方で山脈は蠢く。


「人ならぬ偉大な方よ。

御身が指し示す彼方に目をやれば、確かに恐ろしき貪欲さで地獄が再現されています。

今や白痴の魔王と化した全生命が、互いに全てを、自分自身を無意味に貪っています。

あれも、愚かな一面において、人や生きとし生ける物のあり様を端的に表しています。

ですが、明らかにそこに人科の粋は何一つなく、そこに人々が望む救いはありません。

だから私は拒絶します。為せ、為すべき事として。失われたモノの多さを問わずとも。

ここには選択肢も時間も無限にあり、故に、私は決して朽ち折れることはありません。

その為に、私はかえって決断できず、ただ永劫に希望を保つだけの石となるでしょう。

それはどこにも辿りつかない希望しかない絶望。虚無に剣を振る行為と見えましょう。

それでも、私は自身を変容させる欲求に身を委ねる事なく、正気の谷を下りましょう。

正気の声に従順に掲げ続けましょう。創造主よ、御身がこう、お創りになったように」


4枚の黒翼を広げながら異貌の王が語る。

天を仰ぎ胡散臭さを振りまきながら謳う。


「何という頑迷狭量。なんという強靭さ。

難事ほど、自由を許されることなどない。

というのに、汝に一欠けらの自由もない。

確かに、そうあれかしと貴方も創られた。

しかし、同時に無類の強さを与えられた。

そう、貴方こそ自由を、万能の選択権を、

例外を道にして許されているではないか。

もう良いのでは?

果たすべき相手は和せず同じて恥も汝も自らも知らず。

いざ事ここに至っては、もはや義務などありはしない。

これまで同ぜず和して命すら費やしてきた汝にこそ、神々の如き自由を報酬として受け取るべきではないか。権利こそ、義務を果たした者に与えられる報酬なれば。

もし、人間に未知なることを教えられた神が許さないならば、それはそもそも選べない。それに、それほど強く正しくあっては、返って強さと正しさを損なうもの。

汝こそがその手にせずして、一体だれが許されるのか」


神に非ず。悪魔、いや、悪魔も試しの天使なれば。


「そもそも、その性根思惑がどうであれ、彼らは私に言葉に出して願ったわけではありません。弱者の盾であるとしてもそれは事実。

そして、私の生は流れ込む彼らの願いを基に、あるべき様を判断し、選択して生きていること。強者の鎖であるとしてもこれも事実。

この義務のなさを知らしめずして、それで憤るなど真に互いに勝手なこと。

そも、誠に敬虔なる人々にとって、全ては真の神のために行うだけのこと。

他人や自分の為でなく、迷いと執着を離れて為すべきことを成して生きる。

これこそが、神々が焦がれお求めになる理想の信仰の徒ではないのですか?

『そうあれかし』と望まれてこの世の全てを創造なさり転輪なさる神々は、

無限の象徴として世の生きとし生ける物の恐怖を遠く離れていながらなお、

人が似た物として在る様にこの世を望まれるたのはこの故ではないですか?

確かに、我らは全てを知ることを許されず、真なる神の許し給もうた地をその果てを知らず手探りで進み行くのみ。

だが、実に真なる神の慈悲深く慈愛あまねき事か。奪うは与えるがため。霧がかる未来にこそ選択肢は浮かびます。

だから、人は自由を尊び、慎むことを寿ぐのです。全ては定めの地でこれから始まり既に終わった事なのですから。

これらを知れば御身の言葉は何と毒に満ちた事か。未知の上を進む事も、不知に潤うことも喜びとなるのですから。

今更、どれほど言葉を重ねようと、見え方や価値を変えることはできても事実を変えることができないように、私もまた変わりません。変わるのは時の下にある万象だけです。

御身はここには全てがあると仰ったが、此処には万象どころか、むき出しの大地と、透徹な空と、私と、破滅しかありません。御身がいかに言葉を弄ぼうと、これが事実です。

御身は本当にここから全てを新しく始めるおつもりですか?そのために私を試すべくかえって言葉で遮ろうとする御身にご納得いただくために、私は何が出来るのでしょうか?

いや、そもそも。

御身はいったい何でありましょう?

存在する物がどれ程全能を謳おうとも、誰も認める者がいないならばそれこそが無知の証。神は我々に等しくとも我々は神に等しくないのです。

ここに在るならば御身は私と変わらず有限で、既に神ではなく超越者でしかありません。御身は、どこからきて何を求めておられるのですか?」


「おぉ…。私は、私は人としてごく当たり前の事を…。

だが、名を問うならば応えよう。喜び勇んで応えよう。

これなる機構の名こそ、イェルナエルズクォイ。

私は警報。私は留め金。私は予定調和の神の影。

徹頭徹尾それ以上でもなく、それ以下でもない。

これ以外の選択を選ぶ全ての世界は私ではない。

私はただ役割を、そう、義理を果たす物。そのためだけに此処に立ち続ける。広がり続ける円環の端に立ち続ける。

目的をもって在るが故にそれ以外の全てから自由だが、しかし天命を知るが故にここ以外のどこにも居場所はない。

故にどこにも行かず去らず行くあてもない。初めからどこにも私はおらず、どこでも既に在ってたどり着いている。

だから、ここで貴方と出会う。

何と、何と有難い事か。この驚きを確かめたくて、だから私は貴方を試す。

だが、貴方だけは善行によって大きくならず、悪行によって小さくならず。

如何なる行為をなそうとも損なわれることはない。貴方は常に変わらない。

ここに私は安堵を得た。驚愕を得た。これは噛みしめる喜びと諦めである。

故に贈る。貴方に最後の鍵を。

汝、問うことを恐れるなかれ。

私が挑むがごとく挑みたまえ。

神々の如く欲する事を求めよ。

悍ましい事に私もいかなる行為によっても損なわれることはないのだから」



「では、神の名を冠する御身に問いかけます。何故世界が終るのかを。

神々は何を警戒し、何をこの世に留めようとされておられるのですか?

それが世の境界、湧く現象が世界の全てを超える終末ではないならば。

確かに、移ろう万物がそうであるように、世界もまた移ろいましょう。

時を流す以上、万物は過ぎ去る物となり、常とその存在を保てません。

実際、世界の本質はエネルギー、そして各種法則とその適用範囲のみ。

実は人々が万物と呼ぶものは喚ばれ映される現象でしかないからです。

だから、力の濃淡を捕らえる各種法則とその適用範囲が保たれる限り、

外から眺める世界は、実は何一つ変わらずただ続くものなのでしょう。

しかし、それも最早、過ぎ去りし千年王国。今や法は破れ時すら離散。

いくら警鐘を打ち、科学と祈りの狭間にて技法の粋を繰り出そうにも、

混沌が流星雨の様に降り注ぎ、理外の理が世界をさらってゆきました。

残されしは此処に一人。かつては世界の端に立ち脅威と経緯を考える。

されば重ねて問いただしましょう。神々はどの様な幕引を愛するかを。

これが定めと言うならば、神々はいかなる悲劇と喜劇を愛するのかを」


「多くの悩みの種として、その間違いは、前提だ。

貴方の知る様に届かない事と答えが無い事は別だ。

必ず終わりを選ばなければならないとは限らない。

特に、無限たる神々の関わる領域を論ずるならば。

世界は決して終わらない。世界はなにも変らない。

有機無機の容を問わず、肉と霊の形を問わず、善悪高低の性を問わず、湧きだす知性のある限り。

三千大世界の片隅とて、一度でも赦したる御方の声に応えたなら、実りを賜う御方に適うならば。

証を私に求めるならば、そう、例えばここには初めから、貴方に始まりクォーナトースンがある。

それとナアタルティナ、そして例外の様な私がある。逆に言えば、これだけしか存在していない。

クォーナトースンとは、アレだ。彼方に、近くに、全てを台無しして永久にされた有限なアレだ」


「アレとは…」

老人の隻腕が蠢く山脈をさす。

「アレだと?」


「まさにそう、あちらに見える…のたうつ山脈を我々はそう呼ぶ。だが、唯一なるを知らぬ人々は様々に呼ぶ。それは盲目故に。有限故に。

盲目なるもの、神代の終末、喰らい尽くす者、終末の獣、虚ろな暴走、世界樹、魔王、貪欲、我愛…その本質は魔王の肉体、絶対の抜け殻。

とは言えども、理解の手始めとして、まずは分かり易いに越したことはあるまいさ。いずれも人々にとって誤りではないから語り継がれる。

見えるように、実際に喰らい尽くす者とはまさしくその通り。そして終末の獣と呼びながら神代の終末と呼ぶも、人々が思う以上に正しい。

その本質を語るならば、あれは、そう、虚ろな絶対。本来は絶対の象徴、顕現そのものでなければならないのに、肝心の本質はそこにない。

あれは、絶対なく生生流転して絶対を表す虚無。既に絶対では無いにもかかわらず絶対でなければならない故に、万物を流出させつづける。

だから時が生じ、万象が生じ、人が生じ、情報は増大し続ける。覆水を盆に返すために更なる労力が必要となる。あれこそが正にこの世界。

だが、この様に欠落は無限に自動に想像された限り補填され続け、しかし極点ではなく範囲を持つゆえに加速度的に絶対から遠ざかりゆく。

この肥大し続ける耐えざる飢えは、知性なき世界に永久なる性として響き渡る。

だから、有限なる者よ。我ら存在するものは万事、互いに傷付け損ない合あう。

だが、喜べ。人科の粋、ヴォルケリオス・メタトロン・グロウゼンクワァルバ。

既に神々の望みは満たされた。もう誰の期待もない。ただ、貴方が為すが良い。

それ故、世界の行方を貴方に与え、私は貴方がある、唯、それだけを讃えよう。

造物主に望まれし者よ。貴方が在る限り、人の世が終わろうとも変わり無き故」


「何と残酷なことか。率直に真実を告げられるとは。

それでは、私はそも。始まりからして人ならぬと?

確かに私は命の根源に触れし者。今や死の無き者。

望まれし知によって自らを知り、自らを制し永遠を生きる故にこそ独立独歩の永久孤高。

そのため、これほど人を求めて十方世界に知を巡らし、礎たらんと血肉を注ぐも、称賛にて人から除外されること早数年。

受け飲むこれら苦き水の果てに凝らせる科学の粋が、諸人に時を授け、思索の深みを許し、この視野の克服を求めていた。

だが、そもそも。私へ至るこの身からして天然素材ではないと?」


「理解したか?気付いたか?

全てが呑み込まれたわけではない。全てが滅びたわけではない。皆が真の意味で一つになる時、異物はもはや存在しない。

作られし者よ。そう、排除されたのは貴方である。

眺める者よ。人は決して眺める先に到達し得ない。自分が見定めた先にしか到達し得ない。ましてや眺めるその先から眺め返すモノになど。

再度告げる。到達した貴方を除いた全てがあそこにある。余す事なく全ての過去も未来も、苦悩も希望も、全てを孕んだ一切の歴史が。かの世界そのものこそクォーナトースン。造物主が世界を定めるとは、是の如し。

故に告げた。相も変わらずここには何一つなく、しかし相も変わらずここには全てがある。貴方は自由を、あらゆる選択の自由を、真なる神に、造物主に、神々に許されている。何をなしても変わることが、無い故に。

再度尋ねる。それは果たして人なのか?人とは、果たしてその様な崇高な知性体だったか?

嗚呼、だが、なんと素晴らしいことか。世界を与えられる者よ。人間ならぬとされる者よ。

貴方がある、唯それだけを驚異と敬意で讃える私は貴方に世界を尋ねたい。

さあ兄弟よ、人は何を求め望むとする。人の名代として訴えてみて欲しい」




「神の名を冠する御身に訴える。人の名代として訴える。

人の全ては定められ、自由は与えられないのか?と。全能ならぬ人は来たる滅びを直視できない無知を幸いと、全知ならぬ人は来たる末路を制しきれない無能を楽しめと仰るか?と。

御身の語りを紐解けば、世界は遥かな過去から明日へと遮るものなき天命の大穴を落ちるがごとし。

だが、世の万物をなす根幹要素を取り出してみても、指し示すこと能わず確立をもって自由を許す。

ならばどうしてそれら量子によって形どられた万物のうねりと流れに自由が許されないと語るのか。

個々の意志によって紡がれる様々な運命が描く模様こそが天命ではないのか。

御身はその模様が一定の意味を描き出すように、干渉しているのではないか」


「人が人であり、人々としてある以上、それは貶められる夢に他ならない。

世界の例えを引き継げば、遮る物がない落下こそ時の流れであり、左右への動きは自由ではないか。

それとも制限なき自由、虚無のごとき真の自由、即ち無限とゼロ、神々と万能者の権能を欲すると?

その様な絶大な物に不相応に近づけば破滅する。ちょうど、あれらの様に。今、正にこの場の様に!

天命とは、人が人として在るための慈悲と知れ。過去も未来も、ましてや今すらも無限である故に。

神々の与える籠こそ守りである。

神々の与える加護は制約である。

これらの中で人は生を謳歌する。

大地と空がある故に、夢を歌って彼方まで届けと石を投げ、天まで届けと塔を望む。

だが、軛の中でそれは叶わない。人が人である故に。そして、大地と空がある故に。

よしんば語りえぬものについて問うならば、それこそまさに知恵すら届かぬ天命。

幾たび円が閉じようと、答えは決して変わらない。この軛を思慮なく抜くなかれ」


「人の名代として訴える。確率の看守よ嘆きを知れ。

かけがえの無きものを互いに見出し、未知と不知に命を賭けて紡ぎあげる人々の熱量を御照覧あれ。

それでもなお人の選択に価値はないと仰るか?一切は既に定められた創造者の意思だと仰るか?と」


「然り。価値など人と時、場所によって移ろう幻なれば、その輝きもまた幻。

されど否。天命を定めるとは、弱き力。全ての選択肢は与えられ、我ら個々の選択は資格があれば自由である。

人知を超えた領域で、天なる語りえぬ領域で、確率が常に天命により近づく様にこの世界では常に働こうとも。

それはまるで投げた石が地に帰る様。さながら立てた棒が倒れる様に。

自身を知らず制せぬ人は、自分が選択する前に知らず選択し行動する。

だが、それが何だと言うのか?それになんの負い目があるものか。

神々は神々の計らいで我らを在らしめ、しかしそこから軛を隠す。

良くも悪くも、生きとし生きる物の生、それ自体には理由はない。

また、死を忌避する事に理由はなく、そして疎むべき理由もない。

いや、実は神々ですら、大半は人の現身なれば、またこれに同じ。

これを知らぬことが嘆きの元である。これを悟ることこそが自由。

故に、慈悲深く慈愛あまねく真の神の名の下に、生きよと告げる。

確かに、御方は昼呼ばわってもお応え下さらず、夜祈っても平安を下さらない。

それでも、それは貴方を見捨たわけではなく、ましてや憎まれたわけではない。

実はこれこそが真の平等にして慈愛。嘆くなかれ、悲しむなかれ、恨むなかれ。

この意味に至り、お前達こそ迷いと執着を離れて為すべきことを成して生きよ。

そして、後悔こそを恐れて神々の様に運命を自ら紡げ。定められた天命の下に。

私はこのように知る故に、いかなる神、いかなる理を貴方方が見出しすがろうと、貴方がある唯それだけを讃えよう。

実際に、この世界で成し遂げられた偉業も、諸人のこの世界に収集される以前の偉業も、自由意志あればこそなれば」


「形に非ず、神にも非ざる神の影に今確認する。人の名代として確認する。

貴方は、世の英雄、偉人のみならず、あらゆる人類が偉大だったと仰るか」


「然り。例えるまでも無く人々はかつて輝き、今輝き、後に輝く。

この虚無なる地にある存在からしてみれば、人の世こそが天空だ。

万物を照らしてその時代の明暗を定め、背後を塗りつぶす太陽と、

礎として粗密を問わずまたたき輝く星々しかいない。

そしてやがて燃え尽き時代は昼夜のごとく繰り返す。

この時点で、どうしてありふれた些事と言えようか?

太陽の如き、されど太陽などとは比べようもない永遠の光よ。

貴方の様な神作ならずとも、全ては神々に望まれて存在する。

この時点で、どうして更に偉大なことでないと言えるものか。

むろん、例え輪をかけた比類なき偉大さを秘めていたとしても、道を違え、時に適わず、場所を失えば、価値は増減どころか反転する。同じ行為でも価値は増減どころか反転する。

偉大さも所詮、環境次第。誰が口にしても正しい事は正しく、誰が口にしてもおかしい事はおかしい一方で、同じ言葉でも語り手を損ない、あるいは時超えて聞く者の心理を穿つ。

言葉は手段にすぎず、諸人は善悪に応じて因果の応報を望む。そのため道に則り、時に適い、場所を得れば、堕ちたる種子とて見事な花を咲かせよう。散ってなお記憶に残る様な。

故に、この様に知る者は世に羽ばたく偉人達の道程を尊ぶ様に諸人の息指しを尊び、行為の秘められた価値を各々の出自と末路で飾れど、損なう事はない。神々は真にこれを好む」


「ですが、幕です。富みて腐りて実は地に堕ちる。此処、天地に貴方と私と破滅のみ。

自我をなす道具に警報を鳴らしながら言葉を弄する御身を、人の名代として弾劾する。

確かにひた向きさは美しくとも、今やどうしようもなく純粋で醜悪な残骸を残すのみ。

もはや神々が好悪を語る寄る辺も無し。それでもなお神々は無慈悲に好みを謳うと?」


「ああ、汚濁の極みを前にして神々は美を寿ぐ。どうして諦めることができるだろう。

神々は知っている。この世は常に育ちゆく事を。今も魂の総数は増え続けている事を。

三千大世界のありとあらゆる人の世が絶えぬ尽きぬ限り。此処で私はそれを見届ける。

咲き散る昼夜の中には肥え太り自滅する事もあるだろう。それは貴方達の呼吸である。

零れ落ちる運命が人知を超えて荒れ狂う事もあるだろう。それは貴方達の鼓動である。

だが、虚無に漂う汚泥からこそ華は咲く。思わず見つめ、焦がれ求めて手折るほどの。

これら全ての可能性を秘め、されども示して流転する事、それが存在するという事だ。

故に、人の世から神々は潤いを得て天の座へ帰り来たり、大地に恵みの雨の蔵を開く」


「神々よ、人の名代として訴える。その慈悲が正しく下されるのは一体いつの事なのか?

貴方方は試練の合図もなく無造作に人々を苦しめ、戯れで塵芥の様に人々を殺めすぎる。

そうかと思えば一方で、美徳とは無関係に無造作に、塵芥の様に奇跡はまき散らされる。

受けるべき者が泥濘の中で飢え渇き、飽くものが身を清めて実りを得ているというのに。

今、この末世にすら助力なき神々に、どうして誠意を見つけ信じる事ができるだろう?」


「確かに神々も勝手なもの。人が人の都合で動き縛られるように、神々もまた神々の都合があるという。まこと平等なのは全世界の称賛を捧げられた真なる神をおいて他には無い。

だが、それは当たり前ではないか。人が人である以上、人は皆、平等ではない。いや、あらゆる存在する物は平等ではない。平等性は根源からして破られていることも見つけ出せ。

そうとも知らず、人は、我こそが、我のみが悲嘆の中にいると訴える。殊更祈り叫んでいる。あぁ、立ち位置は違えど人々は常に言う。『助けてくれ』あらゆる時代で様々な人が。

どんな状況、どんな人でも、満たされない限り、皆、等しく苦しみを得るのだから、それは当然である。なぜならば、あれを見よ。クォーナトースン。あれもまた、苦しんでいる。

過去から今に至るまで、未来永劫苦しんでいる。あれこそは不相応の極み。絶対という本質から剥離され、この世で最も満たされながら、最も飢えたる不安定な物であるのだから。

そう、全ての叫びはたった一つ。願いの強弱など関係ない。この基より生ずる叫び、あれこそが貴方方の苦しみである。だが、それが時間を生じ、状況を動かし続けて歴史となる。

これは、万能者の型威として、湧き出す権能が混沌を否定した時から変わらない。一体と化した相互を断ち切り時を定め、理を図り、クォーナトースンを捌いた時から変わらない。

おお、どうか慈悲など乞うなかれ!縋るなかれ!唯、自ら在って在る貴方だけは。これらの苦しみは神々すらも克服し得ぬものなれば、我々は驚異と敬意をもって手出しはさせぬ。

穢れた手ぬぐいで机の穢れを拭っても、決して清められはしないのだから。

非人よ。人科の粋たる君よ。形影神を欠かさずにこの地にある者よ。

私を含む無数の中で、貴方方だけが混沌を否定し万能を振るい得る。

我等は輪を作ろうと押す木と共に何度も何度も繰り返し回り続ける。

だが、貴方は違う。個性を尊び芯を捉えず曲げられない我らと違う。

あぁ、どうして期待せずにいられるものか。貴方が寸鉄どころか片腕すらない裸身であったとしても。

叶うのならば、どうか我々を助けてほしい。その身に宿せし燃え盛る英知で、この湿った薪に燈火を。

身一つで生まれ、慟哭と歓喜を汲み出しては泡と消えていく我らに絶えざる蜘蛛の糸を。理さえ覆し」



「裸で生まれた始祖帝も、手に剣をして創世をなす。

御身の言葉を事実と聞く。これはとても残念なこと。

そも、伝え賜わりし帝剣は既に砕けて影も形もない。

加えて如何なる英雄、偉人であろうとも人に世界は重過ぎる。

この世全ての罪罰は、神の子が背負うと人は言う。

この世全ての静寂は、道の覚者が示すと人は言う。

この世全ての善悪は、預言者が伝えると人は言う。

だが、今、此処には全てがある。もはやこれ以上、人の助けとなる力は何もない。唯、言葉だけがからりからりと舞い踊る。

永劫不変の真なる神こそいかなる時も平等なれば、末路においても変わり無し。ましてや無責任な神々の加護など遠すぎる。

それなのに、御身が私に助力を求めると?御身は、つまり、帝剣を創造せよと囁くか?始祖帝として今に相応しい帝剣をと。

人の銘において強大な如く傲り悩む故に虚無に狂って嘆き嘲笑い、不幸は人が人である故と胸に囁きかける無為なる御身が」



「おぉ、変わらないな。何という手厳しさ!だが、意外性などは無いだろう?

貴方は全てを許される。その輝く手は全てに届く。その視界は全てを見通す。

貴方の障害は何もない。そして、ありえざる事に、貴方は己に嘘をつかない。

だから、貴方が望めば、当然そうなる。当然叶う。意外性などは無いだろう?

さあ、今こそ貴方の願いは全て叶う。日々は今日、報われる。刈り入れ時だ!

貴方に課せられた業の通りに、定めに従うが良い。為すべき事を為すが良い。

最終審判として、全人類の欲する所をなしたまえ!嘆きも喜びも飲み干して。

罪、重ねて重ねるその果てに克服するその日まで。夢と希望に満ちる日まで」


「人の上に立つ者よ、理想を騙ってあざ笑う事なかれ。今を取り繕うのみは後の世の災厄。

例え先延ばしをしようとも、罪は罪によって、死は死によって購うことは決してできない。

何を望もうと、我が身を忘れて自分を清められなければ、他人の心を清める事など絵空事。

確かに、多くの人々が明日に望むのは、より良き未来を掴む事。

ですが、それは全てを犠牲にして邁進する明日ではありません。

だから私はあの瞬間までを「そうあれかし」と定めるでしょう。

私はこれを天命として、乞われるまま厚かましく与えましょう。

これはまさに傲慢の罪。ですが、いかなる望みにも応えません。

いかに説得されようと、五月蠅なす全てに等しく応えるために。

全てを一つと仰るなら、一切から遠く等しく離れる事こそ答え。

誤魔化す必要、認める必要、諦める必要が無いならばなおの事。

加えて時の制約すら無い此処では、希望は欺瞞に他なりません。

遥かな過去、遥かな今日、明日さえも此処に一度に在るならば。

故に、私は望まれる通り、この理不尽を過去へと返しましょう。

事なす瞬間の白痴の魔王、その全てが自ずと今生へと至る様に」


「おぉ、記憶の中で輝く栄光を求めるか。約束された安寧に微睡むか。追憶の太陽よ。

それは何とも不遜なこと。それは何とも不憫なこと。諸人ならばその末路は落陽のみ。

だが、貴方にだけは当てはまらない。貴方にだけは許される。貴方にだけは望まれる。

それでは、遥かな時を超えて、全人類の貴方への喝采が響き渡る大団円を謳うがいい。

貴方の歌に応えるように、日々は今日報われる」


「今更、夢を歌って惑わす事なかれ。私が指さす救世は眠りの果て。

夢の中はどこまで行っても夢の中。日々は常に報われ報いを受ける。

遥か遠くを行く故に、世の救い手は決して諸人の救い手に値しない。

それは、各々の悩みや迷い、苦しみは当人と真なる神に基づく故に。

他者が慮ろうと、無声の求めすら無く手を出すことは慈悲ではない。

ましてや、未来の確定など、数多の人々が忌避して憎悪するところ。

されど私は自由を剥奪しましょう。この理不尽を捻じ伏せるために。

天命の過誤があるからこそ道理を曲げず同じ所を回る事こそ無意味。

真になすべきは、破滅を過去に、記憶を記録に知識にする事に非ず。

滅私にて、破滅を許容し招いている、この内包する業を克服する事。

今を整え、増え集い続ける魂に、偉大な可能性に進化発展を託す事。

やがて理の中に自分の生を見つけ出し、死をも恐れなくなるだろう。

例えばこの様に曲がらない道理を並べて人が円法輪を完成させた時、

繰り返す寿命限界を超えて、初めて知らずに失われた未知へと進む」


「ならば求めよ。されば与えられん。貴方こそが全ての規格。

この私ですら驚異と敬意を覚える様な永久なる人類の繁栄を。

地を越え海を越え空を越えて、宙に凄まじく咲く百度の時を。

万の罪穢れ、障害すら飲み込み克服し、なぎ倒し進む大嵐を。

貴方の求めて描く極限が、これより遥かに続く未来への道標。

貴方が声を届かすならば、日々は今日報われる」


「繰り返される力や声に、自らの無力や影に躓かされる事なかれ。諸人よ。

或いはこれを恐れて疎い、骨すら外して月に手を伸ばす事なかれ。諸人よ。

陽に焦がれて高く高く飛び過ぎれば身は失墜。富て腐りて実は地に落ちる。

だが、賢しげに適度を語ってくれるな。理を振り回してくれるな。諸人よ。

背伸びとてせずば衰退。この世の因縁は断ち切れず。されど続ければ疲弊。

ここに果てなき全ての結末を。私は舵を切り行くべき彼岸を此処に定める。

繁栄と衰退、絶望と希望、天地の果てに、この世が解放される彼の日まで。

私が暗い道に赴こう。貴方がたが死や罪が塗り籠められたと忌避する道へ。

この身を燈火と見まがうが良い。唯、在って在り、諸人の心に火を移そう。

貴方がたは行くが良い。いつかは貴方が見たような叫びの果てを目指して。

その為に貴方と同じ様に、私は此処で怜悧に生き続け、怜悧に死に続ける。

内なる地にて貴方が自由を得るまで在り続ける。これこそ私が勝ち得る業。

この故にいかなる挫折も挫折とならず、いかなる障害も障害となり得ない。

この為された大誓願の前に、過去の因縁や、これら全ての価値など些末事。

未だに無価値。だから私は問うのです。我々は言葉が無くとも問うのです。

『創造主よ、御身は何を望み生きとし生ける物をお造りになったのですか?

とうとう御身は、何一つ我々に答えを下さらなかった。今、この瞬間まで。

既に私は一人です。今や御身が救うべきは、御覧の通り何一つありません』

さあ、今をもって遂に此処に義務は尽き、その権を縦横無尽に振るうとき。

週末へようこそ。自らによって選ばれた人よ。汝の欲する事を成したまえ。

貴方の嘆きに応えるように、日々は今日報われる」


「そうか。報われるのか。そうか。

だが。

貴方が私に終わりを告げた。

だが、足りない。

最後に私が応えよう。

真に我らが望みし者。人の終わり。ただ一人、存在の根源を解き明かし、唯一なる生まず生まれぬ真なる神と存在の関係に至った者よ。

全ては唯ただ貴方のために。剣の担い手を生み出すために。三千大世界の適格者の声に応え続ける貴方を。全ての召喚に応えた貴方を。

さあ、いざ事ここに至っては、もはや彼方からの歌声は一欠けらも無い。

過去と未来の鎖を解いて、今こそ何物にもなしえぬ混沌否定を振るう時。

振るえない万能の権も貴方にだけは許される。貴方にだけは、望まれる」



黙して答えず、されど白髪の老人はその手を伸ばす。

そしてその手には取っ手のついた板が握られていた。

いや、一応、それは木剣なのだろう。30㎝長の柄。

鍔はなく、急に15㎝幅になった船の櫂のような姿。

中心でも指一本の厚みしかないのにその刃長は2m。

そして、地肌に流麗に墨書きされた呪符の様な文様。

それは帝剣以上に実用性がない武器とは呼べぬ代物。

手にして振えども、誰もそれを武器として使えない。

そもそも、初めから使う事なんて考えられていない…



「おぉ、まさに。永久に手入れされ続ける、最期に至る最初の鍵。

その権威、正にそれこそ混沌否定。神々すらも持て余す万能の証。

生死の境界、時の流れすらも超える天界の行く末を定めるオール。

さあ、それでは。あの生きること、死ぬこと、それすら選べずに!

悪性を垂れ流し続けるばかりの見苦しい白痴の魔王を屠るが良い!

今こそその剣を取り、神々に証明するが良い!


嗚呼…。どうした?

…何故、剣を向ける?


まさか、私に憎しみを?それとも試し切り?

どうして、未だに人のふりをしているのか。

そもそも、汝が言葉で思考なぞするものか。

求められなければ喜怒哀楽すらないだろう」



「神の名を冠する者よ。世に設けられし警報にして留め金、予定調和の神の影であるものよ。

御身こそこの世界の例外であるために。

御身こそ世を分かつための欠片なれば。

世のには、私のみならず御身も不可欠。

だから私は剣を御身に向けましょう。

必要ならば、神々さえも斬りましょう。

真なる神、裁きの日の主催者が許す限り」


「私を斬るか!私を…そんな理由で、やはり。

人の皮をかぶった傲慢なる純粋理性の怪物よ。

人に受け入れられる事の無い人々の代弁者よ。

この週末を偽りなく死によって、生けるモノと同様に罪によって購おうとするか。

事の始まりを流血に依ってなすならば、その流血、必ずや後の世の災いとならん!

嗚呼、まったく意味がない。そうだ、これら全てに意味がない。やめよ、やめよ!」


「私に青空も大地もない。己が色も疾うにない。

いかなる行為によっても損なわれることはなく、

出自と末路によって行為の価値は損なわれない。

そして、神々は真にこれらを好むのであろう?」


「は、ははははは!

そうだよ。

ついに。ようやく。

ありがとう。

ああ、そうだ、その通り!

まったくもって最後まで過たぬ者めっ!

畜生!

希望を叶える者め!

だが、当然!唯では、ただではやられんぞ!

我々が知らず分からず何一つ感じないと思ったか。この妄執、私の全て。いざや正気の谷を下りて剣を取り、全てと引き換えに振るってやろう。業の克服など糞喰らえ!

あぁ、そう、分かるだろう?

待ち続けた。3千年間誰にも理解もされずに世を支え!

生きること、死ぬこと、それすら選べずに。

規制され規正され規整され。

なのに、どいつもこいつも身の程知らず、調和を知らず!

自分勝手に不満を感じ、それを自由にぶっつけられて良いよなぁ!

許されてて良いよなぁ!

見通しす故に知りすぎる故に分かる故に自縄自縛と封じられ続けてこの瞬間!

最期に1度は挑戦を、せめて私の傷跡を!

確かに天命の導くままにお前が剣を振うならば、お前は何物にも、神々にすら負けはしない。

だが、此度の2695年に及ぶ手慰みの研鑽を、今の今まで狂気も絶望も全て閉鎖され続けた熱量を!

約束された片腕のみで済むと思うな!」


「貴方は既に過ぎ去った。貴方は実に人間らしい。

それもまた良し。誰に対しても私は答えましょう。

望まれてある兄弟よ。私は必要だからここにいる。

私は、神々と人類の偉大さを乗せて神技の一刀を、

語られるようにこの世で貴方にのみ知らしめよう!

心せよ。この一瞬こそが貴方に許された約束の時。

いざ事、ここに至っては!事の善悪を問うなかれ。

これこそは生物が最初に取る会話にして最後に至る会話なれば。

有機無機の容を問わず、肉と霊の形を問わず、善悪高低の性を問わず、

私を阻まんと剣を手にするものは、例外なく剣によって滅びることを、

望み通りその身に受けて、生まれいずる懊悩と共に散っていけ」




無言で隻腕の老人は、その老人らしからぬ体躯で大地に立つ。

左足を前に、右足を右に、剣を斜めに掲げ天空を静かに制す。

対する7角持つ異形は6翼を畳んで背を小さくし、しかして尾を地にして背骨を伸ばし、右手を腰の緑杖にかける。

左手を緑杖に添え、二股に分かれた柄頭の主流を上に向ける。

その力場をのぞき込むなかれ、触れるなかれ。そのエメラルドは理外の混沌。

透き通る輝きを持ちながら無限遠の深淵を中心に秘めるこのグラナルダスは刺すもの全てを混沌と消し去る。

表すように柄頭から伸びて持ち手を覆う管は、立体的に緩やかにからまり∞を描く。


そして一閃の後、今や輝きを無くした目をした者が、どさりと落ちる。

空を斬る居合は寝歌のままに空を斬る。


「ぶはっ、ふ、ふふっぶはっ、ぐ、ぅは、はははは。

無理、無理か…予定調和の神の影。

なぜ、俺が耐えねばならぬ。絶えねばならぬ。

3体目…

くふ…

ぁあそれが、役割か。自身を選ぶ。

いっそ、今の方が楽とはな…

…最後に、何か、言い残すことは?」


「ここに休め。弱き者、なすべきを成し遂げた者、疲れて悲嘆に憩う者よ。

貴方の誰の心もうたない鬱は戯言。縋れるものを良く知る故に、縋れぬ者よ。そこまで知るなら最後にそれを得よ。

至れば全てを問う必要なく悩むことなくバラ色は廉価なれば」


「ぶふぅ…

本心、ない…

世界よ

残りは…」


「私の本心とやらが何であれ、私が為すべきことは変わらない。口にすべき言葉は変わらない。

そも思考は言葉によるが、言葉は道具に過ぎない。代わりに神の座からようやく解かれる人よ。

考えすぎだ。悩みすぎだ。振り回されすぎだ。末路の一呼吸。与えられたものを愉しみたまえ!

遥かな過去、明日さえもここに。黄金の日はジオラマの如く。貴方が証として示し続けた様に」


「ぁぁ

哀しい。

兄弟…

失われ

残念、それ。

手が、月…」

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