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剣を鍛えよう  作者: 長船
1/7

以前の話

一体どうしてこうなった。




つらい。

苦しい。

悲しい。



より良い未来が欲しい。皆が協力すれば良いのだろうけれども、ほんの少しだけ満足したいから道がない。それでも、幸福を願いたい。

どうして理不尽がまかり通り、絶望は突然おとずれるのか。ほんとうに小さくくだらないことで、積み上げた素晴らしきものが容易く汚され崩れ去る。このあふれる怒りを何にぶつければいいのか。

何でこんなに不公平なんだ。世界は無慈悲に平等で、生まれた時から平等でないから当たり前のように死ぬまで不公平だ。良かれとあがいた末路が地獄へ続く。



いやだ。

だめだ。

認められない。


だから私は変えられないものを受け入れた。そして私は変えられるものを変える勇気を手に入れた。ついに私はそれらを識別する知恵も手に入れた。

だが我が神よ、変えられるものなどそもそも一つもないではないか!なんぞ我を見捨てたもうや!

わが神よ!




・・・・・・・・・・・




そうだな、それでは…剣を鍛えよう。

世界を終わらす魔王、天地を創る神すら斬り下すような。


鎮まり給え、殺してやる。

良かれと思って幸いを願い、憤怒をもって冷徹に、唐突にその一切を終わらせよう。


そう、一振りでいい。ただ一振りを。

無限の存在にとって、ただ一度で全てを絶たれなければそれは唯の日常でしかない。


理不尽と絶望が、ひたすらに幸福と悲劇を繰り返す。

憤怒を以て悪行を討ち、嘲笑を以て善行を遮り、何もかもをただ一振りで無価値に平等に。


時間も、力も、無限に無限に費やそう。

その白く伸びた手は必ず月に届く。


中途半端なものを創るな。

唯々、極限を掴め。




…そして終わりを迎えよう。




・・・・・・・・・・・




「ここには全てがある。私は与えよう。とりなさい。これは貴方に残された全て」


目の前には取っ手のついた板があった。いや、一応、それは木剣なのだろう。30㎝長の柄。鍔はなく、いきなり15㎝幅の刀身になった船の櫂のような姿。最大2㎝の厚みしかないのに刃長が2mもある実用性がかけらも感じられない刀身。そして、何よりも目につくのが、削りだされた竹の様な地肌に流麗に墨書きされた呪符の様な文様。

それは到底武器とは呼べぬ代物であった。持つことができる者はいるだろう。振うこともできるだろう。しかし、誰も使えない。そもそも、おそらく初めから使うことなんて考えられていない…

素っ裸の隻腕の老人の手に唯一残されたのは、一目でガラクタとわかる物であった。



・・・・・・・・・・・



ふと、ナシテは違和感を覚え辺りを窺った。何かがおかしい。隊を指揮しながら頭の隅で考える。見ると部下たちも違和感を覚えているようだ。実験が失敗した速報はないから、何かハプニングだろうか?行進と祝砲の準備を中止し、いったん小休止を入れつつ進捗確認をするべきか…?

そう考え号令を出す直前に連絡兵が駆け寄ってきた。「ターサイバル楽長!急命です!グロウゼンクァルバ審問長並びにリャスク将軍をはじめとする各国将軍連名の急命です!『現時点より周囲の人員を可能な限り保護および協力しながら可及的速やかにノモスより撤退戦を行うこと。』です」

実験が失敗したのか!兆候すらなく速報システムも壊滅?一体、何が?いや、撤収や救助ではなく撤退戦だと!?敵がいる。しかも各国将軍連名なら、正規兵ではない。ならばテロリストの類ッ!撤退戦というからには敵は数部隊の可能性が極大!!

「全軍停止せよ!これより撤退戦を行う。敵は現時点では未知であるっ!何らかの組織の可能性が高い!伏兵に注意!可能な限り民間人を保護しながらノモスから離れるが、保護する瞬間が最大の弱点だ!制圧してから保護をしろ!人命を第1にするために、拾う命は軽く見ろッ!保護した後に扇動する伏兵を恐れろ!他国は友軍のままだが、偽装されている可能性に注意せよ。装備を整えろ!順次撤退するぞ!時間をかけるなっ!」


次の瞬間、空は緑に、大地は銀に変色した。



・・・・・・・・・・・



「ぐ、グロウゼンクァルバ審問長…スネフェルです」

周囲の機材が水あめのようにねじれて目まぐるしく形変えていく中、規則正しく脈動しながら駆動する巨大な陣の1部と化しながらも中心で微動だにせず精緻な制御を続ける初老の男に声をかけた。冒涜的な空間を呼吸し、神仏のごとき荘厳さをまとう座禅像に血が通いだす。


「スネフェル科学長か、ヴォルケリオスでいい。次元浸食範囲は最小限に抑えた。抑えたが…、ここを中心に60キロは呑まれる」

「ノモスは消滅しますか…我々は、私は大罪人ですな」

「予定調和の神の毒杯を味わっているだけだ。誰かだけが諸悪の根源というわけではない。すでに理論はあった。故に、今回スネフェル殿が提案なさらずとも、必ず誰かが同じことをする。必然だ。そして、この先に潜む未知を、いずれくる終わりを今、垣間見ることができたのだから、これはむしろ悪運なのだろう。後の人間はあれこれ言うだろうが、もし今ここで善悪を問い贖罪を求めるならば、被害を最小限にして後の世が我々を罵れるようにすることが唯一にして最大の善行だろう」

「ヴォルケリオス殿の仰る通りではありますが、それでは貴殿があまりにも。いや、とにかく、ここにいても私にはヴォルケリオス殿の力にはもはやなれません。せめて、こうなった原因だけはこの身に換えても知らせましょうぞ」

「そちら側でも原因はまとまったのか?」

「間違いなく。向こう側から際限なく力が流入し、開かれたゲートを維持・拡大していく循環を確認しました。ワープを実現するためには次元跳躍のエネルギーは突破分だけにしておき、境界突破後は拡大と維持ではなく抑制と封印の陣と術式に切り替えることが必要です。しかし、メリット以上にこの実験は危険すぎます。世界の外は、世界を破滅させるチャンスを虎視眈々と狙う負の力で満たされています。ワープのたびに、世界の破滅を天秤にかけることになります。禁忌に指定しなければなりません」

「確かにその通りだ、スネフェル殿。だが、一切の中止はできない。ここ、私の立つ世界の端から向こう側が見える。開いた次元の穴を維持し拡張している負の力は、どうも、我々人類がこれまで使ってきた魔術の反動そのもののようだ。まさに『まず初めに虚無があった。神の絶対なる力によって虚無は切り裂かれ、天と地に分かたれた』だ。だから、今回の次元突破実験で局所的に濃度が高まり世界の壁が薄くなっただけで境界を突破して流入する。分かるだろう?いずれ、大規模魔術を駆使する大戦争が勃発する。遠い未来、魔術を誰もが気軽に使える時代が来る。ならば、今この場所と同じように廃棄された負の力の濃度は必ず致死量に至り、あちら側から無秩序に門が開く。そうすれば、この世界は針に刺された風船のように終わりだ。この溢れた異世界は、向こう側の力によって引き起こされたものではない。流入した負の力とこの場の存在が対反応し、ただ原初の、神代の状態に戻ったものだ。これこそはまさに魔術を手にした人類の原罪。       だから、処理しなければ」

「それは・・・私には分かりませんが、分かりました。私は勇士を探しながら突破と連絡を試みます。ヴォルケリオス殿は…」

「大丈夫だ、問題ない。今や私こそが千曳の大岩。今は見ての通り動けない。だが、スネフェル殿が装置を遮断して下さったことにより早々に拡張現象を抑え込めた。後は意識が続く限り、縮小を加速させて被害を最小限にするだけだ。そして、もはや封印しきるまで陣の一部である私の意識が止まることはない。なにせ、この地に残留した力を覆い尽くすまでこの陣は止まらないのだから。故に、これは約束された勝利。大丈夫だ、問題ない」

「了承いたしました。それでは、ヴォルケリオス殿に始祖のごとく神の加護のあらんことを!」








「・・・・・・・神か」

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