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議論『神はいるのか?』 持てない岩、醜い世界、偽神可能性

「な、何がおかしいんですかね……」


「君の『論理』。矛盾しているね」

「えっ!?納得してたじゃん……」


「ふふっ。最初は納得してあげたよ。

じゃないと君の無防備な主張が、

スムーズに引き出せないじゃない?」


「な、何だそれ!?

……俺を騙したのか!?」


「カタツムリの殺し方。

君は殻ごと踏み潰す派?

それとも、殻から剥がして、

その隠れてた姿の全容を観察してから、

さっと塩をかけて溶けて行く様を見守る派?

私は断然後者だね……」


「そんなやつは桐恵さんしかいねえよ!!

いや、そもそもカタツムリを意味なく殺すなよ!」


「例え話だよ。

ね、カタツムリ君」


「ぐっ……」


「実に簡単な話だ。

根拠というのは、まさに柔らかい身そのもの。

否定されたら負け。

これさえ出てくれば殺すのは容易い……」


「何だこの展開!?」



「最初の疑問として聞こう。

『全知全能』。

……この概念は矛盾しているね」


「ど、どこが?よく聞く概念じゃん」


「『アレ』にものってる有名な話だけどさ。

全知全能は、

自らが持てない重い岩を作れるの?」


「全知全能の神様だったら作れるでしょ。

全知全能だもん」


「その岩が出来た瞬間、

神は全知全能でなくなる。

自ら作ったその岩を持てないのだから」


「あ、そっか!そういうことか!!」


「ふふん。

この程度の矛盾はいくらでも作れるよ。

壊せない壁でもなんでもいいからね」


「……いや、やはり神様は全知全能だった」


「というと?」


「神様が作ったその岩はとても芸術的な岩で、

地面と見事に調和している。

神はその地面と岩の調和を崩す気にならず、

岩を持ちあげる気に決してならない。

持つ気がないのは持てないと言える!

神様は持てないが、持つ能力はある。

これなら全知全能条件と矛盾なく、

持てない岩を作れる」


「へえー。考えたね。

言葉の解釈論にうまく逃げた。

そういうのは意図して使うと役に立つ。

例えばここで私が、

『持つ気がないのと持てないのは違う!』

と反論すると、

言葉の解釈のお話になる。

主題のとは関係のないところで、

議論が展開されるようになる訳だ。

日本語としてどちらが正しい意味か?と。

その議論は容易く水掛け論にできるし、

勝っても主題とは関係ない。

だから私はそこを攻めるような事は言わないよ」


「なんだよこのめがねっこ!?」


「これならどうだろう?

『全知全能の神は持つ事のできない重さの岩を作れるか?』

これならやる気が関係ない条件だ」


「……それでもできる!

神様は自分が持つ事のできない重さの岩を作った。

その瞬間、まったく同時に、

神様はその岩を持つ能力を手に入れた。

これなら全知全能条件と矛盾なく持てない重さの岩を作れる!」


「ふふん。なるほどね。

確かに一見、筋が通っているが、

君がしていることはちょっとした延命処置。

()をつけて、

条件を加えてるにすぎない。

……君は、

神様自身が持てない重さの岩を作った!

ではなく、

神様自身が持てない重さの岩を作った!(現時点では)

と言っている。

確かにその()があれば嘘ではない。

しかしね、その条件の中身を君が口に出してしまえばおしまいさ。

簡単に看破できる……。

『その時点では持てない岩を作った』

いいだろう。

ならば聞こうじゃないか。

『神のあらゆる時点、あらゆる状態で持つ事のできない重さを持った岩を作る』ことができるかね?」


「うっ!!」


「ね?できない。

ならば全知全能はここに死んだ」


「……」


鑑は反論できなかった。



「次の『論理』。

世界が美しいから、世界は神が作った。

……いやあ、

実に宗教家が言い出しそうな安い根拠だね」


「い、いや……

でも本当にそうなんだよ」


「じゃあ美しくない世界の事を考えよう。

どこかにある醜い星での、

醜い世界のお話。

そこには醜い怪物が沢山いました。

醜い怪物は紫色の多足の生物で、

目は5つあり、

ぬるぬるした体液を常ににじませている。

食事の時は口をくぱあっと開けて、

ずるずるべちゃりと音をたてて啜る。

そんな醜い怪物。

知能は人間と同程度あるがね……」


「うへー。そりゃ酷い星だな。

キモいクモみたいなもんか」


「醜い世界は暗闇の中、

じめじめとして暑苦しく、かび臭い。

風俗にまみれた町の下品なネオンのように

派手でギラギラとした光が僅かに指す。

山や地面にはブツブツとした穴が

等間隔でびっしりと開いており、

まるで蓮のよう。

なにより恐ろしい事は、

そんな風景が延々と続くというところ。

それが醜い世界」


「風景がグロ画像じゃないか!」


「そこで醜い怪物はしみじみと言う訳だ。

5つの目から涙を流しながら。

……『世界は美しい』とね」


「!?」


「何を驚いているのかね?」


「み、醜い世界のはずだろ?」


「この醜い怪物は他の醜い怪物に

『君はとても美しい』とか言うのだよ」


「それはおかしくないか?

だって醜い怪物だろ?

設定的に、『人間並みの知能』もあるんだから、

芸術を理解しているはずで、

自分達の醜さにも気付くんじゃないか?」


「彼らは醜い。

しかしね、

『その醜い姿を美しいと認識してる』んだよ。

知性とは関係なくね。

醜い怪物は、醜い怪物同士こう思うわけだ。

美しい。素晴らしい。かわいい。生殖活動したい。

5つの瞳を覗き込んで、

その輝きに感動すらするんだ。

メスの怪物のために、

オスの怪物は。

愛の詩だって書くんだよ。

それらの美的感覚は生物的に必然なんだ。

だって、自分達の醜さを正確に認識していたら、

生殖活動できないだろう?

生命活動だって支障が出る。

見るもの全てが不快だったら、

気分が落ち込むよね。

なら、醜い世界だって、

醜い怪物には素晴らしいものに見えるさ」


「でも、そんなの間違ってる認識じゃん。

自らの醜さを認識する奴は出てこないの?」


「もちろん、そりゃいるさ。

一匹の怪物は言った。

『何を言っているんだお前らは!

こんな世界、醜いに決まってる!

食べ物は腐ったじゃがいもみたいだし、

風景はブツブツして不気味!

お前らだって、

歩くたびに多足がうねうねしてて、

めちゃくちゃ気持ち悪いだろ!』

それに対し、

他の怪物たちはこう言った。

『何を訳のわからんことを言ってんだコイツ?』

『世界はこんなにも輝いているだろうが!!』

『……』

一匹の哀れな怪物は、

醜い世界と孤独に耐えられず、

首を吊って死にましたとさ……」


「オチを自殺にすんのはやめてくれよ!

怪物がかわいそすぎるだろ!

……。

でも、それが俺の主張となんか関係あるんだっけ……?」


「問題はそれら醜い怪物の世界と、

我々人間の世界。

どこに本質的違いがあるのか?ということさ」


「ええっ……」


「答えは当然『本質的違いはない』になる。

考えてみなよ。

彼らが間違っており、我々が正しいとする根拠は何だい?」


「こ、根拠……?

いや、俺らの世界は醜くないよね……?」


「それは君の感覚かな?人の認識かな?

醜い怪物だって彼らの感覚や、

認識により美しさを感じているわけだが?」


「ええー……」


「むしろ機能美で言えば、彼らの方がよほど強い。

すなわち美しいはずである。

目が多い事。足が多い事。

それらは全て生物的頑強性を示しているのではないか?」


「せ、せいぶつてきがんきょうせい……?」


「なぜわれわれは複眼を尊ばないのか?

くもの目を醜いと感じるのか?

なぜ多足を尊ばないのか?

昆虫の足に美しさを感じないのか?

そちらの方が優れたものであるのに。


「……」


「その答えは、全て人間が基準だからである。

人間の男は人間の女を美しいと思わなければならない。

人間の女は人間の男を美しいと思わなければならない。

そうでなければ生殖行動をしないから。

人間は子供をかわいいと思わなければならない。

そうでなければ子育てを放棄するから。

……。


いや、誤解のないように言うと、

これらは常にこうであった訳でもないし、

こうあるべきだと言うつもりはない。

なぜなら、それらは今の議論とは関係ないからだ。


私が言いたいのは、

美しいという認識は、

生物的必然性によって定まるような、


『不確かな認識』ではないのか?という事だよ。

知によって得られたものではない。

生まれつき備わった、生物としての感覚なのだからね。

人類存続のため、生殖と子育ては必須であり、

またそれらを行うには人が異性を美しく、

子供をかわいく思うのは生物存続として必要ということ。

それは人ではなく動物だってそうだし、

醜悪極まりない怪物だって同じ事だということ。

ならば、人類が『醜い怪物』と同じように、

美しいと認識していながらも、その実、

真実としては醜悪な姿をしているのかもしれない。


それどころか、本当は醜い怪物の方が力強い真実の美を持っており、

我々の方は貧弱で醜い姿をしているのではないだろうか。

少なくとも、

そうでないという保証はどこにもないよね」


「……」


「そうだね。私が醜い怪物のかわりに、

この世界と人類に対して宣言してあげよう。

『何を言ってるんだい?

こんな世界、醜いに決まってるよ。

美しさを神の存在の根拠とするなら、

その美しさを証明してみなよ。まるで数論みたいに』」


鑑は呆然として桐恵を見ていた。

(このめがねっこには口では勝てない。

無理だ……。

何を言ってもうまく返されてしまう……)


鑑は情けないことに、さっさと負けを認めて、

家に帰って女の子に口で負けた悔しさを、

(寝て忘れたい……)とまで思っていた。



しかし、それでも、

鑑には、この劣勢の中でも議論を続ける理由があった。

だから議論を続けることにした。

それが例え、みっともない姿であっても。


(俺がここで負けたら、

『無限幸福完全世界教』が終わってしまうんじゃないか?

俺は守らなきゃいけない。

少なくとも、塔子ちゃんが満足するまでは……)



鑑は、この話を誤魔化すことにした。


「ま、まあ色々と反論あるけどまあいいや……」


「ぷっ。い、色々と反論?い、言ってみなよ」


桐恵は腹からこみあげてくる笑いの波をこらえていた。


「……。

そこはアレとして、重要なことが1つある。

まだ反論がない主張だぞ」


「へえ~。何?何?」


(くっ!小馬鹿にしやがって……)

「俺は神様と出会った。

夢の中とはいえ超現実だったから。

完全に現実だったから!

そこはさっき認めてくれたよね?

神様と本当に出会ったのなら、神様は存在する。

なぜなら神様が存在しなければ、

出会うこともできないだろうからって。

なら俺が神様と会った以上、

神様はいる。

他の人が信じてくれなくても関係ない!」


「……」


(うっ!またこの表情か……)

桐恵は鑑のその言葉を聞くと、

ニタァ……とした笑いを浮かべた。


「君、言及してほしそうだねえ……。

その夢か現実かってところに。

確かに、普通ならそこに突っ込みをいれるだろう。

『夢なんてなんでもアリじゃないか』

『根拠になるわけない』と。

わかる。わかるよ。

君はそこで冗長な議論をしたいに違いない。

『夢といってもただの夢じゃないんだ!』

『それに夢と現実のどこに違いがあるのか。

どちらも人間の不確かな認識の上だ』

『夢の中で真実を得ることもあるじゃないか。

例えばある科学者は……』

あはははははははははは!

実にくだらない。

私にとっては夢とか現実とか関係ない。

そんなの『結論』と関係ないんだよ。

別に君が大麻を吸って幻想の中で神を見ようとも関係ない」


「に、人間の認識をどこまで認めるかって話だろ。

人間の認識はあやふやだけどどこまで認めるかという話。

例えば、

『私は考えているのだから少なくとも私の意識は存在する』

という完全に正しい認識のレベルしか認めないか?

それとも酒飲んで酔っぱらってたら、柳の下に幽霊を見たとか、

そういうあやふやな認識のレベルまで認めるか?」


「ふふ。

それは『人それぞれ』という結論に

持っていきたいのがわかってしまうねぇ。

認識はどこまで行ってもあやふやなもの。

ならばそれをどこまで認めるのかも『人それぞれ』なんだ!

あはははははははははははは!

そんなものは誤魔化しに過ぎないよ。

『人それぞれ』なんてのは、

結論から逃げる臆病者の言うことさ。

あはは。

いいよ。

大サービスで、

私は今までの議論を全て捨ててあげよう。

議論の武装解除。主張の無防備宣言。

全知全能という定義自体の矛盾を、

ここでは無視してあげよう。

さらに、

君が世界一正気であることにしてあげよう。

君は現実の中で、正気な状態で、

全知全能の神様と出会ったと『認識した』としてあげよう。


「……。

え?じゃあ俺の話を信じてくれて、

神様はいるってことでいいの?」

しかし、それでも全知全能の神がいるとは言えない。

これは人間の問題。

論理、定義の問題なんだよ」


「ど、どういうことだよ!」


「人間である限り、その知には限界がある。

人間より遥か上の存在に、全知全能の神だと言われた場合、

その真偽を知る術がない。

という問題」


「わ、わからん!」


「簡単に言うと、

『人間に全知全能の神である』と認識させるのに

『全知全能である必要がない』。

その偽の神に、

『人間に全知全能の神と認識させる程度の能力』であればいい」


「ああ……なるほど。

いや、なるほどじゃない!

人間は簡単に騙されないだろ。

これだけ人がいるのだし。

それに発展してるんだから、ある時点で騙されたとしてもいつかわかるはず」


「いいや。

偽の神に常にその可能性がある。

完全に騙されない状態を想像してみなよ?

人が全知全能を騙されずに、認識できるには、

全てを知っており、

かつ全てができる状態以外にありえない。

つまり『人が全知全能になる』しか、

この偽の神を見破れないわけだ。

逆に言えば、『全知全能でない限り、全知全能と判断できない』」


「ふぇぇ……」


「ぷっ。……何その気の抜けた声は?

もっとしゃんとしなよ」


「ひ、人は神様の一部だから神様見るとわかるんだよ。

なんか直感的にさ。きっと。うん。

そういう能力が、あるんじゃね……?」


「ははっ。

人が直感で神を見抜く能力があると?

ないない。逆の証明は簡単だよ。

それはね、宗教が沢山存在する事さ。

まさにこれだけで、

人間は元々真実を見抜く能力などないことは明らかだ。

あるのなら、1つの宗教しかないはずだろうからね。

もしくは、宗教など存在しないかだ。

むしろこっちであるべきかな?

あはははははは!皮肉なものだね。

宗教が数多く存在すること自体が、

人の認識の不確かさを証明しているのだから」


「……」


「いずれにせよ、

この偽神可能性問題を解けない限り、

君の神秘体験はまったく神のいる根拠になっていない訳だ。

なぜなら君は全知全能ではないから。

ならば全知全能の神にあったと君は判断できない」


「……」


「あははははは!これなら、

宗教家の神秘体験を全て認めてあげても、

全知全能の神がいるなんて言えないんだよ。

全知全能を認めるには、

認めた人間が全知全能である必要があり、

認めた人間が全知全能であると認めるには、

それを認めた人間が全知全能である必要がある。

これは無限に続くよ!全知全能のバーゲンセールだ!!」


「……」


「なんで黙ってるのー?反論は?」


「くぅ……」


「何その悔しそうな声?

あれあれぇ?顔真っ赤にしてどうしたの?」


「うぅ……」


「うなっていても話は進まないよー?」


「……」


「反論は?反論はないの?反論なし?」


「反論……ないです……」


「えっ?まさか、もう負けを認めちゃうの?」


「お、俺の……負けです……」


「はい、論破。

……。

ふふ。

はは。

あははははははははははwwwwww

弱っwwwwwwww

伊達君頭悪いねぇっ!!wwwwwwww


あはははははははははははははははははっ!!w

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


桐恵は鑑を指差して、

けらけらと笑い出し、

その嘲笑は10分ほど続いた。


一方、完全論破された鑑は、

落ち込むあまり、床に座り込んで顔も上げられなかった。

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