永遠に死なないようにしてください。
「ごめんなさい」
塔子ちゃんは事あるごとに俺に謝罪してた。
「鑑君のご両親がお亡くなりになられたのは、
全て私のせいなのです。私が殺したのです」
そんな訳ないだろ。
「私は親がいてはいけない子なのです。……それなのに」
どんな子だ?
塔子ちゃんがなぜ謝ってるのかを説明するととても長い。
なので、11歳までの自分の人生を簡単に年表にしてみた。
いやあ、酷いもんだね。
0歳 誕生。
3歳 隣の家に塔子ちゃんが住む。
9歳 塔子ちゃんの両親が亡くなる。
11歳 俺の両親、弟、妹が死亡。
そのため、自分と塔子ちゃんは児童養護施設に一時的に預けられていた。
塔子ちゃんはなぜか『色々な悪いこと』全てを自分のせいにした。
自分の両親の死とか、俺の両親の死とか。そういうことを全部。
「私が悪いのです」と言ってきかなかった。
そして、罰として自分を傷つけて、最後に自殺しようとしていた。
「今日はカレーらしいよ」
「そうなんですか!楽しみですね」
「ねー。久々だよねカレー」
「うふふふふ!そうですね……えい!」
塔子ちゃんは手持ちのカッターナイフで自分の脇腹を刺した。
血がドバドバ出た。
「な、何してるんだよ塔子ちゃん!?」
「ごめんなさい。私は今、人生を楽しみました。
罪深い囚人には相応しくない気分でした。申し訳ありません」
「馬鹿!そんなこと言ってる場合じゃ……先生!先生!!塔子ちゃんが……!!」
「囚人生活に喜びなどいりません。楽しさなどあってはいけません。
それでは罰になりませんからね。
毎日苦しく、辛くて、悔やんでいる。
生きること、時間を経ることが、苦痛であり、すなわち罰である。
それが大罪を犯した理想的な囚人の人生なのです」
「訳のわからないこと言うなよ!!」
「でも、誰も私を罰してくれる人はいません。
私を拷問し、最後に処刑すること。
できることならそれは唯一のご遺族である鑑君に行ってもらいたいのですが、
いくら頼んでもしてくれません」
「するわけないだろ!その話はもうやめてよ!!」
「……鑑君が罰してくれないのなら、
私が自分で自分を罰しなくてはならないのです……」
塔子ちゃん、だいぶ狂ってたね。
このせいで俺は神様がどうとか訳のわからん話をする事になった。
狂気に対抗するには……狂気しかない。
だから、自分は。
塔子ちゃんが幸せに生きていく上で、
都合のいい死後の世界と、都合のいい神様。
そして、都合のいい教えがある……。
そんな、きわめてご都合主義な、
塔子ちゃん専用の宗教を創ったんだ。
私、かみさまを本当に信じます。
ずっと信じ続けます。
だから、お願い事をします。
一生のお願いです。
パパを、蘇らしてください。
ママを、蘇らしてください。
そして、パパとママが蘇ったら……。
永遠に死なないようにしてください。
「きっと、神様は塔子ちゃんの両親を蘇らせてくれるよ」
「はい……かみさまありがとうございます。ところで……」
「ん?」
「申し訳ないのですが、お願い追加させてください!
禊君、真実さん、鑑君のご両親。お父さんとお母さんですね。
みんなも復活させてください!!
うう……欲深くてすみません……私、『かみさま』に怒られてしまいますかね?」
「ははは!かまわないよ。
どんなお願い事でも、いくつものお願い事でも、
神様にとっては同じことだから。」
「そうなんですか。『かみさま』って凄いのですね!やさしいです!」
「でも、残念ながら、
『塔子ちゃんがこのまま』だったら……。
神様は絶対に願い事をかなえてくれないね!」
「えっ!!……そんな……かみさまひどいです!
うううぅ……。
では、どうすれば……。
どうすれば、かみさまは私の一生のお願いをかなえてくれるのですか?」
「神様を尊敬して生きて行けばかなえてくれるよ」
「かみさま、尊敬してますよ……」
「そんなの、うわっつらだけだよ」
「そ、そんなことないですよ!」
「神様を信じるってことは、神様が創った世界を信じること。
そして、神様を尊敬するってことは、神様が行ったこと全てに対して敬意を持つことだよ。
本当にわかってるの?」
「うっ!そ、そういうことですか……確かに、そんなこと思いつきませんでした……」
「人は神様のもの。
だから、人だけが神様を信じることが出来る。
動物には出来ない。
塔子ちゃんは神様を尊敬するなら、
人を傷つけてはいけないよ」
「はい……でも、もともと私は人を傷つけたことなんてないですよ……あまり……」
「自分を傷つけてるよね?」
「あうぅ……ごめんなさい。ごめんなさい」
「人間はみんな神様とつながってる。人は神様の一部なんだ。
だから、人の痛みは神様の痛み。
人を傷つけたり、殺す事は絶対駄目だよ。
特に自傷や自殺は許されない行為。
もし、塔子ちゃんが自殺したら、
神様は怒って塔子ちゃんの願い事をバラバラにしてしまうよ」
「うううう……わかりました。絶対にしません……。
でも、私は自傷行為や自殺未遂を私なりに考えて正しい事だと思っていたのですよ。
すなわち、罪と罰です。誰も私を罰してくれないのなら、
私が自分を罰するしかないじゃないですか!」
「それは明確に間違いだよ」
「はうぅ……なら、私はどう生きればいいのですか……?」
「塔子ちゃんが罪を犯したと思ったら、
償いをすればいいんだよ。
それが罰でもあるし、義務でもあるんだ。
償いをせずに死ぬのは間違いだよ。誰も得しない。
世界に損失しかもたらさない。
人を殺してしまったと思うのなら、
塔子ちゃんはかわりに人を救うべきだよ。
そして、世界の損失を取り返すんだ。考えてみると当たり前だよね?
一人殺した罪を犯したから、罰として一人処刑しました。
都合、二人死ぬことになる。マイナス2。
これじゃ人類は不幸になるよ。
一人殺した罪を犯したら、償いとして一人救う。
これならプラスマイナス0さ。
もし二人救えばプラス1だろう?
こうすれば今よりもっと人類は幸福になる。
神様は教えてくれたよ。
『罪と罰』は間違い。『罪には償い』が正しい。
塔子ちゃんは自分が理想的囚人を目指しているなら、
『償いの人生』を送るべきなんだよ」
「はい……確かに、おっしゃる通りです。反論ありません。
私は人生の全てをかけて人類救済し続けることを『かみさま』に誓います!!」
要するに宗教は塔子ちゃんへのプレゼントだった。
塔子ちゃんのために作った。
塔子ちゃんが幸せに生きれるように作った。
理由や整合性なんてどうでもよかった。
真実なんて1つもいらなかった。
こうして振り返ると、本当に宗教くさくて面倒な台詞に見えるけど、
たいした考えもなく、全部その場で適当に言ってるだけだった。
神様が言ったからやりなさい。
理由はこれこれこうだからだよ、と適当な屁理屈を述べるだけ。
宗教的なお話はとても簡単だった。
それでも、塔子ちゃんは自傷、自殺をやめて前向きに生きるようになってくれた。
宗教プレゼント作戦は大成功だと言える。
しかしちょっとした副作用があった。
塔子ちゃんがおかしくなっちゃった。
まあ『元々おかしい人』なんだけど、
変な方向にますますおかしくなっちゃった。
宗教の話ばかりしたがるようになったし、
なんか何をするにも自分に許可をとろうとした。
「鑑君。鑑君。教えてください。『かみさま』にはどうしたら会えますか?」
「人を救うとはどのような事なのでしょう?」
「『かみさま』のお名前は何と言うのですか?」
「お話の途中申し訳ございません。
お花をつみに行きたいのですがよろしいでしょうか?」
「どうやって『かみさま』お祈りすればよろしいですか?」
「他の宗教とはどのようにつきあっていけば善いのでしょうか?」
自分の三歩後ろにぴったりついてきて、
とてもおとなしくなって、
自分の言うことはなんでも聞くようになった。
「他の宗教も尊重して、仲良くしてね」
「わかりました。他の宗教とは……『仲良くすれば』いいのですね?」
「そうそう」
「鑑君の言うとおりにします!」
従順な女の子。
いいものじゃないかと思う人もいるかもしれない。
しかし、自分にとっては従順な塔子ちゃんというのは違和感があった。
一歳年上の塔子ちゃんは、
今までずっとお姉さんぶって自分と接していたからだ。
自分を世話してくれたり、
花の名前とか、色々なことを教えてくれた。
少なくとも自分の意見を持っている、
誇り高い女の子だった。
施設に預けられて一ヶ月ほど経過した時。
自分の親戚の中での話し合いが決着し、
俺を引き取ってくれると言ってくれた人達がいた。
それは北海道にいる親戚のおじさん、おばさんだった。
何度か親戚の集まりで話したけど、
とっても優しい夫婦だった。
施設暮らしは悪くはないものの、良いものでもない。
おじさん達の家になら行ってもいいなと思った。
しかし、問題は塔子を置いて行ってしまっていいのかという事だった。
「鑑君。鑑君。教えてください。今日、私は何をすればいいですか?」
「お祈りして、ご飯食べて、善いことして、ご飯食べて、遊んで、ご飯食べて、
お風呂に入って、お祈りして寝ればいいよ。」
「はい!」
「……」
(この台詞、毎日言ってるんだよなぁ)
「他にはありませんか?」
「……あと、ジュース買ってきて」
「はい!」
「……」
「他にはありませんか?」
「はぁ……」
(こんなやり取りをもう何百回としてる。
これからもずっと繰り返すんだろうな。もう、うんざりだよ……)
「他にはありませんか?」
「塔子ちゃんは、そうやって毎日どうすればいいか俺に聞くけどさ。
俺の言うことなんでも言うこと聞くの?」
「はい!鑑君の言う事は全て正しいのです!だから当然、どんな指示でも従います!!」
塔子の質問にうんざりした鑑は、
いたずらの気持ちで、
塔子なら必ず断るであろう指示を出そうと思って言ってみた。
「じゃ、スカートめくってみなよ!」
塔子は間髪いれず反応した。
「はい!」
ぴらっ。
「…………」
つまんね。
こうして自分は単身、北海道に行く事を選択した。
もちろん、今でも後悔している。
なにせ、これから5年間も、
最高に仲のいい
幼馴染の黒髪ロングの超絶美少女と出会えなくなるのだから。
……。
場面は今に戻る。
今も塔子ちゃんは、昔と同じように、宗教の話を望んでいた。
泣き出しそうな顔をして。
こういう表情をされると、俺は本能的に抗えない。
笑ってほしくて、なんだってしてあげたくなる。
自分の計算では、
12歳の塔子ちゃんは俺の宗教を信じてるけど、
年を重ねれば多くの嘘がわかって、
やがては宗教をやめると思ってた。
少なくとも中学卒業の頃にはそうなると。
『勝手に成長するだろう』と思ってた。
それは、ちょっと甘い予想だったのだろう。
よく考えれば、こういうパターンもありうるはずなんだ。
だって、実際に世界中で色んな宗教が信じられているのだから。
今、確かなのは、
塔子ちゃんが現時点でも神様の話を望んでいるってことだ。
神様の存在を望んでいる。神様を信じている。
それなら。
自分は、責任を取って、
『塔子ちゃんにどこまでも付き合おう』じゃないか。
これが自分の『選択』だ。
こうなってしまったらしょうがない。
嘘を最後まで突き通す。
それが責任なんだ。
塔子ちゃんが宗教で世界を征服する、その時まで……。
いかにも『宗教詐欺師』どもがやりそうな、
適当なスピリチュアルトークで、ごまかし続けてやるぜ!!!