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『大人の部活動』

「おい!授業まだかよクソが!!」


突然、窓際の席にいる大柄な男子生徒が怒鳴った。

鑑はびっくりしたが、塔子は平然としていた。


「ふふん。また成田君ですか。いつも私たちのする事に文句ばかりつけますね!

でもね、いつまで経っても社会科の先生は来ませんよ?成田君」

「なんでだよ!!」

「二時間目は私は鑑君とお話をする予定なのです。

授業などしている暇はないのです。

成田君も強情をはってないで、素直な心で『かみさま』のありがたいお話を聞きましょう。

そして、成田君も『神言葉神教人救済世界平和無限幸福完全世界教』に入信するのです!

会費は月たったの500円からですよ!!」


「ふざけんな!!授業を始めさせろ!

クソカルト集団に俺の社会の授業を潰す権利はねえ!」


鑑は思った。正論である。


「そ、その通りだよ塔子ちゃん……。ここは高校だよ。授業再開しようぜ」

「ふふっ。鑑君がそう言うなら、そうしてもいいですよ。

先生!入ってくださーい。

生徒の皆さんもいいですよー!」


「はい!わかりました塔子先生!!」


先生が真っ先に教室の中に入り、塔子に向かって深々と一礼した。

次に生徒達が教室に入り、塔子に会釈しながらすぐに着席した。


「チッ!!」


塔子の指示に盲目的に従う

先生、生徒達を見て、

成田は無性に腹が立った。


鑑は考えた。


『成田君』は希望の光だ。

そう、まだ俺の宗教に屈してない人達がいるんだ。

彼のような人間が集まり、

立ち上がれば!

まともな学校に戻るかもしれないぞ……。


生徒達が着席し、

場が落ち着いていよいよ授業を始めようとすると、

先生が重大な間違いに気づいたかのように、ひどく狼狽した。


「ちょ、ちょっとみなさん!何をしてるんですか!!」

「先生!何がですか?」

「あなたたちは気がつかないの!?」

「へ?」

「「塔子大先生に向かって尻を向けるとは不敬ですよ!ほらさっさと席動かして!!」

「うわあ!本当だ!!申し訳ございません塔子大先生!」


と言って、生徒達は塔子に対し正面を向くように席を動かした。

先生、生徒の全ての目線が鑑と塔子に向けられていた(成田、眼鏡少女を除いて)


「何これ超怖い……」

「気にすることはありませんよ鑑君!私も三年の教室で毎日こんな感じですから!」

「ええっ……」

「では授業を開始します」

「起立!礼!」

「よろしくお願いしまーす!!」


先生と生徒達が塔子に向かって深々と礼をした。

塔子はニコニコ笑ってその様子を見ていた。

鑑はこの異様な光景を見て思った。


(やっぱり無理だこれ!!)


授業中も塔子はずっと自由にしゃべっていた。

先生は注意するどころか、

むしろ積極的に塔子の話を聞いていた。

宗教の話になると先生が質問をしてしまい、

授業はしばしば中断された。


(こんな酷い形の学級崩壊は日本でもここだけだろうな……)

と鑑は思った。@




約5時間後。

いくつかの授業を終え、学校が終わった。


「よし!帰れるぞ!」


鑑は狂気に満ちた教室から脱出できることを素直に喜んだ。


「鑑君!!」


鑑が帰ろうとすると、塔子が強く静止した。


「え?何?」

「今帰ろうとしましたよね!?」

「学校終わったし、あとは帰るしかないだろ……」

「何を言ってるんですか鑑君!部活動があるじゃないですか!!」

「まだ決めてないんだよね。どこに入ろうかなー」

「鑑君はすでに入部してますよ!ほら書類見てください」

「あ、俺の字じゃん。入部届 伊達鑑。

確かに入ってるな。書いた覚えはないけど……。

……。

筆跡が複製されてるじゃないか!?」

「文化系も体育系も誘ってね☆って言ってましたよね。

ね、かがみんさん」

「怖いよ!部名が何も書いてないし!何する部なんだよ!」

「そうですね。何をするかと言うと難しいですが……。

わりと大人の部活動ですよ」

「大人の部活動か……。

しょうがねえ参加するわ……」


鑑は『大人の部活動』という、すごくいやらしそうな単語に、

胸を期待でふくらませて塔子についていった。



鑑はこういうところは実に平均的な男子高校生だった。

すなわち、

わずかに性的なイベントには乗り気であり、積極的に参加するが、

逆にあまりに露骨なえろいイベントには気が退いてしまう。


その点、『大人の部活動』という単語は、適度に性的な響きがあり、

男子高校生の鑑は、満面の笑顔で参加せざるをえなかった。





校内を歩く間、塔子はずっと挨拶しっぱなしだった。

遠くの先生、生徒が塔子を視認すると、

深く頭を垂れて塔子が通るのを待っているほど。

一昔前の体育会系の先輩後輩のような態度。やはり異景だった。


しばらく歩くと、塔子が学校を出たので、鑑は質問した。


「あれ?部室とかに行くんじゃないのか?

もしかして学外活動なの?」

「それはまあ、大人ですからね」

「マジか……大人って凄いな!」


徒歩15分後。

野球場の前に到着した。


「ここですよ」


野球場は大人数の観客で埋め尽くされていた。

小さな野球場だったので、

観客席は満員を超え、立ち見の客でぎっしりだった。

それでも入りきらず、外にも大勢の人間がいた。


「うおー凄い人数の観客じゃん。観客席から溢れかえってる。

小さな町の野球場とは思えないね!

今日、プロの招待試合でもあるのかな?」

「違いますよ」

「じゃあライブか。どんな有名なバンドが来てるんだ?」

「うふふ。鑑君、ご冗談を!

本当は全てなにもかも……わかっているのでしょう?」

「へ?」

「看板を読んでください」


野球場には大きな看板があり、鑑はそれを読んだ。


「何々?

『神の言葉と神の教え、人の救済、そして世界平和と無限の幸福……完全な世界教』総本部。

……。

本部じゃないか!!」

「本部活動ですね」

「総本部じゃないか!!」

「総本部活動ですね」

「ここ野球場だろぉ!?」

「あはははははははは!もちろん、野球だってできますよ!」


「お、俺にここで何をさせる気なんだ?」

「私達の宗教で、世界を幸福にしてください」

「!?」

「そのために、まず1つスピーチをしてください」

「す、すぴーち?」

「鑑君が大得意な宗教演説です。

全てはあの日、あの場所で鑑君が

私に神様の言葉を授けてくれたところからはじまりました。

今では『無限幸福完全世界教』は2万人います。」

「現実的な略称だ!」(まだ長いけど)

「ですが、皆様方は私が集めた2万人です。

今は鑑君という存在を私の言葉からしか知りません。

なので、世界を統一するには、

まずは皆様いいい話をして彼らに認められなくてはなりません。

できますよね?」

「できねえよ!!」

「決まりですね!!」

「今できないって言ったよね!?」


と鑑は言ったが、実は悩んでいた。

二択の選択。

神なんていねえんだよ!と言って、

宗教の真実を告白してしまうか?


それとも……。


神様はいつも塔子ちゃんを見守っていたよ!

と言って、嘘を突き通すか?


どちらがいいのだろう。


「さあ、早く入りましょう!」


塔子に促され、鑑は深く悩みながら、

ふわふわとした気分で野球場に入った。


五分後。野球場のロッカーを抜け、

脇のベンチに入り、

鑑はグラウンドに一歩足を踏み入れた。


その瞬間。

巨大な歓声が轟いた。

スポーツや、音楽とも違う質の歓声。

観客は皆、これ以上なく真剣に塔子を見て、

それぞれの想いを叫んでいる。


ゆがみ。

宗教的熱狂さで、野球場が大きくゆがんでいた。


彼らは一体何を叫んでいるのだろうか?

と考えると、鑑はとても恐ろしくなった。


「どうしましたか?」


隣には日常があった。


ゆがみの中、ただ一人まっすぐと立ち、

塔子はいつものように微笑んでいた。その頼もしさ。


鑑は一瞬、塔子にすがりつきたくなった。

しかし、考えてみると、

彼女こそがこの『ゆがみ』の発生原因なのだ。

台風の中心が晴れているように。彼女はリラックスしている。


どんな人生を歩めば、この状況でやわらかく微笑みをもてるのだろうか?

まさに塔子こそがこの町の宗教。それそのものなのだ。


鑑は自分を取り戻し、

強がって『いつもの表情』を浮かべた。


「どこで演説すりゃいいんだ?」

「あそこですよ」


マウンドを見ると奇怪な巨大オブジェがあった。

オブジェは星や月、太陽の形をした発泡スチロールを、

ピラミッド型に積み上げたもの。

壇上へあがる道はハートの発泡スチロールでできていた。


「なんだあの謎ピラミッドは……」

「鑑君の演説のために作ったピラミッドですよ。

さあ、登りましょう」


鑑と塔子は、

2万人の鳴り止まない宗教的歓声を浴びせられながら、

原色が目に痛い発泡スチロール製のピラミッドを登った。


ピラミッドの頂点は二人分のちょっとしたスペースと、

何の変哲もない黒いマイクが置いてあった。

塔子がマイクの電源を入れて、話し出した。

その瞬間、球場に集った2万人の人間が、いっせいに静かになった。


「みなさま、こんばんは。

本日は第256回目の『無限幸福完全世界教』の集会となりますが、

定例の土曜日ではなく、平日開催の特別講演会にもかかわらず、

皆様の信仰心の厚さに私は感動しております」

「……」

(毎週土曜日にやってんの!?

休日はもっと大事に過ごせよ……)

「本日、特別講演会を開催いたしましたのは、皆様ご存知のとおり、

この世界ではじめて神の代弁者となった、今は伊達鏡さんが、

神の定めし運命によって私と同じ高校に転校し、私と再び出会い、

互いに信仰を深め、世界を愛と平和の光で包み、全人類を救済することを誓ったからです」

「!?」

(誓ってないけど!?)

「さあ鑑さん。神様の教えをみんなに伝えてください。

代弁者として。預言者として」

「えっ……!?いや……その……」


塔子は鑑に耳打ちした。

「何やってるんですか……早く聞かせてくださいよ。

心の真芯から望めば神様の声が聞こえるんでしょう?

あの時、鑑君はそう言ってましたよね……」

「いや、それは……」

「それは?」

「……ごめん、実は、あの話は……」

「ご、ごめんなさい!」

「え?」

「そうですよね。

詳しい説明もなく、無理やりこんなところ連れて来て……。

いきなり演説なんてできませんよね」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「で、でも!時間が経って、慣れたら神様のお話の続きをしてくれますよね!!」

「……」

「……」

「……」

「……もう、お話してくれないのですか……?

ねえ……お願いです。お話してくださいよ。鑑君」


塔子は今にも泣き出しそうな顔をして鑑を見ていた。

その表情を眺めていると、鑑は胸が苦しくなって、

昔の塔子を思い出した。

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