VS『パワーストーン教』その2
鑑が『パワーストーン教』を潰しに出て行ってから5時間が経過した。
鑑が無事、総本部の会議室に帰ってくる。
塔子と桐恵が出迎えた。
「あ、おかえりなさい!」
「おかえり、どうだった?」
鑑は満足げな微笑を称えていた。
「いやあ、素晴らしい経験だったよ」
塔子と桐恵は、その言葉を聞いて違和感を覚えた。
「……ん?」
「素晴らしい経験……?
一体何があったのですか?」
一呼吸置いて鑑は口を開く。
「どう?」
「え?」
「何が?」
「今の俺どうよ?」
「すみません、質問の意味がわかりません」
「なんかこうモテオーラ出てない?」
「へ?何それ?」
「強いて言うならいつも出てますね」
「だろ!実はこれパワーストーンのおかげなんだよ」
「あっ……(察し)」
鑑が上着を脱ぐと、無数の変な色の石がぶら下がっていた。
「か、鑑君!?この沢山の変な色の石はどうしたのですか!?」
「もちろん買った」
さらに鑑はカバンを開け、
ぎっしりと詰まった変な色の石を見せびらかした。
「素晴らしい……本物の輝きだぁ……」
鑑はうっとりとした表情で石を眺めていた。
「な、何をしてるんですか?こんなに無駄遣いして……」
「む、無駄遣いじゃないぞ!聞いた話によると、
これだけ大量のパワーストーンを同時に持つと、
もう相乗効果でものすごいパワーをもらえるんだよ。
だからみんな一度買うと大量に買っちゃうらしい!
集める楽しみだよ!
実際俺も実感としてあ~パワーもらっててるわ~って感じがすげえするんだよね。
これだけ買ってあれば運気がまわって、
モテモテで超絶金持ちになれるわ~」
「何を言ってるんですか鑑君!?目を覚ましてください!
そんなカバンでは教科書が入りませんよ!」
「ダメだこりゃ……」
桐恵は呆れ顔を浮かべ、首を振った。
桐恵は1つ石を手に取ると、
気を取り直し、無表情で鑑に一言放った。
「こんなの、ただの石ころでしょ。」
「ぱ、パワーストーンだよ!」
「ちなみに、これはいくらで買ったの?」
桐恵は緑色の石のかけらを持った。
手のひら小のサイズで、勾玉の形をしている。
「6万円ぐらい」
「鑑君!?」
「これはまた酷い詐欺にあったね。
これはメノウという石なんだけど、安い鉱物だよ。
原石は確かに1キロで末端価格1万円ぐらいで売ってるけど、
卸値は1000円にも満たないと思うよ。
珍しくもないただの石だしね。
物の原価は3割ぐらいが相場だけど、
こと鉱物に関してはその法則は当てはまらない。
このパワーストーンは持ってみると100グラムにも満たないし、
原材料費は90円ぐらいじゃないかな」
「マ、マジかよ……そんな馬鹿な」
「ただの石ころだと思うとありがたみもなくなりますね……」
「いや、値段なんてどうでもいいんだ!
この石には不思議なパワーがこめてあって、
持ってると運気が上がってモテモテ&金持ちになる。
重要なのはその事実なんだよ!」
「仕組みを教えてください」
「え?」
「なぜその石に不思議なパワーが宿っており、
不思議なパワーで運気が上がるのでしょうか?
その仕組みを教えてください」
「そ、それは……水晶とか昔から不思議なパワーがあるとか言われてたし?
まあ不思議なパワーから運気があがるんじゃん?」
「原理的に解っていないと言うことですね?
ならば結果から仕組みを推測してると言う事になりますが……」
「そうだよ!実際に運が強くなってる感がするからパワーストーンは効果あるんだよ」
「ふーん。では聞くけど、強運の定義は?」
「強運の定義……?」
「特に鑑君の中では定まっていないのですね。
では桐恵さん、強運を定義してください」
「運が強いと言うのは、確率が関係する事象において、いい結果を残すこと。
これでいいのかな?」
「お、おう……」
「君は『ある程度大きな回数』のコイントスをする。
そして君が6割以上の確率で表を出したら運が強いと証明された事にして、
100万円をあげよう。
逆に出せなかったら1000円もらう」
「やってやるよ!マジで運気が上がってる事を証明してやる!」
鑑は10回コイントスした。
「はい、10回7回表が出たんだが?6割以上なんだが?」
「たったの10回でしょ。7回以上表出る確率は175/1024
約17%かね」
「凄いじゃん俺!」
「いえ、偶然の可能性が高いですね」
「えっ」
「うんうん。『ある程度大きな回数』までやってもらわないとね」
「『ある程度大きな回数』か……」
鑑はしぶしぶ100回コイントスした。
「52回も表が出たんだが?」
「ほぼ5割ですね」
「52回以上表が出る確率は38.2%。よくある確率にすぎない……。
私達の間で運が強いと証明されるのは6割だと約束したよね?
はやく6割に収束するまでコイントスしなよ。
『ある程度大きな回数』まで」
「『ある程度大きな回数』っていくつだよ!」
「有限で、数学的に扱われる大きな数のことだよ」
「具体的にいくつだよ!」
「3↑↑↑3以下の数かな」
「いくつかわかんねーけどその回数までやりゃいいんだな!?」
「いえ、そこまでやらなくてもいいと思いますよ!」
「なんでだよ!?」
「それは未来の君に聞いてみなよ」
鑑はしぶしぶ3↑↑↑3回コイントスしようとしたが、
その途中で手が止まった。
「疲れた……まだその3↑↑↑3回にはならないのか?」
「全然まだですね……」
「もう何千回はやったと思うのですが」
「正確には、君は2048回やった。
まあ1%にもはるかに満たないね」
「えっ。
……もしかして滅茶苦茶大きな数なんじゃ?」
「まあ無限よりは小さいし……」
「範囲が広すぎるよ!!
もういい!これで終わり!どうだよ。何回表が出た?」
「1020回表が出てるね。約49.8%……五割切ってる。
……ぷっ。君の運、強くなってないじゃん。はい論破w」
「ぐぬぬ……。こんなのたまたまだ!」
「たまたまですか?」
「そう!たまたまなんだ。だって過程で何回も表が出る回数が多かったじゃねえか!
俺の運気なら本来6割、いや7割以上あるはずだ。
たまたま悪い方によってる時に止められただけだぁーーーー!」
「あははははははははは!それはまた、面白い言い訳だね!
まあそう言うなら、いくらでもやり続けていいよ?
ただ、その前に簡単な計算をしてあげる。
2048回コイントスをして1020回表が出ている状況だと、
最短で522回連続で表を出さないと表が出る確率6割にならない。
その確率は(1/2)^522=約7.28×10^(-158)という絶望的な確率だ。
数字で表すと、
0.0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000...728
だよ」
「!?」
「もちろん回数を増やせば確率は上がる。
無限にやればいつかはたどり着けるだろう。
しかし無限と比べて人生は短い。
普通ならまず6割に達することなく人生を終えるね……。
ここで聞こう。
君は本当にそのパワーストーンの力を信じる事ができる?
もし違っていたら、君は生涯をコイントスする機械として生きる事になるのだ。
それでもいいの?」
「うぐっ……」
鑑は自分の持っているパワーストーンを見つめた。
「今日は寝るまでコイントス。明日も朝起きてすぐコイントスして、夜遅くまでそれが続く。
君は結果を聞く。今何割だ?私達は答える。『ほぼ5割』。
君は明後日もコイントスを行う。その次の日も。来週まで。来年まで。
何十年もずっと。
そうして君は人生のある時点で……絶望するのだ。
気付くんだ。
これからずっとコイントスをして、仮に100歳まで生きたとして……ずっと表が出続けても。
それでも6割に到達しないことに。
そう!この瞬間は必ずやって来るし、
君はパワーストーンを信じたまま死ぬ事は許されない。
通常の宗教とは違い、数字の残酷さによって……君は強制的に生きてる間に気付かされる訳だ。
パワーストーンなどない。嘘っぱちだ。運気などあがらない。
自分の人生は無駄に終わったと!
そう言って君は絶望する。そんな人生。
いいかい?
……今でも、君がパワーストーンを信じると言うのならば。
今この瞬間から、ずっと……。
強運の証明に、人生のすべての時間を使ってもらおうじゃないか?」
桐絵がコインを手に取り、鑑の前にそっと置いた。
客観的には何の変哲もないコインだ。
しかし、鑑の目には、それが人生を奪う禍々しいものに映った。
「うわあああああああああああああああああ!」




