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特別作業室の中で

翌日の早朝。

司書室に司書や事務員が入ってくる。

鑑は当然のごとく、この非人道的な監禁の助けを求める。


「すみません!助けてください!俺監禁されてます!!」

「……」


鑑の悲痛な叫びに対し、

司書達はまさかの無視である。


無論、鑑は深く絶望した。

「クソックソッ!なんで俺が!俺だけがこんな目に……」

全てを諦め、聖典を書いた。



朝9時。

塔子が司書室に入り、おじぎをして挨拶する。

その深いおじぎは訓練でもしたかのような、

練度の高い自然な挨拶だった。


「おはようございます!!」

「おはようございます塔子先生!!」


司書達も起立して塔子に対し深々と挨拶した。

鑑は塔子が来てやっと出れると思った。


「おはよう塔子ちゃん!ここから出して!!」

「えへへ。皆さん、『ルール』は守られてますか?」

「もちろんです塔子先生!!」

「る、ルール?」

「これは聖典の作成であると同時に、鑑君の修行なのです!!

邪魔をしてはいけません。

特別作業室の中で、何が行われても、何もリアクションを取ってはいけません。

それが皆様のルールであり、皆様への試練です。

クリアすると人間として鍛えられます。

そして鑑君は様々な方法で皆様を誘惑しますが、

決してその誘いにのってはいけませんよ。その時点で皆様の試練は失敗になります」

「わかりました塔子先生!!」

「何言ってんの!?んなわけないだろ!!

みなさん!今のは嘘ですよ~!!俺をここから出して!!」

「……」

「……」

「無視かよ!!」


塔子が特別作業室と書かれた牢屋の中へ入っていった。

牢屋は扉が二重構造になっており、

塔子の入室とすれ違いに鑑が出る事はできない作りになっている。


「徹底したつくりだなこれ!絶対に出さないという悪意しか感じねええええええ!!」

「この構造もルールも桐恵さんが発案ですからね」

「あ、会話してくれるんだ」

「当たり前じゃないですか鑑君!

特別作業室の中では自由ですよ。何してもいい。そういう『ルール』」

「何してもいいの!?」


鑑はその言葉に朝からすごい性的なものを感じた。


「そういうのはだめですよ……」

「心読まれた!?」

「顔を見ればわかりますよ。いやらしいですね」

「少しぐらいいいだろ?牢屋の中に男女と言うシチュエーション的に」

「だめです!何を少しするつもりなんですかもう……。

ところで、聖典作成は進んでいますか?」

「まあまあかなー。通産で20ページぐらい書いた」

「凄いじゃないですか!たった一日で!!

一日20ページかければ年間7300ページかけますよ!!」

「一年間も幽閉する気かよぉ!?」


少し遅れて桐恵もやって来た。


「おはようございまーす」

「おはようございます!!」


桐恵が軽く挨拶すると、

司書達も深く挨拶をした。


「お、桐恵さんも来たね」

「桐恵さんおはようございます!」

「桐恵さんおはよう!」

「……」


桐恵はルール通り二人を無視した。


「また無視かよ!!」

「ううっ……。

ルールとわかっていても無視されると傷つきますね……」


ほどなくして桐恵も牢屋の中に入って来た。


「おはよー」

「おはようございます桐恵さん!」

「……おはよう。桐恵さんこの牢屋から出してくれよ」

「牢屋?牢屋なんてどこにもないけどなぁ?」

「それらしき施設は、全く見当たりませんね……」

「し、白々しい!!」

「あ、この特別作業室のこと?全然気づかなかった。

伊達君被害妄想激しいタイプ?」

「いやいやいや!」

「あはは。すぐにでも出してあげるよ。聖典が完成したらね」

「どう考えても500ページなんて書いてたら夏休み潰れちゃうんですが……」


鑑が弱気を吐くと、

桐恵は真剣な眼差しで鑑を見つめた。


「伊達君。覚えてる?観客の前で誓った宣言のこと」


鑑は桐恵の見慣れない真面目なその瞳にひるんだ。


「私だって君が生贄にならないよう、真剣に方法を考えてるんだよ。

この短期間で3万人から100万人にするんだ。

それは並大抵のことでは成就しないだろう。

なにせ毎週1万人クラスの珍宗教を潰したって、

1年間で52万人にしかならないのだから……」

「うっ……ごめん。そうだったわ。

俺の命のためにこれをやってんだよな」

「桐恵さんありがとうございます!そんな真剣に鑑君の事を考えてくれたのですね!」

「ごめんよ桐恵さん。俺、全力でやるわ!」

「いや、わかってくれればそれでいいんだよ。

私もできるだけ手伝うからさ。一緒に頑張ろう」

「桐恵さん優しいです!とてもいい子ですね!」

「ありがとう桐恵さん!」

「いやいや……友人として当然だよ」

(……この男の子、ちょろいねw)


桐恵は鑑を見て笑いをこらえるのに必死だった。


「ところで、進捗は?」

「凄いのですよ!一晩で20ページも書いたのです!

これなら一か月もかかりませんよ!」

「なんだ。全然いけそうじゃないか」

「いや、でももうネタないよ。メインの『神の夢』の部分を書いちゃったし」

「『神の教え』の部分を書いてよ。

それで『無限幸福完全世界教』の行動原理を決めてくれたまえ。

ただ、慎重に書いてよ?これを間違うととんでもない事になる。

戦争の大義名分になったり、医療行為の時に問題が出ないように、

数千年後にも問題のない行動倫理にしてね」

「難しすぎ!!」


それでも鑑は一生懸命書いた。

鑑が書いてる間、塔子と桐恵はおとなしく本を読み、雑談していた。


「そういや塔子。受験どうするの?」

「どうしますかね。医学部ならどこでもいいですが……」

「まあ適当にどっかに学校推薦で入っておいてよ。

『無限幸福完全世界教大学』は3年以内に作っておくからね。

初代学長兼理事長兼学生として塔子が君臨できるように……」

「よろしくお願いします」

「……」

(何を言ってるんだこの女子高生は!?)


3時間後。

時計は12時を指し、昼食の時間。


「桐恵さん。鑑君。そろそろお食事にしましょう」

「お、そうだね」

「せっかくなのでお外で食べましょう!!」

「よかったね伊達君。仮釈放だぞ?」

「やっぱり牢屋だと思ってるんじゃねーか!!」

「あっ。これはとんだ失言だね。失敬失敬」


鑑はまるまる一日ぶりに外に出れた。


「で、何食う?丼牛?丼牛?」

「全然意味がわからないんだけど……」

「業界用語わかんないかー。やっぱ素人さんには通じないかな~?」

「そんな言葉を使う業界はないから……」

「私、皆さんのお弁当作って来ました!」

「マジで!いやー久しぶりに塔子ちゃんのお弁当食べるわ」

「えっ?食べたことあるんだ。昔から仲良しなんだね」

「えへへ……。昔は毎週作ってましたね」

「泥団子無理やり食べさせられてたわ」

「苦労しすぎだよ!」

「それって幼稚園の頃じゃないですか!もう!」

(本当に泥団子食わせてたの!?)

「小学生の頃はもっとちゃんとしてました。主にホットケーキとかですよ」

「あの時点で全然母親が作ったのよりうまかったな」

「……どうぞ。これが鑑君の分です」

「お、すげー!すげえきっちり作ってある!ありがとう塔子ちゃん!」

「……」


鑑は弁当を一口食べては褒めて、二口食べては褒めた。

しかし段々と弁当を食べてると1つの疑問が湧き、

その疑問は確信になった。


『なんでこういうことができるんだ?』


鑑は一瞬怒りを感じたが、すぐに気持ちを戻した。




昼休みが終わり、鑑ら三人は特別作業室に戻った。


「ふー、久々にまともな飯と日差しを浴びたわ。

やっぱ夏は外で過ごすに限るな」

「食事や日照時間がないと人間体調崩すからね。

仕方ない仕方ない」

「管理上仕方なく俺を外に出した感じなの!?酷いわ……。

あー、あの時逃げればよかったかなー?」

「一回でも逃走してごらん。

私の直属の信者達が首輪つけて君を引っ張ってくるだろうから……」

「完全に脅迫じゃねえか!」

「鑑君。本当に大変ですか?辛いですか?」

「当然だろ!こんな牢屋に入れられてずっと文章書かされてるんだからな!」

「鑑君。なら、やめてもいいですよ」

「えっ?」

「ちょ、塔子……何を言っているのかね?

聖典がないために拡大戦略が遅滞した事は君も解っているだろう?」

「ごめんなさい桐恵さん。でも、鑑君に無理はさせたくないのです……。

かわいそうなのです」

「甘すぎ!そんな事言ったって、」

「私は丈夫にできていますので七日ぐらい寝なくても平気ですよ」

「ふーん」


桐恵は不機嫌そうに腕を組み、間をおいて鑑に問いかけた。


「で、それでいいの?伊達君さぁ……」

「え、何が?」

「君は……塔子に頼るつもり?w」


桐恵は挑戦的な笑みを浮かべて鑑を見た。

鑑は詰みだと感じた。もう、この仕事を断る事はできないと。


「んな訳ねーだろ!

大変だとか辛いとか、そんなの冗談に決まってるじゃん。

一週間どころか、十年ぐらい余裕でできるよ!」

「へ~!凄い元気な事を言うんだねぇ」

「さすが鑑君ですね。かっこいい男の子です。

でも、本当にいつでも私に交代してもいいのですよ。私は全く苦にしませんから」

「俺だって苦にならねーよ!」

「実に勇気ある発言だ。この一連の発言。私は一生忘れられそうにない。

きっと発言者もそうだろう。ね?」

「……」

(あ~あ。もうだめだ。ここまで言ったら、やるしかねえわ……)


鑑はすっかり全てを諦め、執筆に集中した。



それから二時間が経過した。

作業室の中、桐恵は塔子の太ももを膝枕にして本を読んでたが、

本を読むのに飽きたのか、ベットの上でふざけあった。


「塔子の胸は大きいね~。短編小説なら挟めるんじゃないかな」

「えっ!?ちょっと、桐恵さんやめてください……」

「逆に長編は挟めないな。ぎっちり詰まった本棚並みの圧力だ」

「何を言ってるんですか、もう!私も膝枕してもらいたいです」

「初めて膝枕してみたけど、人の頭って重いんだね~」

「ふふ。結構足が疲れますよね」


(なんだこのエロい空間は……)


鼻血が出るかと思って鼻を押さえたが、

気のせいだった。


鑑はひたすら書いた。書いて書いて書き続けた。

しかし五時。ついに書くことが尽きて悩む。


「もうだめだ。ネタが尽きた」

「弱音出るまで早っw」

「クソが……」

「何ページ書いたのですか?」

「30ページぐらい」

「ページ早くなってますね!」

「でも、もう書くことが思いつかねえわ」

「ふうん。……なら、塔子のエピソードでも書いたら?」

「あ、そういうのもいいんだ」

「もちろんだよ。教祖のエピソードは聖典には鉄板だよ。

時系列は後で入れ替えてもいいからとにかく書こう」

「でも、俺12歳までの塔子ちゃんしか知らないしな……」

「そうですね。この5年間の事、鑑君は知りませんね……」

「なら、教えてあげようよ。塔子の『慈愛』と『狂気』に満ちた伝説の数々を」

「あっ、もういいわ。聞きたくなくなったわ」

「桐恵さん酷いです!狂気部分はちょこっとですよ。別に言わなくてもいい程度の僅かなものです!」

「やっぱり少しはあるんだ……」


桐恵が足を組んで語りだす。


「塔子の伝説の1つだけど……。

塔子は待ち行く人を見れば……『自殺するかどうかわかる】」

「いやいやいや……ねえわ」

「コツを掴めば結構簡単にできますよ!」

「いやいやいや無理だろ!……無理無理絶対無理だから!!」

「私は実際、塔子のその技術を見た事があるのだけど……本当に当ててたね。

まあ私の解らないトリックなのかもしれないが、一応、彼女の説明によると……。

塔子は加点法で見分けてる」

「加点法?」

「いつも地面を見ている。小さなミスが多い。辛そうな表情をしている。

左腕に傷がある。つまらなそうに携帯を見ている。

肩がぶつかると、ものすごい表情でぶつかった相手を見る。などなど。

駅のホームとか薬屋とか海辺とかで人間を観察していた。

それら、自殺の片鱗みたいなのに点数をつけて、点数が高いと尾行していた。

自殺しなかったら点数を低くして、自殺しようとしたら点数を高くした。

それをずっと繰り返して、

今ではかなり高い精度で自殺志願者かどうかわかるらしい」

「そうです!最初の頃は失敗だらけでしたが、今は結構当たりますよ」

「何それ……本当にそんな事を何年もやってたら、

確かに答えらしきものに近づくことはできるかもな。うっすらと」

「そうそう。凄いアナログだけど、近似解法的な行動なんだよね……。

しかし、常軌を逸した精神力がないとアルゴリズム通りに人間が行動するなんてできないよね。

そういう意味ではやはり、伝説的なエピソードなんだ」

「すでに相当な量の狂気が垣間見えている訳なんだが……」

「ちょっとした根気で誰でもできますよ。

それで誰かの命が助かるのだと思えば、そんな事はたいした事ではないのです」

「塔子ちゃん……」

「塔子の自殺者説得エピソードは、何百人分もあって、全部話すと夜が明けてしまう。

なので、ここでは最初に救われた坂野さんが救われたお話をしよう」

「坂野さんの自殺未遂!懐かしいですね!

今では『無限幸福完全世界教』にとても貢献してくださってます!

この時はなんかもうピーンと来ましたね。

ゲッソリしていて、地面を見つめて、人にぶつかって倒れて、

ゆっくり起き上がっているところを目撃して『ああ、この人自殺するんだ』って思いました」

「そう。だからその時、12歳の塔子は満面の笑みを浮かべた……」

「なんで自殺しそうな人見つけて笑うんだよ!おかしいだろ!?」

「『やっと人を救うチャンスを神から頂けた。うれしい!!』って事らしい」

「おかしくないですよね。素敵なお仕事へ向かう時にはみんな笑顔です。

人間的でとても自然な気持ちですね~」

「どういう思考回路だよ!」

「それから塔子はニコニコしながら尾行した……イメージしてくれたまえ。

この町の、駅構内。フラフラと歩く初老の男性、坂野さん。

その後ろを気づかれないようについていく、12歳の塔子……」

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