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現実的な夏休みの始まりと実質的な夏休みの終わり

7月中旬。

終業式が終わり、夏休みが始まった。

強い日差しと、大きなセミの声が響き渡る中、

鏡は輪郭のはっきりした入道雲を眺めていた。


「夏休みきた!よーし何して遊ぶかなー」

「鑑君よかったですね!

これからは毎日『無限幸福完全世界教』のために、

活動できますね!!」

「お、俺の夏休みの予定が一瞬で埋まった!?」



今日の集合場所は町の図書館だった。

二人が図書館に着くと、

桐恵がすでに待っていた。分厚い本を読みながら。


「あれ?誰もいねえ!おかしいな。

夏休みは受験生が勉強してるもんなのに」

「本当ですね~。こんなに寂しい図書館をはじめてみました」

「あ、今日は貸切にしてもらった」

「図書館ってそんなサービスあるんだっけ?」

「ないよ。権力っていいよね。なんでもできるのだよ」

「高校生なのに、すでに権力におぼれているのか……」

「そうですよ桐恵さん。これはよくないことです。

私達の都合で皆様の権利を侵してはなりませんよ」

「執筆活動には環境が必要だと思ってね。まあ初日だけだよ。

それに外部には『講演会』の準備って言ってるから、

私的利用の不満も出ないさ」

「そういえば、午後5時からの予定でしたね!」

「準備万端じゃないか。

すげーぞ桐恵さん!」

「ふふ。そうだろう。

これだけお膳立てしたんだ。しっかり書いてもらうからね?」

「頑張ってください鑑君!」

「……へ?何を?」

「聖典を作るのです」

「何それ?」

「聖典っていうのは宗教の本だよ。

『無限幸福完全世界教』の神の教えをまとめた聖典を

伊達君に作成してもらいたいんだよね」

「めんどくさそう……」

「500ページぐらいでよろしく」

「む、無理無理!俺、文章書けないし!

読書感想文も全て『たのしかったです』で凌いで来たから!!」

「それは小学校3年生ぐらいから通用しないと思う……」

「えらいですよ鑑君!読書は楽しく読めればそれが一番なのです!」

「なにその甘やかし!?

……いやいや、伊達君。聖典の作成は君の義務だよ。

私達は聖典がないせいで本当に苦労したんだよ」

「えへへ……」

「どういうこと?」

「だって『無限幸福完全世界教』の目的とかルールとか、

そういうの全部口述でやってきたんだからね。

文字発明以前のやり方だったよ」

「へっ?」

「ごめんなさい桐恵さん。苦労をかけました!」

「私達が全部わかりやすくまとめて書こうとしたらさ、

塔子が『鑑君本人が書かなきゃだめ!

本人が書かないとおかしなことになるのです!』

と言って、止められたんだよ」

「私のわがままです。聖典は鑑君に書いてもらいたかった」

「私としては勝手に色々付け加えた聖典にしたかったんだけどね。

余計な財産は寄付しなくてはいけないと……」

「完全に搾取するつもりってわかるんだよね」

「いや、まあ、ごもっともと言えばごもっともなんだけど、

そのせいで文字の発明以前のスピードでしか布教できなかったんだ。

だから伊達君が転校した時点では、

『無限幸福完全世界教』は2万人……しかいなかった!」

「十分多いよ!」

「まだまだ全然足りません!」

「少ないと私も思う。

塔子の凄まじい数々の伝説からするとね」

「伝説?なにそれ」

「塔子の演説でもあったと思うけど、自殺者を説得する事。

私と出会うまでは、これに人生かけてたからね……。

私が見たのは少ししかないけど、

本当に偉いと思ったよ」

「桐恵さん言いすぎです!そんなことないですよ~///

私なんて、人として当たり前のことをしてるだけです!」

「ただそれ以上に……狂ってるなと思った」

「桐恵さん!?そんな目で私を見てたのですか……」

「それらの伝説の事を知って貰えていれば、

現時点で100万人でもおかしくない。現実に起きる奇跡の数々。

本気で歴史に残る偉人だと私は思う。

私は神は信じない。でも、塔子のことは信じてる。

と言っても現実的範囲内で、だけど」


桐恵が真顔で言っているのを見て、

鑑は怖気づいた。


「ま、マジっすか……?」


「いえいえ、そんな大したことしてないですよ~///

私の自慢と言えば、

崖飛び降り自殺セーブ数世界記録保持してるぐらいですよ~///」

「その競技、塔子ちゃん以外のプレイヤーいるのかよぉ!?」

「と言うわけで聖典作成500ページは義務だからね。よろしく!」

「よろしくお願いします!!」

「何がと言う訳で、だよ。聖典なんて作り方わかんねえよ!

俺なんて小学生の時の読書感想文だって、

『ヒロインがかわいかった』『面白かったです』レベルだぞ。

まともな本なんてかけるとは思えない」

「ははは。ここは図書館だよ。参考文献はいくらでもある。

特に新興宗教の聖典なんて、

他の聖典とか、ライトノベルとかを参考にしたら簡単さ」

「き、桐恵さん……。それは問題発言なのでは……?

書くと言ってもノートやペンも持ってきてないしな~」


スッと桐恵が鑑の前に置いた。

それは薄いノートPCだった。


「何これ?」

「プレゼント」

「マジで!?これくれるの!?ありがとう!!」

「ふふ。子供みたいに喜ぶねぇ」

「桐恵さんありがとうございます!

こんな高そうなものいただけるなんて……」

「なんで塔子がお礼を!?」

「自然と言ってしまいましたが、確かにおかしいですね……」


鑑はノートPCの電源を入れた。


「薄い!軽い!起動が早い!」

「ま、最新機種だからね。高いよーそれ。

教団の経費だから私の懐は痛まないけどね」


鑑はPCを起動し、文章を書こうとキーボードに手を置いた。

しかし、何を書けばいいのかわからなかった。


「そういえば、聖典って何書けばいいんだ?」

「そうですね。私が読んだ限りでは、神様のお話や、

宗教的教義の他にも……実際あった逸話や、

人物像などが書かれていましたね」

「そうそう。わりと何でもいいものだよ。

ただ、組織拡大という目的のため……。

一番先に書いて欲しいのは神の教えだね。

伊達君が神と出会い、対話して教えを授かったシーンをよろしく」

「ふーん。なるほどね。

じゃ、とりあえず書いてみるか」

「鑑君ありがとうございます!

必要な本があったら言って下さい。取ってきますよ。

ご希望とあれば、朗読だってしますよ!」

「マジか……」

(いやらしい本とか朗読させてえな……)


鑑は昔、自分が作った設定を思い出しながら、

淡々とキーボードを叩いていた。

そのまま三時間ほど経過。


「順調ですね鑑君!」

「意外といけそうだわ。『たのしかったです』の経験が生きた」

「さすが鑑君、文才もあるのですね。

このままずっとお付き合いしたいのですが、

私はそろそろ、皆様とお話会をしないと……」

「もう五時前か。早いもんだね」

「では、鑑君また後で」

「え?俺らは塔子ちゃんの講演会、見に行かないの?」

「ああ、うん。君はずっとやってていいよ。

どうせ、完成するまで家に帰さないから……」

「!?」

「ほら、ご両親に電話して。合宿で一週間、家に帰らないって」

「い、いきなりすぎるだろ!?」

「『忘れてた!てへ』でいいよね。伊達君なら問題ないでしょ?」

「問題ありすぎ!それに一週間で500ページなんて絶対無理!!」

「そんなの一日約72ページ書けばいいだけ。

一日18時間かくとして一時間あたり4ページ。簡単でしょ」

「何一つ簡単じゃねえよ!!」



「ふっ。そっか。じゃあ仕方ないな……。

実は、鑑君大変じゃないかと思ってね。

君が集中して作成作業できるよう、

素敵な特設ルームを用意してあげたのだよ」

「そんなのより、納期を延ばして欲しいんだがな……」

「さあ、こっちこっち」


鑑と桐恵は司書室へと移動した。


ガシャン。

鉄格子の扉が閉じ、鍵がかけられた。

司書室の端に鉄格子があり、

その中には机が1つ。

ベッドが1つあり、

司書室のトイレとつながっている。

その体裁はまるで特設の牢屋のようである。



「お、おい!?なんだよこの牢屋!?」

「牢屋じゃないよ。君のために作った作業部屋だよ。

決して、牢屋なんかではない。ただのお部屋だよ」

「じゃあなんだよこの鉄格子は!」

「君の作業の邪魔をしないように仕方なく作られた優しい鉄格子だよ。

……よかったねぇ伊達君。

一見牢屋に見えるが、全ては君の作業のために存在する。

これで余計なことはできないぞ。

作業には様々な誘惑がある。

漫画、動画鑑賞、メール、SNS、ゲーム、外食、遊び、買い物……。

そういった全ての悪しき誘惑が全て排除されているんだ。

余計なものは何一つない、言わば理想郷だよ!

君はここで本を書く、トイレ、最低限の食事、睡眠という行動だけを繰り返し、

最短で聖典を完成させるんだよ。

それが、これからの君の……人生の全てなのだよ……」

「ひ、ひぃっ!

完全にこれ拉致監禁だろ!?おまわりさん助けて!!」


鑑は鉄格子にすがりつき、桐恵に温情を求めた。

桐恵は鑑などいない様子で、何気なく時計を見ていた。


「あ、もう六時か。もう帰らなきゃ」

「桐恵さん俺をこのままにして帰るつもりかよ!?」

「だって、私は家では良い子だしなぁ……。

夕飯までに帰らなきゃ、親に心配かけてしまうよね?」

「俺だってずっと良い子だよ!!ここから出して!!」

「では、さよなら~。伊達君頑張ってね。

中身がしっかりとした聖典を500ページ書くまで絶対に帰さないから……。

それが例え夏休みが終わり、学校が始まってもね……」

「俺の夏休みが完全に終了してるじゃねえか!?」


鑑はその後、夜通し書き続けた。

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