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VS『血液型性格判断教』


鑑が車のドアを開け、後部座席に座った。

助手席に座っている、がっしりとした体格の男が鑑に話しかける。

年は30代半ばぐらいに見えた。


「おお、伊達先生。よくきてくれた!」


運転席に座っている細身の男が、後部座席にいる鑑に話しかける。

年ごろは40代に見える。


「はじめまして。私は景山といいます。

助手席の彼は守谷と言います」


鑑は知らない大人の男二人に話しかけられ、

面くらいながらも挨拶をした。


「は、はい!はじめまして!!」


「お話は塔子先生から聞いています。

今日はお一人で勧誘なさると……。

早速出発しましょう」


景山が車にエンジンをかけ、

そのまま発進した。


(そうだ。今日はこの二人に色々聞かないと

具体的に何すりゃいいか全然わからないぞ!)


「ところで、俺……今日何すりゃいいんですかね……?」


「まず『血液型性格判断教』の洗脳を解くだろ?」

「そして洗脳すればいいのです」

「シ、シンプル!」

「でも、かなり今日は厳しいぞ、伊達先生。

洗脳を解くのって本当は凄く長い時間がかかるからな」

「それを今日一日でやりきるのですから。

……できたらまさに奇跡ですね」

「え?でも、今までもやってきたことなんじゃ?」

「こんな大きい組織相手に、

一日でっていうのはやったことないな……」

「ちょっと前に同規模の珍宗教を潰しましたが、

あの時は準備に三ヶ月かけましたね。大仕事でした」

「ちょ……」

「塔子先生はおっしゃいました。

『私の救済の技術など、鑑君に比べればただの模倣にすぎない。

私は弟子で、彼は師です。

鑑君がもし戻ってきてくれたのなら、さまざまな奇跡を起こし、

私達の信仰は完成するでしょう』と……」

「言葉どおり受け止めた結果、この強行日程だ。一日で全てを終えてくれ。

……信じてるよ伊達先生」


(ええー!?話がなんか違う!!

塔子ちゃん、余計な事を言いやがって……。)

鑑は心の中で呟いた。


「ちなみに、同規模の珍宗教ってなんですか?」

「『食べてやせるダイエット教』」

「あれ以降、『信仰を共にする方々』に、

ふくよかな女性が増えましたね……」


「そりゃそうだろ!痩せたきゃ食べるなよ!」


車を走らせ20分後。

運転手はラーメン屋の駐車場に車を止めた。


「ここが最寄だな」


「ここに長時間とめて大丈夫なんですかね?」

「もちろん、話はつけてありますよ」

「通常の駐車場だと出るときに手間取る。

逃走ルートはシンプルな方がいい」

「で、あそこが『血液型性格判断教』の総本部」


運転手の景山が指差した先には、大きな施設があった。

白いドーム型の施設には、A、B、O、ABの文字が貼り付けられている。


「では、行って来てください」


「やっぱり俺一人なんですか……?」

「そうです」

「信じてるよ伊達先生」


「じゃ行ってくるか……」


鑑は車から出て、『血液型性格判断教』の総本部に向かっていった。


「すげー、気楽な感じで出て行ってたぞ。

ありゃ確かに大物だな」

「あの平常心!

とてもはじめて戦う前の人間とは思えないですね。

私だって未だにあんな態度で行動できるかどうか。

今回のことだって、緊張していますよ。

なんというか……あの超然とした態度にはある種の神々しさ感じます。

本当に高校二年生の少年なのでしょうか?」

「しかしよ。

今回、本当に伊達先生一人で行くのかよ?

信じられねえな~。

普通、チーム組んでやるものだろう?」

「いえいえ。まさか……。

実はもう何人か『無限幸福完全世界教』の

工作要員を紛れ込ませてあります。

ここらへんはまあ、いつもの通りです。

彼らは会場で、我々に有利なリアクションを取ります。

隠しカメラで会場の様子を見ながら、私が指示を出しますので」

「おお、一応サクラは混ぜてあるんだな」

「まあそれでも壇上で一人は厳しいでしょうがね。

ただ、今回はどうしても、

一人でやった風に見せないといけないから応援にはいけません」

「早坂さんの指示か?」

「そうです。彼女の演出です」

「あの娘も色々考えるね~。難しいことを……」

「お、伊達先生が施設に入りましたよ。

さて、彼は一人で、

一体どうやって『血液型性格判断教』を攻略するのでしょうか?

あれだけ自信に満ち溢れてるのですから、何か考えがあるはず。

お手並み拝見。楽しみですね」



施設に入った鑑は酷い焦りを覚えていた。


(やべー、なんも考えてないわ。

主に塔子ちゃんの胸のふくらみについて考えてた!

ヤバイヤバイ、今回も即興でなんとかしないと!)


鑑という男は基本的に適当な男で、

その場その場で問題にぶち当たり、

時には解決したが、

運悪く失敗して暴行を受けることもあった。

しかし鑑はそんな事があっても、

一時間ほどでけろりと忘れて明るく生きる事ができた。

だからいつも気軽だった。


『血液型性格判断教』総本部の受付の前。

鑑は受付の女性に話しかけられた。


「こんにちは。ご予約の方ですか?」

「いえ、すんません……俺、予約とかまったくしてないんですが、

ちょっと聞いてみたいなって思いまして。

昔からわりと興味あったんですよねー。

性格判断がすごい当たってるし、

一度勉強してみたいなって思って」

「そうですか!素晴らしい心がけですね!

……ちなみに、あなたの血液型は何型でしょうか?」

「A型です」

「やっぱりそうでしょう!

そう思いました。

お話からA型だとわかりました。

真面目な人はA型です。わかりました。

……案内しましょう。

もう講演会は始まっていますが、

席はキャンセルがあり、少しなら空いていますから」

「ありがとうございます」

鑑は握手を求めた。


「素晴らしい。礼儀正しいのはA型の特徴です」


受付の女性と握手した。

その後、ハンカチを取り出し、鑑は手を拭き始める。


「手が汚れました……拭かなきゃ」

「おお!潔癖症なところがある!

これはもうA型!完全にA型!!」


受付の女性は血液型性格判断の成功で、

気分が高揚し……珍妙な踊りを披露した。

鑑は黙ってそれを終わるまで見ていた。

とても真面目な様子で。



会場に遅れて入ると、

教祖が『血液型性格判断教』の歌を歌っていた。

それにあわせて、

講演会に参加している信者も歌っている。



(なんだこりゃ……。

くだらねー、幼稚園のお遊戯か?

……ま、俺も学校で似たようなひどい歓迎を受けたけど)


会場は満員で、人数は3000人ほど。

垂れ幕を見ると20周年記念講演会と書かれていた。


(こんな馬鹿げた事を、

20年もやってるのか……)



お遊戯的なものが30分ほど続いた後、

壇上の教祖が話を始める。

その話、約1時間。

鑑はずっとチャンスを待っていた。


「では質問のコーナーです。

皆さん、何か私にお聞きことはありますか?」

その言葉を聞いた瞬間、

鑑はビシッと手を挙げた。

その腕は真直線に伸び、顔は真剣そのもので、

無視できない空気が漂う挙手であった。


「お、元気のいい方がいますね。では、どうぞ」

司会の人間がマイクを渡しに走って来る。

それに気遣って、鑑もマイクを取りに走る。

周囲の信者にとっては、

それはとても紳士的な対応に見えた。


「私は川井創と言います。

私は高校二年生で、とても大きな悩みがあります。

私は本当に素晴らしい血液型性格判断を使って、

学校をよくしようと思っています。

具体的には、相性のいい人間だけでクラスを構成して、

争いやイジメのない学校づくりをしようと考えています」



「おお!実にすばらしい発想ですね。がんばってください。

……しかし、それだとー……一体、何が悩みなんだい?」


「悩みというのは……

血液型性格判断を信じない人間がいて、

この平和的なアイディアを邪魔してくることです」


「……なるほど」


「その論理はこうです。

『血液型性格判断には根拠がないじゃないか』と。

私は、『実際の性格が

血液型性格判断の内容と

合致してるのは見ればわかるじゃないか。

みんなが血液型性格判断ってあってるね

って思っている事が根拠だよ』

と言いましたが、それでも彼はこう反論をしてくるのです。

そんな個人の主観による曖昧な思い込みはどうでもいい。

『科学的根拠を教えてくれ』と……。

この反論に対抗するにはどうすればいいのか、

教えてください」


「実にいい質問だね……。

しかし反論は簡単。

血液型性格判断の根拠は、

生物学と統計学だ。

皆さんもご存知のとおり、

血液型性格判断はとても科学的なものなんですよ。

これでいいかな?では次の……」


「統計学?

統計学なら、偏りなく、

『ランダムにサンプルを選ぶことが絶対条件』

のはずですが……。

そんな統計学的な前提を持った調査がありましたか?」


「え?」


鑑はいつの間にか、壇上に上がっていた。


「何万人も調べたぞ」


「それはランダムに選んだ結果ですか?」


「……ネット上のアンケートだ」


「それじゃ全然ランダムじゃない。

統計学的じゃないじゃないですか」


「な、何万人も調べてるんだからいいんだろう!」



「ランダムに調べなきゃ意味ないでしょう。

例えば特定の宗教の信者を、

10万人集めてアンケートとればわかる。

神はいますか?YESが99パーセント。

NOと答えたやつは後で粛清する。

で、これが日本人の総意になるのか?

世界の総意になるのか?

なるわけがねー。

ランダムじゃなければ偏った答えになる。

そりゃ、血液型性格判断を信じてるやつは、

血液型性格判断の通りの

性格であるかのように行動するだろうよ。

わざわざネット上で

血液型性格判断のアンケートに答える人間なんて、

信じている人間、興味ある人間ばかりだろ?」


「そ、それだけじゃない!

モデルとか野球選手とか、

職業ごとで血液型の偏りがあるんだ!

統計学的に意味の有る差だと言ってたぞ!

95パーセント、そんな偏りは起きないと!

テレビでやってたぞ!テレビで!

やっぱり血液型性格判断は、統計学じゃないか!」



「ええ、そうでしょうね。

95パーセントそんな偏りは起きない。

しかし、逆に言えば5パーセントの確率でその偏りが発生する。

5パーセント。

100個の集団に対して調査をすれば、

期待値として5個の集団が統計的に意味のある差を持つ。

その5個の集団だけをうつせば、

実に血液型性格判断は不思議なものに見えるでしょう。

10件の統計学的に意味の有る偏りをもった集団を見つけるには、

200件の集団を調べればよい。

実に簡単なことですね。

これはまさに、『詐欺の手口』だ……!」


「お、おい!何やってる!つまみ出せ!!」


教祖の声に反応し、

何人かの運営側の信者が鑑に向かってきた。



(やっぱりこういう展開か……)


鑑は壇上の壁を身軽によじ登り、

5メートル上ったところで腰をかけた。

それを見て運営側の信者たちは驚き、

よじ登ろうとするがうまくいかない。

まさに烏合の衆と化していた。



(ま、俺みたいにスポーツ万能な高校生じゃねーと、

なかなかここまで登れないだろ。

しかしこの位置はいい。わかりやすい。

俺が上で、教祖が下。

上下関係が見てわかる……)


「反論できないから、暴力で話を止めさせる。

……これがあんたの正義か?」


「ぐっ……」


「他に血液型性格判断の根拠がないなら、俺の勝ち。

『血液型性格判断教』は間違いだったってことでいいかな?」


「そんなわけはない

……そうだ。免疫の話だ。

血液型の違いは抗体の違いだから、かかる病気が違う。

それによって性格も変わってくる。これが根拠だ!」



「それも眉唾だ。

血液型でかかる病気がはっきりと違うということが示されたデータはない。

弱い相関があるというデータはあるが……」

「なんだ弱くても関係あるんじゃないか!」


「それで性格は判断できない。

仮に。

抗体の違いにより、風邪をひく確率が5パーセント違うとする。

年に1回ぐらいはひくとすると、5パーセントの違いは20年に1回。

20年に1回だけ年2回の風邪をひく。

……。

そんなの人生に与える影響弱すぎ!

性格なんて変わるわけないだろ!

お前は明日風邪引いたら違う人間になるのかよ!?」

「そ、それは……」





「血液型性格判断は性格を判断することができる。

A型は几帳面!O型はおおらか!B型はマイペースの屑!AB型は二重人格のカルト野郎!

そしてその判定によって、自分はそうであると思い込み、

血液型性格判断どおりの性格に近づいて行く。そう!そういった心理学的な影響があるんだ!」

「おっ!その話を教祖自らが言っちゃったか!やっちゃったね!

それはもう最終段階だぞ。

血液型性格判断は嘘だが、その嘘によって人が影響されてるから正しいって意味だからな。

でも、血液型性格判断の話題なんてごくたーまにあるだけだ。

人生の中で親兄弟友人恋人夫妻先生先輩後輩上司部下同僚、

様々な人間と会話して、人格の評価を受けている。そちらのほうがはるかに影響は大きい。

なぜなら、単純にそちらの言葉の方が多いから。

毎日毎日血液型の話ばかりしてる人間なんかいないだろ。

なら、血液型性格判断を見て自分はそうだって思い込む影響なんて、

ほとんどない。ほとんどないなら、性格判断なんてできねえ!」

「若干変わるだろ!」

「若干の影響なら、性格判断する材料として相応しくない。

全体の80%を占める要因と

全体の19%を占める要因と

全体の1%を占める要因がある。

1%の要因で判断しちゃダメだよな」


「そんなものより他の要因の方がよっぽど影響する。

家族構成性格判断、世帯収入性格判断の方がよっぽど当たりそうなもんだな」


「ぐ、ぐぐうう~……」



「もう認めようじゃないか。

血液型性格判断教は嘘です。

そして詐欺でもありましたってね」


会場がざわつく。

教祖が悔しそうな顔をして鑑を睨みつけているが、

少なくとも、

もう議論においては決着がついているように見えた。


(しかし、ここからどうやって、

『無限幸福完全世界教』に

引き入れるのかわからねえな……)


その時、教祖の横で一人の男が耳打ちした。

教祖はにやりと笑った。



「ふう……思い出した。

そうそう、本当に科学的な根拠があった」


「ねーよ。そんなもん……」


「おお、なんという無知な男だ!

これは医者の間でもしばしば話題になる事実。

それは献血だ。

献血においてB型だけいつも足りている」


「……え?嘘だろ」


「嘘じゃない。真実だよ。

そこから見えるかどうかは知らないが、

複数の情報源がある」


「……マジで?」


「血液型が違うという事は、抗体が違うという事。

これはまさに、

『抗体の違いによる性格の違い』が、

『献血量の統計』にはっきりと出た例だ……。

おお!ここに『血液型性格判断教』は

真実であることが完全に証明された!」


鑑の頬に冷や汗が流れた。


(そんなでかいネタあったのか!

そういや桐恵さんから聞いてたな。

流しで聞いてたから忘れてたぜ)


ざわつく信者たち。

会場の雰囲気がすっかり変わり、

『血液型性格判断教』万歳!という声がちらほら聞こえてきた。


(やっべー、なんか会場の雰囲気がすっかり劣勢になっちゃったな……。

でも、この論法は教わった事があるぞ!

北海道にいた、あの『汚いおっさん』から……)



鑑は去年の夏の事を思い出していた。

鑑は去年まで北海道に住んでおり、

そこにはよく話をした中年の男性がいた。

中年の男性は、公園の青いビニールハウスに住んでいた。いわゆるホームレスだ。


(『おっさん』……)


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