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世にも珍しい、『珍宗教』


次の日の放課後。

待ち合わせは隣の町の廃墟で、

鑑が集合時間の5分前に着くと、すでに桐恵がいた。


「うわあ……なんだここ。

壁がいまにも崩れそう。怖い」

「崩れそうで怖いのなら、

崩してしまえば怖くないのかい?」

「また屁理屈を……」

「君が持つ怖れと同じさ。

怖いんだろう?

一人で宗教施設に入って、

信者どもと論戦する事が……」

「当たり前だろ!どうなっちゃうんだよ俺は!?」

「そうだねぇ……。

君が単身、宗教団体に乗り込み、

教祖の演説中に壇上に上がるとするね?

その時。君一人に注がれるのは、

会場を埋め尽くす、一万人の敵対的な視線だろう。

……はあ。

君もその一万人の敵意を浴びてみなよ……。

とても、素敵な体験だから。

ファンタジックで……」

「どこがだよ!?」

「なかなかできる経験ではないよ。

人間が磨かれる」

「そんなところで宗教のいちゃもんつけたら、

絶対叩き出されるだろ!

信者の皆さんにボコられるだろ!」

「まあ、下手したら殺されるね」

「ほらみろ!また死亡条件が増えたじゃないか!」

「君も男らしくないなー。

壊れかけの壁を恐れるのと同じだよ。

いっそ完全に壊してしまえば、恐れるものは何もない!

ぺろりと頂いてしまえばいいんだよ。

すでに宗教の信者となっているという事は、

騙されやすい人たちということなのだから。

普通の人よりも勧誘するのはずっと簡単なんだよ」

「何だよその理論は……」


塔子はずっと前に廃墟にいて、

じっと鑑と桐恵の会話を聞いていた。


「おお、なんという心温まるコミュニケーション。

鑑君と桐恵さんが仲良くなってくれてうれしいです!」

「どこがだよ!」

「伊達君。知ってる?いや、君はまだ知らないだろう」

「いきなり何の話だよ……」

「この町周辺には不思議なことに……

色んな宗教があってね。

オーソドックスなカルト宗教のほかに、

世にも珍しい、『珍宗教』があるのさ」

「なんだよそれ!?初めて聞いたぞ!!」

「オーソドックスなカルト宗教に関しては特に説明はいらないだろう。

伊達君が想像する、カルト宗教だ。

対して珍宗教というのは……」

「なんかこう……なんなんですかね?」

「変、なんだよね」

「まあ……そういう宗教もあるんじゃないか……?」

「いやいや、そうじゃないんですよ。

なんかこう……」

「変……なんだよねえ……」

「一体どういうのなんだよ?」

「信じてることがやたら貧相なんだよね……」

「そうですね……別にそれを信じてもって感じですね」

「……具体的に頼む」

「1つ例をあげると、朝の占い教」

「なんだそれ?」

「朝の占いを信じる宗教。

ほら、朝のニュース番組って最後に占いして終わるじゃないか。

あれで今日の運勢!とかいって、順位が決まる訳だ。

で、その順位が低いと何か悪いことが起きるに違いない!と言い出して、

会社とか学校とか休んでしまうという恐ろしい邪教……」

「理由つけて休みたいだけだろ!!」

「まさに日本社会に巣食う邪教ですね……私たちは戦わなくてはいけません!

即刻テレビ局にクレームつけてやめさせましょう!!」

「別にそれをなくしても、何か他の理由で休むだろ……」

「他には、トータルでは勝ってる教とかありましたね」

「ごめん。意味がわからないんだが……?」

「賭博をやる人間が入る宗教です。

統計とかはとってないんだけど、

トータルで見れば勝ってる=お金を稼いでると思い込み、

賭博をし続けるという恐ろしい邪教……」

「みんなトータルで勝ってたら商売にならないだろ!!」

「その宗教では、『誰か一部の人』が凄い負けてるんですよ!」

「その『誰か』がまさに本人だろ!」

「たまに借金もするしね」

「そこで過ちに気づこうよ!」

「それはなんか生活費とかのせいなんだよ。

……トータルでは勝ってる。彼らの教義の中ではね」

「と言った感じの、

なんというか……変な教義の珍宗教が多い」

「変というかなんというか……」

「はい。そうなんですよ……なんというか……」

「まあそれをプチッと潰して、信者を奪うんだ。

これが我々の勧誘戦術なんだ!」

「桐恵さん!言葉が悪いですよ!私達は仲良くしてるだけです。

結果的に、『無限幸福完全世界教』の

『信仰を共にする方々』が増えているだけなのです」

「いずれにせよ、ずいぶんとダイナミックな勧誘活動だな……」

「ほら、わかったでしょう?

早速やってきてください!」

「え……?俺……?」

「そうだよ!

伊達君が、まさに今日、

ダイナミック勧誘をやって成功させるのさ」

「いきなりなんて絶対無理だろ……」

「誰だって最初ははじめてです。

大丈夫ですよ。

鑑君なら最初からできると信じています。

だって、鑑君はやれば出来る子ですから!」

「まあ、珍宗教なら潰すのは簡単だよ。

明確に色々と間違ってるからね。君ならできる!」

「いやいや……」

「そういえば、今日のお相手はどこでしたっけ?」

「わりと根強くて、そして強い珍宗教だよ。

だからこそ実りも大きい訳でね。

名前は……『血液型性格判断教』」

「血液型性格判断……?

血液型ごとでこういう性格をしてるよっていう、

血液型性格判断のこと?

A型は真面目とかO型はおおらかとか……そういうの?」

「そういうのです!

血液型性格占いとも言いますね」

「これって宗教なのか?」

「宗教の定義を考えれば、宗教と言えるだろう。

血液型性格判断の主張は、

まさしく日本人の中でしか信じられていない、

迷信そのものなのだからね。

主張に何の科学的な根拠もない。

例えば、血液型によって抗体が違うという話があるが、

それによってこの性格へと変わるという主張の根拠がない。

これは、満月になったから狼になりました。

という話の構造と一緒だ。

満月なのは見ればわかるが、

それによって狼に変身してしまう科学的な理由の説明がないのだよ。

血液型性格判断教は統計学だという話もあるが、

少なくとも私は血液型性格判断において、

統計学的な統計を見た事がない。

まったく血液型性格判断を知らない国で、

無作為抽出で2000人を集めて性格を調べて有意差を出せばいいのに……。

ま、客観的に性格を調べると言うのも難しい話だが。

とにかく、『血液型性格判断』は科学の端っこにもいないよ。

『カルト宗教』と言って間違いない」

「確かに根拠は何もねえし、宗教と言えば宗教だな。

しかし、規模がでかそうだ……」

「公称の信者数は3000万人」

「3000万人!?日本最大の宗教じゃないか!?」

「想像で、勝手に言ってるだけだからね。

ほとんどの人は信じているだけで、別にお金とかは収めてない。

でもお金を払っている人となるとこまた結構な数でね……。

血液型性格判断の本がベストセラーになってることがあるだろう?

少なく見ても、10万人は超えるね」

「えっ!?ああいう本って全部、ここの人が出してるの!?」

「いや、これも勝手に言ってるだけさ。

そもそもこの宗教自体、

勝手に自分たちが『血液型性格判断教』の総本山だと主張してるだけなんだ。

でも、たまーに彼らが出した本が混じってるかもしれないね。

この宗教の実信者数は、ぐっと落ちて1万人」

「全国で開催されている合コンや飲み会のネタとして血液型性格判断を行い、

興味を持って本を読み、ネットで調べたりして。

そうやって追いかけて行って、

ついにはこの『血液型性格判断教』にたどり着いた1万人ですよ!

どっぷりと迷信につかりこんでは搾取される、

実にかわいそうな人たちです!

こんな邪教は人類のためになりません。

即刻、救済すべきですね!」

「そうだそうだ!血液型で性格がわかるだなんて、

実に不愉快なカルト宗教だ!

さっさと潰そう塔子、伊達君!!」

「なんか激しい怒りを感じるんだが……?

ちなみに二人は血液型、何型?」

「B型です!」

「……AB型だよ」

「へーそうなんだ。

なるほど。

だからか……。

ところで、俺A型だけど?(勝利宣言)」

「!?」

「!?」

「なんですかその自慢げな表情は!!」

「なんか勝利宣言みたいな口調で言われて腹が立つね……。

確かにA型は多数派で、

血液型性格判断においていいことばかり書かれてるけどさ」

「ま、俺A型だし……?(勝利宣言)」

「だ、だからなんですか!?」

「君達はB型とAB型か……

だから恨みがあるんだね(笑)。

ちなみに、俺はA型な(勝利宣言)」

「私達が私怨で『血液型性格判断教』を潰そうとしてるとでも言いたいのかね!?」

「そうやって少数派を犠牲にすることが正義と言えるのでしょうか!?

血液型性格判断教はイジメの温床ですよ!!」

「うーん……ま、

血液型性格判断もいいんじゃあないかな……?

話のネタの範囲であればね。

……俺Aだし?(勝利宣言)」

「伊達君は完全に信者だね……」

「ここに邪教徒がいますね!鑑君を叩き出しましょう!」

「じょ、冗談だよ冗談!

俺も血液型性格判断は嫌いだよ~」



……。


塔子のカバンから取り出した『血液型性格判断教』の資料が、

鑑に手渡された。


「はい。じゃあがんばってきてください」

「え?本当に俺ひとりですか?」

「……はい」

「塔子ちゃん、まさか怒ってるの?あんなの冗談だよ冗談。

俺自身、全然血液型性格判断なんて

信じてなんてないからさ~~……な?」

「むぅ~……。

私は、『血液型性格判断』をまったく信じていませんよ。

あの迷信は、本当に嫌いです……。

なぜだかわかりますか?」

「と、塔子ちゃん……」

「本当に君一人でやるんだよ。

まあ、移動用兼逃走用の運転手と、

ちょっとした護衛ぐらいはつけてあげるけどね。

外に車が止まっているだろう?

中にいる彼らはダイナミック勧誘の工作要員。

我々と共に戦ってきたスペシャリストだから、

聞けば色々と教えてくれるさ。


『血液型性格判断教』を叩き潰すために必要な知識は、

私が教えてあげよう。

でも、それを計画して実行するのは伊達君一人だ。

はやく我々がやってきたことを

君がやれるようにしないといけないからね。

でなければ真の仲間にはなれない。

そうではないかね?」

「そうだな~。

じゃ、とりあえず行ってくるわ」

「!!

ありがとうございます!

血液型性格判断教と仲良くなって、

その邪教の教えを全て完全に一部の隙もなく正してください!!

頑張ってくださいね鑑君!」

「わかった。俺にまかせろ!!」


鑑は廃墟から出て行き、車に乗った。


「鑑君潔いですね~~。

初めてのダイナミック勧誘に対して、

もっと不安に感じると思っていました。

やっぱり鑑君はすごいです!」


「そうだねえ……かなりの自信家なのか、

よほど度胸があるのか」

(……まあ、せいぜいがんばれ伊達君)


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