悪夢の引替券
「この悪夢さえ消え去ればいい」——そう願った少年が怪しげな駄菓子屋で手に入れたのは、嫌な夢を他人に押し付けられる1枚の券。
恐怖から解放されたはずの少年を待ち受ける、完璧な選択の思わぬ代償とは。
古ぼけた駄菓子屋で、少年は「悪夢の引き換え券」を手に入れた。店主はニヤリと笑う。
「これはな、お前が見たくない最悪の夢を、代わりに誰かへ引き渡せる券だよ」
少年は大喜びした。毎晩自分を苦しめる、巨大な怪物に喰われる悪夢。彼は券に、自分をいじめるクラスのボス・タカシの名前を書き込んで眠りについた。
翌朝、少年はすっきりと目覚めた。作戦は大成功だ。浮かれて登校すると、タカシの席が空いている。怪訝に思う少年の元へ、担任が青ざめた顔で歩み寄ってきた。
「〇〇君、落ち着いて聞いてくれ。昨晩、タカシ君の家で火事があってね……彼、君の名前を叫びながら暴れて、逃げ遅れたんだ」
少年は息をのんだ。そして、ふと思い出した。
自分が毎晩見ていた悪夢——それは、炎の中で巨大な怪物に喰われる夢。夢の中で少年を喰らっていた怪物とは、恐怖に狂い、必死に助けを求めて自分にしがみついてくるタカシ自身の姿だったのだ。
引き換えたのは「夢」ではない。
今夜からタカシが見る現実の地獄の特等席を、少年は自ら「引き換えて」しまったのだ。
【了】
本作をお読みいただきありがとうございます。
「自分を苦しめる悪夢を誰かに押し付けられたら」というふとした想像から生まれたショートショートです。
便利で魅力的に思える「甘い話」ほど、裏には恐ろしい対価が隠されているもの。少年が真実に気づいた瞬間のぞっとする絶望感を楽しんでいただけたら幸いです。
またどこかの怪しい店でお会いしましょう。




