この邸宅の主
ラリーさんに付いて玄関ホールに足を踏み入れると建物の大きさと重厚感でこれは生半可な貴族邸ではない事がわかる。
建物自体もそうだが、置かれている装飾品の品の良さや優雅さに私などが足を踏み入れていいような家ではない事を痛感する。
「ジュリアン様、本当に私などがご一緒して大丈夫ですの?
どう見ても場違いです」
私は家の凄さに尻込みをして、そっとジュリアン様に尋ねます。
「うん? なんで?
気にしなくて大丈夫。ここの主は細かい事を気にしないから」
ジュリアン様はキョトンとした表情をしていいます。
そんな顔も美形の方は様になるのですね。
「で、ですが…」
そう言われても、私は気がきではありません。
「ステラ様。
ジュリアン様のおっしゃる通り、我が主人は肩書きなどで人間関係を構築しない方ですので、自分が興味をお持ちになれば例え庶民の者でも親しくなさいます、ですからあまり緊張されませんよう」
とラリーさんも言ってくれます。
先程名前しか名乗らなかったから、私は庶民の娘だと思われているのかな。
まあ婚約破棄され、伯爵家とは関係ないし、家に入れて貰えなければ子爵令嬢も名乗れないかも知れない…
この後、この邸のご主人様にご挨拶する時、なんと言えばいいこか…
どうしましょう。
「すいません、凄いお宅なので気後れしてしまって。
もう、大丈夫です」
と2人に謝り、また歩き出しました。
一際大きな両開きの扉の前でラリーさんが止まり声をかけました。
「旦那様、お2人をお連れしました」
そう言って扉を開けてくれました。
私達は促されて部屋へ入ります。
トーンの落ちた赤色の絨毯が敷き詰められた大きな部屋の奥にはこれまた大きな暖炉があり、その近くに10人は座れそうな応接セットが置いてあります。
手前の窓際に書斎机が置いてあり、その傍らにご主人であろう男性が佇んでいた。
旦那様と呼ばれたその方は存外にもお若く見えた。
ジュリアン様といくつも変わらないのではないかしら?
そんな事を思いながら知らず知らずの内に私は不躾にもその方を見つめてしまいました。
部屋の中で佇む旦那様と言われるその方はサラサラの黒髪にサファイアの様な瞳。
とても物腰の柔らかそうな雰囲気で、ジュリアン様とはまた違ったタイプの美男子です。
「どうぞ暖炉のそばへ」
と奥のソファーへ勧めてくれた。
「はじめましてステラ・アンダーソンと申します。
いきなり押し掛け、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いや、ジュリアンが無理に連れて来たのでしょう。
それにあなたには随分迷惑を掛けたようだし」
とジュリアン様を見ていますが相変わらず悪びれずニコニコとしています。
「申し遅れました。
アルフォンス・サン・ジュストです。
ジュリアンは従兄弟で兄弟の様に育ちましたから、まあここも彼の家の様なものだから、気にしないで下さい」
「サン・ジュスト… え?公爵様…」
私は血の気が引く音が聞こえた気がしました。




