第14話 新枠解放!「鳥類」の癒やし
新居での生活が始まってから、十日ほどが過ぎた。
カケルの日常は、驚くほど規則正しいものになっていた。朝、窓から差し込む光で目を覚まし、茶渋やワサビ君たちと軽く触れ合う。市場で買った素朴な朝食を済ませると、ギルドへ向かい、無理のない範囲で薬草採取や小型魔物の討伐依頼をこなす。
派手な冒険ではない。だが、地道な積み重ねは確かな数字となって現れた。
その日の依頼も、あと少しで終わるはずだった。王都近郊の草原で、カケルは足元へ飛び込んできた獲物を、ワサビ君の正確な【舌撃】が貫くのを静かに見守る。
『対象:ホーンラビット(Fランク)の討伐を確認。』
『召喚獣:ワサビのレベルが8に上昇しました』
『召喚獣:茶渋のレベルが10に上昇しました』
『オーナー:カケル・モリシタの召喚士レベルが4に上昇しました』
『新たな召喚枠「鳥類」が解放されます』
脳内に響いたのは、いつもの透明な響きだった。だが、最後の一文を聞いた瞬間、カケルは思わず拳を握った。
「鳥類……ってことは、あの子たちをどちらも呼べるのか!?」
期待に胸を膨ませながら、カケルは足早に新居への路を辿った。かつての家で、賑やかに、柔軟に過ごしていた翼を持つ家族たちの姿を思い描きながら。
新居に戻り、一息つく間もなく、カケルは新たな召喚の意志を込めてその名を呼んだ。
「……おいで、キンカチョウたち!ピー太郎、ピー次郎、プー子、ペー子!」
まず現れたのは、四つの小さな光の粒だった。
パッと光が弾けると、そこには手のひらに収まるほど小さな小鳥たちがいた。
「ああ……! 会いたかったぞ、お前たち! 相変わらず、なんて元気なんだ!」
カケルは込み上げる喜びを爆発させ、弾んだ声を上げた。かつての日常を彩っていた愛らしい姿が目の前にある。その事実に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
オレンジ色のチークパッチが可愛らしいオスが二羽。そして、地味ながらも上品な色合いのメスが二羽。尾羽のゼブラ模様を震わせながら、彼らは「ペー、ペー」と、猫のような鳴き声ともいわれる独特な可愛い声を上げ、新居の天井付近へと一気に舞い上がった。
続けて、カケルはもう一羽を呼んだ。
「ほっぺ、おいで!」
現れたのは、立派な冠羽と鮮やかな赤いほっぺが特徴的な、一羽のオカメインコだった。 ほっぺはカケルの差し出した手に慣れた様子で飛び乗ると、首を傾げて「ホッペチャン! オハヨウ!」と、少しおどけた声で挨拶をした。かと思えば、口笛のような音色でカケルが教えた『幸せなら手を叩こう』のメロディを器用に奏で始める。
その絶好調な様子に、カケルの視界がじわりと滲んだ。元気な姿を再び見られたことへの安堵と喜びが、胸の奥から込み上げてくる。
カケルは、彼らの能力を確認するためにステータスを表示させた。
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【召喚獣詳細】
名称:ピー太郎・ピー次郎・プー子・ペー子
種族:キンカチョウ
レベル:1
【固有スキル】
・索敵:半径50mの範囲を分担して飛び回り、脅威が近づくと知らせる。
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【召喚獣詳細】
名称:ほっぺ
種族:オカメインコ
レベル:1
【固有スキル】
・呼び寄せ:鳴き声で格下の魔獣をおびき寄せる。
・物真似:聞いたことがある音や魔獣の鳴き声を模倣。
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「【索敵】に、【呼び寄せ】か……向こうにいた時より、ずっと頼もしく感じるな。これなら効率よくレベル上げができそうだし、新しい場所に行く時も安心できる」
カケルはふと、天井付近を飛び回るキンカチョウたちを見上げた。
「……でも、この子たちは喋れないよな。どうやって危機を知らせてくれるんだ?」
独り言のような問いかけに対し、脳内にあの無機質な響きが返ってきた。
『【索敵】の結果は、システムの名前がナビゲーターです。私があなたにお知らせします。半径50m以内の脅威の距離、方向、および強さを解析し、随時共有が可能です』
「なるほど、至れり尽くせりだな……。それともう一つ。もし外に連れ出した時、あの子たちが遠くに飛んでいって、そのまま逃げてしまうことはないか?」
『召喚獣は、オーナーから一定以上の距離を離れると、自動的に送還される仕組みになっています。迷子になる心配はありませんので、ご安心ください』
「そっか。それなら安心だ。頼りにしてるよ」
天井付近に張り巡らせた蔦の間を、四羽のキンカチョウが小さな矢のように飛び交う。ほっぺは梁の上に陣取ると、冠羽を立てて部屋中を興味深そうに見渡している。
茶渋は新しく増えた「同居人」たちを、敷物の上からやや興奮気味に眺めている。ワサビ君もまた、高い場所で羽を休める小鳥たちに片方の目を向け、のんびりと体色を落ち着いた緑に保っていた。
四羽のキンカチョウたちは、天井の梁とカケルの肩を忙しなく往復しては、耳元で愛らしく囀る。
ほっぺはカケルの指先に止ると、頭を低く下げて「カキカキ」をせがんだ。カケルが優しく指の腹で撫でると、彼はうっとりと目を細め、幸せそうに冠羽を寝かせた。
カケルは掃除の終わった床に広げた厚手の敷物に座り、その様子を静かに眺めていた。
「……いいな、この感じ」
全力で愛情をぶつけてくる茶渋も愛おしいが、この小鳥たちのような「ただそこに命がある」という、勝手気ままながらも温かい距離感が今のカケルにはたまらなく心地よかった。
鳥たちの賑やかな囀りが、静かだった廃屋を本物の「家」に変えていく。カケルはその音色に身を委ねながら、異世界で得た新しい家族たちの輪の中で、深い安らぎを感じていた。




